第14話 魔導学園一行

 セシェルが伝令を伝えてくれた、翌朝。店には魔導学園から、三名の調査団が訪れた。

 それはもう、すごい人たちが……!


「お初にお目にかかります。私は魔導学園の学園長をしております、ガルガンダと申します」

「どうも、お世話になります。天地洋です」


 代表として挨拶してくれたのは、学園長のガルガンダ先生。

 彼はとても優しそうなおじいちゃんで、ザ・魔法使いって感じのローブを纏っている。

 でも交わした握手は、とても力強い。ガルガンダ先生、すごいマッチョなんだぜ。


「? どうかされましたか?」

「いえ、とても力強い握手だったので、驚いてしまって」

「ほっほ。これは失礼しました」


 ガルガンダ先生はゲーム中、仲間にならない。

 その代わり、クリア後のダンジョンで裏ボスの一人として登場する。

 強力な魔法を連発するのはもちろん、近づくと肉弾戦もしてくる武闘派。

 いわゆる最強じじいキャラなのだ。


「この子はワシの孫娘、パテルテです。見学させるために、連れてまいりました」

「パテルテです。よろしくお願いします」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 軽く会釈をする、高校生くらいの女の子。

 パテルテも、よく憶えている。ゲーム終盤に、パーティに入れていたキャラクターだ。

 仲間になるキャラクターの中で、魔力とMPが一番高い魔法系最強キャラ。

 割とやんちゃな性格だけど、学園長が一緒だからか、今はかしこまった様子をしている。


「そしてこちらはダンジョン研究の教授、トルト先生です」

「君は――」

「初めまして、トルトと申します」


 最後の一人は、先日売れ残りのパニーノを買い占めていった男の子。

 学生じゃなくて、教授だったのか。

 中学生くらいの子に見えるけど……外見に寄らず、偉い人なんだな。

 それにしても、初めまして、ね。先日買い物した件は、言うなってことか。


「初めまして、トルト教授。今日はよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。店長さん」


 とりあえず、初対面と言う体でトルト教授と挨拶を交わす。


「では、さっそく中に入らせていただきます」

「はい。こちらへどうぞ」


 俺は店の扉を開け、三人を店内に案内した。

 ガルガンダ先生が先頭で入店し、その後にパテルテとトルト教授が続く。 


≪カランカラーン≫


「ほう。なかなか趣のある店ですな」

「ありがとうございます」


 店内を見回したガルガンダ先生は、目を輝かせている。

 そしてキッチンの方へ、ズンズン入っていった。


「店長殿! このマギメイは何ですかな?」

「マギ……? えっと、それはピザ窯という窯です」

「ほうほう。ではこちらのマギメイは?」

「こっちは電子レンジといって、食べ物を温める道具です」

「なんと! 便利なマギメイがあるものですな」


 どうやら機械的なものを、イサナ王国では全体的にマギメイと言うらしい。

 まるで子供のように高揚したガルガンダ先生に、質問攻めにされる。

 おじいちゃん、機械好きか。


「そういえば店長殿、ゴミの処理はどうしております?」

「あ、えっと……『ゴミ捨て』!!」


 ゴミを処分したいと念じて声を出すと、ゴミ箱の中身はキレイさっぱり消えてしまう。

 我ながら、もっと気の利いた呪文に出来なかったのかと思うが……厨二っぽい言葉って全然浮かばなくて。

 とはいえ、とても便利な魔法である。ゴミ捨てに行かなくてもいいし、ゴミ袋をセットしなくてもいい。最高!


「おお!! これはスゴイ! おや? こちらの水道、水はどうやって引いているのですかな?」

「えっと……普通に、蛇口を捻って出します」

「ほうほう。こちらはマギメイですかな?」

「ええっと……」


 どんどん興味が移り、早口になっていくガルガンダ先生。

 先生の目がキラキラしているのが、余計にプレッシャーをかけてくる。


「召喚の魔力形跡が見られます。別の場所から、適時召喚してるようです」

「店長さんから、魔力の放出も見られるよ。おじい様」


 言葉を詰まらせている俺に代わって、トルト教授とパテルテが見解を述べた。

 助かったと思い、胸をなでおろす。

 もしかしてこれって、いつもの光景だったりするのかな?


