第62話 ドワーフの里の狩り場ダンジョン
ピコピコでのドーネルさん達との交流会から、さらに数日後――
「フーワと――」
「……ドワワの……」
「牛狩り見学ツアーッ!!」
ドワーフの里の広場で繰り広げられる、パフォーマンス。
パフパフとラッパを鳴らし、紙吹雪を散らすフーワさん。
ドワワさんは、何やらカワイイ機械に乗っている。
卵型の操縦席に手足がついていて、幼児アニメのロボットみたいだ。
「いやはや、すみません……どうしてもやるって聞かなくて……」
「いえ、面白くて良いと思いますよ」
二人の派手な演出を、申し訳なさそうに説明するドーネルさん。
これはどう見ても、フーワさんの提案だろうな。
「ドワーフの方たちって、愉快な方が多いのね」
「パテルテ、今日はよろしくな」
軽く拍手をしながら、同行者のパテルテが俺たちに近づく。
ピコピコとドワーフの里を繋ぐ道の件で、マリカ様とトルトは偉い人たちとお話し合いに行ってしまった。
そのため今日は、パテルテが同行してくれることに。
「もちろんよ。マリカ様の代わりに、ちゃんと守ってあげるから。安心してよね」
「ああ、頼りにしてる」
最近は学園の運営側の仕事も、頑張っているパテルテ。
心なしか雰囲気も少し、しっかりしてきた気がする。
そして今回の助っ人は、冒険者ギルドからも――
「グラトニーさんとギル君も、よろしくお願いします」
「おうよ! 任せときな!」
「ガンバります!!」
上機嫌なグラトニーさんと、気合十分なギル君。
騎士を目指しているギル君は、今はグラトニーさんについて修行中らしい。
なんだか、昔のラディルを思い出しちゃうな。
「それじゃあ皆さ~ん! 出発しま~す!」
ノリノリのフーワさんたちを先頭に、ダンジョンへ向かう。
里の広場から続く、トンネルのような洞窟を進んでいく。
「あ、光が見えてきましたよ!」
「あの先が、狩場になってるのさ」
しばらく進むと、出口の光が見えてきた。
外は青空のもと、草原が広がっているようだな。
「わぁっ! 外だ……って、アレ?」
「どうしたギル……うおっ!? トンネルの穴が、何もない空間に……」
ドワーフの夫婦と共に出口を出たグラトニーさんとギル君が、驚いたようにトンネルの方を見ている。
俺も出口を出て振り向いてみると、トンネルへの道だけがワープゾーンみたいに宙に浮いていた。
魔法のバックヤードへ扉と、同じ感じだな。
「ここは本来の外の世界ではなく、星巫女様のお力で作ったダンジョンなのです」
「へぇ……空や川もあって、普通の平原みたいだ」
遠くまで続く平原に、ちらほらと草を食べる動物の姿。
優しい風が吹いていて、ひらひらと蝶も舞っている。
こんな広い世界が、俺にも作れるのだろうか?
