第27話 絶望、そして再生 ①

翌朝、ヒカリは、シーラにお礼を言うと、その場を逃げるようにそそくさと去った。


シーラ達は自分を引き留めようとはしていたが、もう、これ以上、迷惑は掛けたくは無い…


自分のネガティブな感情で、迷惑は掛けたくは無い…


「ヒカリちゃん!」

後ろを振り返ると、そこには眉をひそめたシーラの姿があった。

「シーラさん…?」

「ここは、危ないわ。妖樹がウヨウヨいるのよ。レティーからも止められてるわ。」

「心配してくれるのは良いですが、私は大丈夫です。」

ヒカリは、はにかんだ笑みを見せた。

「駄目よ。貴女には、危険過ぎる…」

シーラは、強く首を横に振った。


ーと、その時だった。

シーラの動きが、急に止まった。

辺りの木々の枝の葉も、風に揺れずにピタリと止まる。


落ちていく筈の木の葉も、見事に止まっている。


辺りが、エメラルドグリーンのシールドに包まれる。


人の気配がし、ハッとし振り返る。


そこには、モルガンの姿があった。


「ヒカリちゃん。」

「モルガンさん…どうしてここに…?」

ヒカリは、首を傾げた。

「それは、この世界は私のシナリオ通りに動いているからよ。」

「シナリオ…?」

時折、感じる既視感や違和感の原因は、それが原因だったのだろうか…?

「私もレティーも結構昔からあるソフトでね。対ウィルス用に作られたキャラクターなのよ。」

「それ、どういう事ですか?」

矢張、ここはゲーム世界なのだろうか…?

リアリティ溢れる世界だから、何の違和感も感じられなかった。

「ここは、前世のヒカリちゃんが死んでから1300年程経ったゲーム世界よ。そして、私達はこの世界の番人でシグマと呼ばれているの。言わば、この世界の調律師で、平和を守ってるのよ。」


モルガンは、優しく語り始めた。


「1300年…!?そんなに経ったんですね。」


ヒカリは、驚愕する。

前世から、こんなに経っていたのか…?


そう言えば、『バルバロネが1000年間支配してる』とレティーと時計屋が話していたのを覚えている。


世界初のゲームは、1912年代だ。しかも、それはこの世界とは全く異なる世界観のものであり、このような世界観のゲームが開発されたのは、1980年代に入ってからである。


だとしたら、1000年以上経たないと辻褄が合わない。


「レティーは、ウィルスを殺す為に、私はウィルスを浄化する為に開発されたソフトよ。それぞれ役割は違うの。それが、性格の違いに現れていてね。対称的で面白いでしょう?」


モルガンは、頬に手を当て首を傾げスリと微笑む。


「…そうだったんですね。」


そう言えば、あのウィルスにかかった時の事だ。

レティーが、看病の際、自分を抱いた時、奇妙な違和感があった。身体の芯にある何かが、すっと抜けて軽くなる感じなのだ。

あの時、ウィルスは燃やされて居たのだろう。


「レティーは、抗ウィルス用のソフトだから、少しでも怪しいと感じた者に対しては、情け容赦ないのよ。人間の世界でいう、白血球の役割があるから。だから、彼女は正義感が強くウィルスを強く憎んでいるのよね。まあ、言ってみれば、サジタリウスのメンバーは全員、シグマで抗ウィルス用のソフトなのよね。ウィルスにかかった者は殺すようにプログラムされているのよ。皆、強く使命に燃えてるの。そして、住人から恐れられるような存在じゃなきゃ、ダメなのよ。」