「ガルガンダ先生。こちらのマギメイが、店長さんの力の根源――ダンジョンの核ではないでしょうか?」

「ほうほう、どうやらそのようだな。特殊な魔力を放っておる」

「え……そのセルフレジが、ダンジョンの核?」


 トルト教授の提言に、ガルガンダ先生が急に真剣な顔つきになる。

 そういえば、この世界に切っ掛けになったのも、そのレジだったな。

 よくわからない画面になってから、下のドロアーを金庫代わりにするぐらいしか使ってないけど。


「『店名/ダンジョン名を入力して下さい』……まだ、術式を完成させていないのですか?」

「術式? 店名が?」


 店名を決めろって言われても、自分が決めていいのかわからなくて放置していた。

 やや呆れたような顔で、トルト教授がこちらに説明する。


「店名がというか……【ダンジョンの名前を決めること】が、ですね」

「今決めちゃおうよ、店長さん!」


 急にパテルテが、会話に割って入った。

 頭上から話を搔っ攫われたトルト教授は、不服そうな顔をしている。

 しかし、反論をする様子は無い。


「店名か……どうしよう……」


 いざ自分の店となると、悩むな。

 名前だけでどんな店なのかわかってもらえて、それでいて愛着を持ってもらいたい。


「イタリアンがメインだけど、和パスタなんかも作るし……」


 頼まれれば、うどんや和食を作っても良い。お年寄りや子どもは、その方が食べやすかったりするし。

 それにイタリアンって格式張るよりも、食堂って感じの方が俺の性に合ってるかな。


「イタリア食堂……いや、ひらがながいいな。いたりあ食堂……ピコピコ? とか?」


 ゲームの世界だからピコピコは……ちょっと発想が昭和過ぎたか?

 でも小さい店って意味のピコと、8ビット音源のピコピコを兼ねるの、良いと思うんだよな。


=================


 ダンジョンマスター:天地 洋

 マスターレベル:1

 ダンジョンレベル:1


 店名/ダンジョン名を入力して下さい【いたりあ食堂ピコピコ_】



================= 


 俺が思いついた店の名前を言うと、レジの入力画面に店名が正確に自動入力された。


「おぉ……なんて高性能な音声入りょ――」

「じゃぁ、これで決定!!」

「えっ!?」


 パテルテの掛け声で、レジが実行画面になる。

 画面がどんどん切り替わり、レジの音声案内が始まった。


≪店名/ダンジョン名【いたりあ食堂ピコピコ】 セットアップを開始します≫

≪セットアップ完了まで 二時間三十六分――≫


 どうやらセットアップ完了まで、しばらく時間がかかるらしい。

 それにしてもパテルテ、勝手に決定して進めるなんて……俺の店の名前なのに!

 どうにも恨めしくなって、俺は大人げなくパテルテに抗議した。


「まだ考えてる途中だったのに」

「こういうのは勢いが大事なの。それに、最初に出たのが大体、一番良いものよ」


 自信満々なパテルテ。まるで自分は、良いことをしたような顔をしている。

 な、なんて不遜な女の子なんだ……。


「無駄ですよ、店長さん。パテルテに『悩む』という思考パターンはありません」

「お、おぅ……」


 同情するような顔で、こちらを見つめるトルト教授。

 その顔からは、上司の孫娘の横暴に、さぞや苦労しているのだろうことが伺えた。


「だが、我々がいる間に、術式の完成をした方がよろしいでしょう。不測の事態が、起きるやもしれませんし」

「そ、そうですか……」


 ガルガンダ先生にそう言われて、少し考えなおす。

 確かに。俺自身がダンジョンの在り方がわからなくて、来てもらったんだもんな。

 でも店名についてはもう少し、考えたかったよ。


「それより店長さん、しばらく時間がかかるみたいよ」

「そのようだね」

「だから、その間――」


 パテルテがウキウキしながら、言い放つ。


「昼食にしましょう!」

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