第3話 旅立つ君と懐ゲーの世界
皿にフォークを乗せて、テーブルへ料理――ポヴォレッロを運ぶ。
少年は戸惑いながらも、パスタを見て目を輝かせている。
「あ、ありがとうございます! いただきます!!」
「おう! 食え食え!」
俺も同じテーブルに着き、少年と一緒にパスタを食べ始めた。
目玉焼きをフォークで崩し、トロトロの黄身と一緒にパスタを絡めとる。
口に入れると、卵の甘みとチーズの旨味が広がって行く。
そして畳みかけてくるニンニクのパンチが、眠気と疲れを吹き飛ばす。
「ウッッマ!! ぁっ……すごく美味しいです!!」
「ははは」
思わず出たであろう少年の素直な反応が、かえって嬉しい。
一言感想を言った後、彼は夢中でパスタを食べ進めた。
若者がバクバク食べてる姿っていうのは、なかなか気分が良いものである。
正直、このために料理人を続けていると言っても過言ではない。
それにしても、倒れ込むほど空腹になるなんて……最近の子は、そんなに食べるのに苦労しているのだろうか?
うちのバイトの子たちも食費を浮かせるために、まかない食いだめしていくしなぁ。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、オソマツサマです」
「それで……その……」
元気にパスタを完食した少年が、急にモジモジし始める。
まぁ、倒れるぐらい腹が減っていたのだ。
持ち合わせが、無いのだろう。
「実はオレ、お金持っていなくて……仕事して稼いだら――」
「いいよいいよ。これはメニューには無い、まかない料理で、お客様に出すような品じゃないし」
美味しいし作るのは簡単だけど、ポヴォレッロはメニューには載せてない裏メニュー。
日本食で言うところの、TKG――卵かけご飯のようなものだ。
頼まれれば作るけど、商品というほどのラインナップではない。
「そんな……」
俺の反応に、困ったような顔をする少年。
漫画やゲームのコスプレみたいな格好してるのに、ずいぶん律儀な子だなぁ。
「倒れるくらい腹減ってたんだろ? だったらこれは、救助ってやつだよ」
困ってる人がいたら、助けるのは当たり前。
食事を食べさせるだけで人の命を救えるなら、それにこしたことはない。
それが若い子だったら、尚更な。
「あの、オレ、ラディルって言います。あの、おじ……シェフのお名前は――」
ラディル君か。外人さんなのかな?
確かにちょっと染めたような、薄茶の髪をしてるし。
「俺は、天地洋」
「テン、チヨゥ……?」
「ははは。変な名前だろう? テンチが苗字で、ヨウが名前だ」
「はぁ……」
再び困惑するラディル君。
うちの兄弟は全員、海にまつわる名前が付けられているのだが……まさかこの名前で飲食店の店長になるなんてな。
社長からバイトにいたるまで、みんなにイジられるネタになってるくらいだ。
「店長でいいよ。その方が、呼びやすいだろう?」
「あ、はい! 店長さん――」
改めて、ラディル君は姿勢を正す。
「オレ必ずお金を稼いで、お支払いに来ます!」
「そうか。そん時は、たくさん飲み食いしてってくれよ」
「はいっ!」
食事を終えてすっかり回復したラディル君を、店の入り口まで送る。
外は日差しが眩しすぎて、目がチカチカするな。
今日は暑くなりそうだ。
「ありがとうございました、店長さん!」
「おう、元気でな! ラディル君!」
≪カランカラーン≫
眩しい日の光の中に、ラディル君は元気に飛び出していく。
何度も振り向いては、こちらに手を振って。
あの様子なら、近いうちにまた食べに来てくれそうだな。
「今日の日替わり、何にしようか――」
折角外に出たので、ついでに体を伸ばして大きく深呼吸。
それにしても、今日は眩しいな。
なんだか街並みが、いつもと違って見え――
「んんん!?」
目の前を、ガラガラと馬が引く馬車が横切る。
そこかしこには、変わった服装……コスプレをしてる人達。
なによりも目の前にそびえたつ、巨大な洋風な城。
上空では、巨大なクジラがゆったりと泳ぐように飛んでいく。
いつもと全然違う景色――でも、とても懐かしくて……。
ここは――
「イサナ王国……!?」
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