彼女のその言葉に、頭が混乱してくる。

「貴女達、シグマは何処から生まれてきたんですか?」

「私達は、生命の樹から生まれたのよ。世界の規律と安寧を守るようにプログラムされたのよ。」



「…」


「これで、ようやく二人きりだね。時間は永久に止まったまま。私が解除するまではね。」


モルガンは、再びニッコリ微笑んだ。


「モルガンさん、ギールさんが好きだって言っていたじゃないですか…?」

「私が、あんな筋肉バカを好きになる訳無いでしょ?私は、ヒカリちゃんにしか興味無いのよ。」


じゃあ、あの、モルガンに対して感じた既視感は…


「何か、頭がこんがらがってついて行けません…」

ヒカリは、頭が痛くなってくる。

「私は、シナリオを創ったの。ずっと、。二人だけの世界になるようにね。」

「シナリオ…?」

「ええ。侵入してきたウィルスを強化したのも、私よ。この世界では、せいぜい、シータ止まりね。だから、私が進化させたの。VXに進化させるのには手こずったけどね。強大なエネルギーが必要になるし、養分が必要になるなら。」

ヒカリは、ハッとした。

「じゃあ、あの狼や妖樹もウィルスなんですか…?あの、茨を仕組んだのも、大会の時のVXも、あの不気味な仮面も…」


「そうよ。勘が良いのね。皆、貴女と周りを隔離する為のものよ。特に貴女とレティーを引き離したかったのよ。あの演技は、大変だったわ。筋肉バカを好きなフリをするのも、貴女とレティーに怪しまれない為のものよ。レティーは、勘がかなり良いからね。前々から準備していたわ。ヒカリちゃんを護る為よ。そして、ずっと私と二人きりになる為のね。」


モルガンは、不気味なまでの満面の笑顔を見せヒカリに近付く。

ヒカリの全身に寒気が走る。

彼女は、いつものモルガンじゃない…


「サジタリウスの一味を殺したのは、貴女ですか?」


「それは、してないわ。私は、ヒカリちゃんを脅かす存在以外には、手をかけないようにしてるのよ。怪しまれたくないからね。」

「じゃあ、それはキボウが…?」


「そうよ。キボウがウィルスをばら撒きサジタリウスにウィルスをばら撒き解体したの。キボウは、エラーソフトよ。」


「どうして、私がキボウとそっくりなんですか?」


「それは、私とひかりさんとでそうプログラムしたから。貴女に色々プログラミングしたのよよ。力が発動するのも、その発動する条件もー」


あの時、ネガティブな感情が湧くようにしたのも、モルガンの仕業なのだろうかー?


「何の為に…?」


「貴女を、周りから引き離したかったのと思い出して欲しかったのよ。」


モルガンは、胸に両手を置いた。


「…!?」

モルガンのその雰囲気に、ふと、思い出した。


かつて仲良くしていたひかりお姉さんの、親戚の女の子だ。

名前は、確か『ミオ』って言った。


「ヒカリちゃんが、私を助けてくれたから、凄く嬉しかった。だから、ヒカリちゃんの魂をこの二人だけの邪魔の入らない世界に転生させ二人だけで暮らしたかったの。私は、何がなんでもヒカリちゃんとファンタジアに転生したかった。だけど、ギノムの住人…言わば外の世界の住人の魂をゲーム世界に転生させるのは、凄く難しかったの。だから、エラーが起きて私の魂だけファンタジアに転生してしまってね…」


「じゃあ、私を殺したのは…」


「それは、私よ。私は、ヒカリちゃんと一緒に居たかったから。幻覚見せて殺したの。」


「そうなんですね…」


混乱とショックとで、頭が強くきしんでくる。


「ヒカリちゃんの魂が眠ったままな時は、凄くショックだったわ。ヒカリちゃんは、魂がずっと眠ったままだったから、私は度々貴女の夢の中に現れては、ずっと語り続けていたのよ。」


転生する前、ずっと長い夢を見ていた。


時折感じた、モルガンに対する既視感は、こういう事が原因だったのか…?


「ずっと、ヒカリちゃんと二人きりで話したかった。何の邪魔する者も脅か存在も居ない世界で…」


モルガンは、純真な笑みでヒカリにちかづいてくる。


だが、その笑みは何処と無く歪んで居るようであり、ヒカリの身体の芯から冷や汗が流れ出てきた。

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