第14章 Sマリン

Sマリンは東京の世田谷区にあった。

従業員は社長を入れて6人と小さな会社だった。

主な仕事は、護岸工事、水中溶接、汚濁防止膜の設置などなど…

海の何でも屋とでも言う感じだ。

仕事場は、主に東京湾全域で特に横浜方面が多かった。

朝5時頃会社に集合し、会社のワンボックスに皆んなで乗り込み第三京浜で横浜に向かう。

運転は交代制だ。

朝が早いので運転しない時は現場に着くまで仮眠を取った。

働いている人達は自然が好き海が好きな人達の集まりなのでお互い仲が良かった。

嫌な人が1人もいない職場も稀である。

だが、酒を飲んで人格が変わる先輩がいた。

Cさんだ。普段は、大人しく坦々と仕事をこなす真面目な人だか、自分の意見を言うような人ではなかった。


本音を言わないと言うか…本当に楽しいのか嫌なのか…掴みどころのない人だったが、雰囲気はとても良く優しいし、時折りギャグも飛ばす良い兄貴と言う感じだった。


そんなCさんに焼き鳥屋に誘われた。

私以外に、Sさんも行く事になり3人で焼き鳥に飲みに行った。


初めのうちは仕事の話しをし、たわいもない世間話しや、田舎の話しなどしていた。

その内Cさんは酔ってきて隣のお客さんに絡み始めた。


C『そこのにいちゃんよ、今、俺の事睨んだろ!』


隣りの客『睨んでないし。なんなんですか?』


私達はやばいと思いすぐさま止めに入る。


SさんがCさんをなだめ、私が客に謝る。


私『ごめんなさい。先輩少し酔ってまして…』


隣の客『勘弁してくださいよ。こっちは楽しく飲んでるんだよ。』


私『すんません…』


私が見る限り隣の客は普通に飲んでる人達でへんに喧嘩を売るような人達ではない事がわかった。


S『Cさん、大丈夫?少し酔っているようだから帰ろうか』


私『そうですよ。隣りはなにも…』


その時Cさんは立ち上がり、


C『うるせー!お前らは黙ってろ!アイツが気に入らねえ』


と言うと、隣りの客に殴りかかろうとした。


2人で押さえ店の外に連れ出した。

お店の人と、その場にいたお客さん全員に謝りタクシーに乗り込んだ。


私『Cさん、大丈夫ですか?』

C『あー。帰って寝る。悪かった…』


と謝罪したのでそれ以上2人とも何も言わなかった。

Cさんを送り届けた後、気分直しにSさんと飲み直す事になった。


翌朝…会社に集合すると、Cさんが血だらけで寝ていた。

私達は心配して、Cさんを起こした。


私『Cさん、血、血が…だ、大丈夫ですか?』


C『俺の血じゃあないよ。』


私『じゃ、じゃあ誰の…血…』


C『うーん。記憶ないんだよな。』


怖… 私達は2度とこの人と飲まないと誓ったのであった。

それ以外警察沙汰になる事もなかったしこの事は皆忘れることにした。

が、それから暫くして会社に警察から電話があった。

Cさんを勾留していると…


第15章 小料理屋の女将


Cさんは秋田県の出身で上京して20年になる。色んな仕事をしてきて最終的にSマリンに入った。

馴染みの小料理屋があり、秋田の郷土料理も出してくれる事から気に入ってよく足を運んでいた。

何よりも女将さんが凄く美人なんだとか…

いつもは、軽く飲んで女将さんの所に行くのだか、その日はいつもより酔っていたそうだ。


女将『あら、Cさん。今日は遅いのね!いつものビールからで良いかしら?』


C『あー、いつもので。』


女将『今日はもうお客さんも来ないし、看板にして、私も隣で飲んじゃおうかしら。』


女将『ねぇ、良いでしょ?』


C『あっ、あー、も、勿論』


あろうことかCさんは勘違いしてしまった。

閉め切った店内。女将と2人きり…

Cさんは、女将が誘っているに違いないと。これに応えないと男ではないと。


次の瞬間…


C『お、お、女将さんー!俺も好きだー』


と、あろう事か抱きついたそうだ。


女将『きゃ、ぎゃー!た、助けてー!』


と、大声で叫ぶ女将。そしてすぐさま旦那さんがやって来て警察を呼んだらしい。

旦那さんは隣で焼き鳥屋をやっていた。

しかも、あの3人で行った焼き鳥屋だった。


酔っ払って勘違いした事、暴力等はないとの事ですぐ釈放された。

勿論、女将と旦那さんも許してくれたからだ。


全く、酒乱とはこの事を言うのかなと私は思った。

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