それでも私は生きている。それでも私は生きて行く。

天野 みろく

第1章 私

1968年沖縄。この島はまだアメリカの統治下にあり、私はその中で生まれた。当時、私が4歳になる1972年まで、パスポートを持たずに本土へ渡ることは許されなかった。


沖縄に住む子供たちは、本土の子供たちと同じように駄菓子屋さんへ通った。しかし、ここでは駄菓子屋さんと呼ばれるのではなく、イッセンマチャーと呼んだ。


「イッセン」という言葉は、1セントを示し、日本円にして約10円に相当する。10円から始まる小さな買い物が、私たち子供たちの特別なコミュニケーションの場であった。ただし、違いはお金がアメリカドルであったことだ。


私には7つ離れた姉がいて、弟の私をよく可愛がってくれた。


姉は妹が欲しかったらしく、よく私にお下がりのスカートをはかせて、髪の毛はみつあみやら、かんぷう(標準語で何と言うのか…)

をしてくれた。


2人でキッチンに並び私は背が低いので踏み台を使って、母親が買ってきたイチゴを姉と一緒に切った事を今でもよく覚えている。


この頃は母親と姉と私の3人でマンションの2階で暮らしていた。


日曜日の朝は決まってトーストに目玉焼きポークそしてCampbellのクリームマッシュルームスープを食べながら、『兼高かおる世界の旅』を見ていた。


マンションは5階建てで私と同じ歳の子から、小学高学年まで沢山の子供達がおり、女子も男子も皆んなお友達だった。


良く皆んなで集まり、1階の駐車場で女子に混ざりはないちもんめをやっていた。


ゴム跳びとか、かくれんぼとかも。


その頃の母親は、水商売をしていて私を寝かしつけると暗い夜の街に消えていった。


夜中に目を覚ました私は、隣に母親が居ない事に気がつきどうしようも無い不安に駆られた私は、泣きながら裸足で母親のお店に行ことがしばしばあり、今となってはお店の人に大変迷惑をけたと申し訳ない気持ちになる。


一方父親は、月に2〜3回帰宅して私と遊んでくれた。


父親の職業は今でも、何をしていたのか謎だ。


ただ、アメリカ軍のベースキャンプの中で会社を経営していた様な話しを聞いた事があった。


本土と、海外にアメリカ軍の払い下げ等を売っていたんだと思う。


ある日、父親が「明日帰って来る」と連絡があった。


不定期にそして突然帰ってくる父親…


父親が帰ってくる当日、母親は朝から忙しく料理を大量に作っていた。


私『パーティーでもやるのー?』

母親『おとうが、内地からお客さん連れて来るってさ…いつも突然はっしゃよ。』


※沖縄弁(はっしゃよ)全くもうと言う感じ


口調は少し怒った感じだけど、心なしか楽しそうにしている母親を見て私も幸せだった。


そしてその日の夕方沢山の客人を連れて父親が帰宅。


所狭しと並ぶ料理、冷えたビール


初めて聞く関西弁…


母親は座る暇もなくビールを注いだり、料理を運んだり。


私も一緒に手伝い、客人にお茶を持って行く


私『どうぞお茶です』

客人『おーきにー。小さいのにねぇ』


と初めて聞く関西弁に驚きと楽しさがあった。


褒められていることは感覚的にわかったのでぺこりと頭を下げ母親のいるキッチンへ。


母親はとても忙しく私に構う暇など無く、次々料理をこなしていた。


縁もたけなわになった頃、客人の1人が私を呼び、


客人『美味しいから、これ食べてごらん』


多分、関西の、お土産のお菓子?だと思う。


私には、少し辛くて


私『辛い!水飲みたい〜』

父親『こっちにおいで。冷たい水あるから』


急いで父親の元へ行って私の口元に父親が水を飲ませてくれました…


が、次の瞬間、口の中が焼けるように痛みだし、泣き出した私を見て父親と、客人達はゲラゲラと笑い出した。


何と、父親は幼い私に泡盛のストレートを飲ませたのだ!


その異様な光景に気がついた母親は父親を怒鳴りつけると、私に優しく水を飲ませてくれたのだった。


今考えると、父親といる時、姉と一緒に過ごした記憶がありません。


姉とは父親が違うので、これは考えたく無い事だが、姉の事は好きでは無かったのかも知れない。


多分、親戚かどっかに泊まりにいってたのだろうか…


あるいは、行かされていたのか…

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