あたりを見回しながら、ドーネルさんに質問する。
「ここと同じようなダンジョンを、俺も作れるんでしょうか?」
「ええ、おそらく。ただし――」
「おおっと! 良い感じの牛を発見っ!!」
突然、フーワさんが大きな声が響く。
どうやら狩りが始まるらしい。
「いけ! アンタ!」
「まかせとけ!!」
ドワワさんの乗る兵器が、両手に大きな牛刀を握る。
二刀流の兵器は、近くで草を食べる牛に襲い掛かった。
「どりゃぁぁぁぁっ!!」
牛は逃げる間もなく、ドワワさんの兵器の餌食となる。
目にも留まらぬ速さで、牛は解体されていく。
ガチャンとドワワさんの兵器の下部からバットが飛び出し、切り分けられた肉が部位ごとに仕分けられる。
ゲーム的な演出かもしれないが、血やゴミも出ずに綺麗に牛の解体が終わってしまった。
「一丁あがり!」
「おお! すごいな」
「やるじゃない」
「俺、感・動・だぁぁぁっ!!」
ドワーフの兵器による解体に、盛り上がる王国組。
なんだか、マグロの解体ショーとか思い出すな。
とはいえ――
「す、すごい……肉が部位ごとに、キレイに捌かれて……」
精肉がブロックで切り出されているのはもちろん、レバーなどの内臓も丁寧に分けられている。
正直お店で売ってるのと同じ感じで、料理しやすそう。
感心して肉を眺めていると、ドーネルさんが近づいて来た。
「この肉はお店に贈るようにと、族長に言われておりまして」
「え!? いいんですか?」
「ええ。よろしければ、扉の魔法でお店に運んで下さい」
「ありがとうございます!」
お言葉に甘えて、お肉を店に運び込む。
一先ず涼しいバックヤードに置いておき、後で片付けよう。
「グルルルル……」
「ひぃ!? 魔物だぁ!!」
肉を置いて戻ってくると、ドワワさんの悲鳴が聞こえてきた。
声の方を見ると、オオカミ型の魔物が数体。
どうやら狩りの様子に気づいて、魔物が寄ってきたらしい。
ドワワさんの兵器が、すごい勢いで草むらに飛び込む。
「アンタぁ! 何逃げてんのさ!?」
「ワイはぷろふぇっしょなるじゃぁ、魔物は切れん!!」
そうそう、イサ国のドワーフってこんな感じ!
あんな見事に牛が捌けるなら、オオカミ程度の魔物と戦えそうなのに。
すると今度は、グラトニーさんたちが武器を構える。
「どうやら俺らの出番、みたいだな! サポート頼むぜ、嬢ちゃん!」
「わかったわ」
「行くぞ、ギル!!」
「はいっ!!」
掛け声と同時に、パテルテは詠唱を始めた。
そしてグラトニーさんとギル君が走り出すより早く、魔法を解き放つ。
「スパークショット!!」
「ギャギャッ」
複数の雷の球体が、オオカミ型の魔物たちに襲い掛かる。
直撃を受けた魔物は体が痺れているようで、動きが止まった。
小回りの利く魔法で、素早く的確に敵の動きを封じるなんて。
以前だったら周囲丸ごと吹き飛ばしていただろうに、成長したんだなぁパテルテ。
「ギル! ついてこい!!」
「はいっ!」
動きの止まった魔物を、グラトニーさんとギルが囲い込む。
そして息ぴったりに剣を構え――
「燃える熱血!!」
「滾る闘魂っ!!」
「「 闘魂熱血切りっ!! 」」
協力技のクロス切り!?
こんなの、ゲームにあったっけ……?
それにしてもギル君、すっかりグラトニーさんっぽい技を使うようになっちゃって。
騎士より、冒険者の道を突き進んでいるのでは……?
「いやはや、お見事です! こんなにあっさり、魔物を倒してしまうとは!」
驚いた様子で、ドーネルさんは称賛する。
そして困ったように、愚痴をこぼす。
「このような緑豊かなダンジョンを作ると、魔物も一緒に出現してしまって……」
「ええっ!? それって、大変じゃないですか……」
「はい、まぁ……普段は戦いが得意な者も同行するので、どうにかこうにか」
ドーネルさんの様子を見るに、普段から魔物退治に苦労しているのだろう。
なんだかすごく、胃の痛そうな顔をしている。
このダンジョンはドーネルさんが作ってるみたいだし、色々言われたりするのかな。
「星巫女の特性なのか、洞窟は安全に作れるのですが……」
「へぇ、意外です。洞窟の方が魔物が出そうなのに」
「おやおや、王国ではそういうものなのですかな?」
ドワーフの星巫女の力だから、洞窟が安全なのかな?
だとしたら俺の店や――アリエスの力は、どうなっていくのだろう……。
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