第2話 コスプレ少年とポヴォレッロ
「ん……あれ……?」
差し込む光に、目が覚める。温かい、太陽の光だ。
見慣れた天井に、テーブルの裏側。
どうやら店の個室席で、眠っていたらしい。
「俺、いつ店に戻ったんだっけ?」
確か中古ショップに寄って、懐ゲーを一本買おうとして――からの記憶が、全くない。
別に酔っていたわけでもないのに……。
「いや、もう朝なら、まずは店の準備をしないと……」
俺は個室席を出て、ホール席に向かう。
店の入り口の横には、新しいレジが設置されていた。
「昨日の中古ショップと同じレジだ……。いつの間に、レジ替えたんだろ……」
社長から、何の連絡も来てないんだけど。
それに、店内も微妙に配置が変わっているような……。
なんとも言えない違和感に落ち着かず、店の中をウロウロしてしまう。
≪カランカラーン≫
急にドアベルが鳴り響く。
思わずビクっとして入り口を見ると、男の子が立っていた。
高校生くらいだろうか?
なんというか、漫画やゲームのキャラクターのような服装――コスプレをしている。
「すみません、まだ準備中で――」
もう人が来るような時間だったっけ?
そんなことを思いながら少年に近づくと、彼はバタリと床に倒れてしまった。
「えぇ!? キミ、大丈夫!?」
俺はしゃがみ込んで、少年に声をかける。
少し震えているようにも見えるが、何があったのだろう?
「あの……おなかが……」
か細い少年の声に続くように、大きな腹の虫がグウウッと鳴く。
……なるほど?
「お腹が空いてるんだな。少年、立てるか?」
「はぃ」
ふらつく少年を支えて、空いてる席に座らせる。
ひとまずコップに水を汲んで、彼に差し出した。
「いまメシ作ってやるから、これ飲んで待ってな」
「ぁ、ありがとう、ござい、ます」
少年が一人で水を飲めるのを、確認する。
それにしても剣とか鎧とか、ずいぶん精巧に作られたコスプレだな。
今日は平日のはずなのに、何かお祭りやイベントがあったっけ?
「……ま、いっか。メシメシ~」
俺はキッチンに入り、とりあえず鍋に湯を沸かす。
それから、冷蔵庫の中を確認。
下茹でしたパスタと、刻みニンニクのオイル漬けはあるな。
「急ぎだし、アレで良いか……」
パスタとニンニクを調理台に乗せ、更に卵を二個出す。
フライパンをコンロに乗せ、そこにオリーブオイルと刻みニンニクを入れる。
本当は、刻みニンニクを山盛り入れたいが――空きっ腹には刺激が強すぎるし、我慢しよう。
僅かな未練を残しつつ、コンロに火をつけて油を温めた。
「お湯も沸いてきたな」
フライパンの油の中に、卵を二個割入れ目玉焼きを作る。
目玉焼きをひっくり返して両面にイイ感じの焦げ目がついたら、沸かしたお湯をレードル三杯分と昆布茶を少々。
グツグツと沸く卵と昆布茶のスープの中に、パスタを入れて茹でていく。
「上にも、目玉焼きをトッピングするか」
俺は湯を沸かしていた鍋をコンロから外し、フライパンをもう一つコンロに乗せた。
追加で卵を取り出し、目玉焼きを作り始める。
今度は黄身のとろける、半熟目玉焼きだ。
「良い感じだな」
パスタはすっかり茹で上がり、トロリとしたわずかな煮汁を纏っている。
ここにたっぷりの粉チーズをかけ、絡めていく。
ニンニクとチーズの香りが、なんとも食欲をそそるな。
出来上がったパスタを二つの皿に盛りつけ、その頂に半熟の目玉焼きを乗せる。
貧乏人のパスタ――ポヴォレッロの完成だ。
「おまたせ、少年!」
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