第17話 真夜中のスマホ

「……変な時間に、目が覚めちゃったな」


 目が覚めたのは、夜の十一時ごろ。

 現実の世界ではまだまだ起きてる時間だが、イサ国ではもう夜中という雰囲気。

 外を歩いているのは、酔っ払いと野良猫ぐらいだ。


「眠くはないけど、なんかダルい……」


 夕食を食べる気にもならず、俺はベッドの上でゴロゴロしながらスマホを手にする。

 そういえば、ステータスを見れるアプリはどうなっているんだろう?


「魔力……MPが、だいぶ減ってるな」


 強制徴収されたのは、MPだったようだ。

 そんなに消耗するような行動はしていないのに、半分程度まで減っている。

 もしかしたら、寝る前はもっと減少していたのかもしれない。

 マジカの代替のMP……変換率はどのくらいだ?

 もし一マジカ=一MPだったら、徴収のときマジカ不足だと、命取りになってしまう。


「はぁ……」


 思わず、ため息がでる。

 その動きでスマホをスワイプしてしまい、別のステータス画面になってしまった。


「あれ? トルト教授だ」


 今まで俺とラディルしか見れなかったけど、トルト教授のページが追加されている。

 教授は魔力とMPが高い、典型的な魔法使いキャラ。

 総合的な数値は、ラディルと同じくらいかな?

 レベルに対して、スキルの数が多いのが特徴。


「もしかして、他の人も?」


 更にスワイプしてみたが、ガルガンダ先生やパテルテのページは無い。

 トルト教授だけ、何か特別な関係になったってこと?

 むしろ魔導学園の三人の中で、一番素っ気なかったのに。


「そういえばラディル、いつも特訓してるけど、強くなってるのかな?」


 ラディルのページを見ると、レベルやステータスが前より上がっていた。

 特訓で走ってる途中で、魔物を倒したりしてるって言ってたし。

 ちゃんと頑張ってるんだな、ラディル。


「あれ? ラディル、ずいぶんスキルが増えてる……」


 風牙一閃、ピッツァ作り、ガッツ、大防御、防御力+50、グランドキャスト、セイプリズム、アイシクルエッジ……

 なんか統一感の無い、スキル構成だなぁ。

 グランドキャストとセイプリズムなんて、そもそもMPが足りなくて使えないじゃないか。

 そんなことを思いながら眺めていると、スキルの横に顔アイコンがあるのに気づく。

 スキルによって、アイコンが違うみたいだけど……


「ん? このグランドキャストのアイコン……ガルガンダ先生?」


 他のアイコンより髭と帽子が特徴的で、すぐにガルガンダ先生だと思った。

 もしかして、これは元々スキルを持っていた人の顔アイコンが表示されている?

 

「こっちのセイプリズムは、パテルテか。ガッツ・大防御・防御力+50は、セシェルだな。懐かしい……」


 風牙一閃は、マリカ様。アイシクルエッジは、トルト教授だな。

 一つわかると、芋づる式にわかるものだ。

 そして、この戦闘と関係ないスキルのモブ顔アイコン――


「このピッツァ作りのアイコン……俺?」


 まぁ、他にピッツァ作りを教える人なんて居ないんですけどね。

 それにしても、どうやって他の人のスキルを覚えたのだろう?

 あまり長く話したり、修行したりした感じはなかったけど……。

 何かみんなに共通する条件――


「一緒に、食事をした……?」


 マリカ様は、マルゲリータを食べたとき。

 俺とは、普通に一緒に食事をしてるし。

 セシェルは、伝令のときにアクアパッツァを食べたな。

 ガルガンダ先生たちは、昼間のカルボナーラ。


「ラディル、お客さんと一緒に食事をすればするほど、強くなる……!?」


 そういえば、すっかり忘れていたけど――イサ国の主人公は、仲間との友好度が上がると、その仲間のスキルを覚えることができた。

 強いキャラであればあるほど、当然強いスキルを持っていて。ただ序盤の弱いキャラも、後半で効果を発揮するような特殊なパッシブスキルを持ってたり……。

 なので、全ての仲間を集めるのが、当たり前になってたな。

 そんなゲームの記憶を辿っていると、楽しくなる半面、少し物悲しくなる。


「この物語の主人公は、ラディルなんだ」


 キャラメイクシステムのせいで、俺の使ってたグラフィックと全然違うから、気づかなかったけど。

 仲間のスキルを覚える特性は、イサ国の主人公のそれだ。

 そうだよな……俺はチンピラに絡まれても、自力で戦えないモブおじ。


「まぁ、俺……元々主人公なんて、ガラじゃなか」


 別に子どものころから、格段に輝いていた時期なんてない。

 料理人を続けているのだって、たまたま俺の作った料理を、友人が美味しいって言ってくれたからだ。

 客商売は、嫌なことや悪いことも多い。でも稀に、あの時の友人のように、心から美味しいと言ってくれるお客さんに出会えるから――


「……でも、俺の料理で、ラディルが強くなってるってことでも……あるよな?」


 ナイーブになっていた気持ちを、少し切り替えてみる。

 物語の主人公に協力するおじキャラって、それはそれで美味しいポジションかも。


「イサ国の主人公であるラディルが強くなれば、この国の平和が守られる……だったらそれも」


 悪くない、かな。

 ダラダラと考え事をしているうちに、俺は再び眠りについた。

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