第3話
「敵襲だ!」
「舐めやがって!」
騒然とする洞窟内に脚を踏み入れたカイルは、再び氷の大槍を生み出して洞窟の奥へと放った。大槍は盗賊たちを巻き込み地面へとぶつかって砕け散る。
「ぐわあぁぁ!」
「ぎゃあああ!」
奥から聞こえる悲鳴に混じって、ガシャガシャと武装した人の足音が聞こえてくる。カイルは魔力で生み出した冷気を身にまとって戦闘態勢に入った。
「たった一人で調子に乗りやがって!」
「てめえ! 俺らのアジトに何しやがる!」
「ぶっ殺してやる!」
血気盛んな盗賊は叫び声とともにカイルに斧を振り下ろす。しかしカイルは一歩身を引いて斧を避けると地面に突き刺さった斧を凍らせて地面に固定する。
「何するって、壊滅させに来たんだよ。お前ら盗賊団をな」
「一人でできると思ってんのか!?」
「帝国軍ですら追い返した俺らだぜ!」
「氷刃一閃」
「ぐぎゃあっ!?」
カイルはギャハハと笑い飛ばす盗賊たちを氷の刃で切り裂いた。血飛沫が舞い、辺りを汚していく。盗賊たちは辺境軍人とは違う実力を感じとったのか攻勢を強めた。
「悪いが、何人か殺してしまうかもしれない」
「くそがっ!」
しかし、実力差は明白。カイルが操る氷の刃が舞い、盗賊たちを切り刻んでいく。腕や脚が飛ぶ者もいて、威勢の良かった十人ほどの盗賊たちはあっという間に重傷を負いうずくまってしまった。
「さて、お前らのボスのところに案内してもらおうか」
「いてえよぅ……」
「あ、ぐぁ……くそがぁ……」
「ちっ、やりすぎたか……めんどくせえな」
盗賊たちはすでに気絶しているか痛みに呻いている者しかおらず、まともに口をきけるものは存在しなかった。聞き出すことを諦めたカイルは冷気をまとったまま洞窟の奥へと進んでいく。時折飛んでくる矢や投石はすべて氷で防ぎ、まるで何の障害もないかのごとく歩き続ける。
「それ以上は進ませねえぜ!」
「ふっ!」
立ちはだかった巨漢に対して顔色一つ変えず氷の刃を生み出して振るったカイル。しかし巨漢は手に持っていた大剣で氷の刃を防ぎ、返す刀でカイルへと振り下ろした。
「ちっ! いい剣持ってんな」
「はっ! この俺、ガレス・エルヴィスがいる限りこれ以上先には進ませねえぞ!」
ガレスの振るった大剣をバックステップでカイルが躱し言葉を投げかける。ガレスはブンブンと何度もカイルに斬りかかるがカイルは身を躱して避けていく。
「ボスって感じじゃなさそうだな。幹部か、用心棒ってところか」
「ご明察! クタ盗賊団の用心棒、ガレス・エルヴィスとは俺のことよ! 魔術師だって何人も殺してきた! お前もその一人に加えてやろう!」
ガレスは気合を込めて大剣を振り回す。鋭く重い大剣の一撃はかするだけでも大ダメージを受けてしまうだろう。カイルは丁寧に距離を取りながら氷で作った礫を放つが、分厚い鎧に弾かれてしまい牽制にもならない。
「効かぬ効かぬ! 虫が止まったかと思ったわ!」
「硬えな……ふっ! 氷結風っ!」
「冷てえじゃねえか! そら、よっ!!」
どこで調達したのかわからないがかなり性能の良い鎧なのだろう。凍らせるつもりで放った冷気も物ともせずガレスは剣を振り下ろす。ガギンッと地面を砕く一撃もカイルはひらりと避けて事なきを得た。
「ちょこまかと、うざってぇ!」
「そうは言っても、当たってやるわけにはいかないもんでね」
一発でも当てればいいガレスと有効打が見出だせないカイル。どちらが優勢かは火を見るより明らかで、ガレスの邪魔をしないように取り囲んで見ていた盗賊たちもガレスの勝利を確信して声援を送る。
「やっちまえー!」
「ガレスの大将そこだ~!」
「そりゃっ! どりゃあっ!」
ガレスの大振りな連撃、カイルは的確に避け続けるがいつまで保つか。盗賊たちはまた一人ガレスの武勇伝に追加されるのを今か今かと待っていた。誰一人としてガレスの負けを心配していなかった。
しかし次の瞬間、スポーンとガレスの大剣が宙を舞った。
「…………は?」
いや、宙を舞ったのは大剣だけではない。鎧に覆われたガレスの右腕が大剣とともに吹っ飛んでいた。赤い弧が中空に描かれ、ガシャンと金属音を立てて落ちる。
「……氷旋刃」
周りで見ていた盗賊たちも、腕を切り落とされたガレスでさえも状況を理解できず動きが停止していた。ガレスの右肩から血が噴き出し、ゆっくりと倒れていく。残ったのは血に濡れた巨大な氷の刃と、それを生み出したカイルのつぶやきだった。
「な、にが……」
「どうしたって関節部は継ぎ目の分弱くなる。それだけの話だ」
「く、そが……」
倒れ込んだガレスは左手で傷口を押さえながら、息も絶え絶えといった様子で何が起きたかを確認する。カイルは洗練された魔力操作で鎧の関節部に氷の刃を高速で叩き込み、ガレスの振り下ろした勢いと合わせて強力な斬撃を食らわせたのだった。
「お、おい……」
「お前いけよ……」
「ガレスさんがやられた相手だぞ……」
「お、俺ボスに報告に……」
「逃げるのかよ……」
さっきまでイケイケムードだった盗賊たちは打って変わって怯えたように静かになってしまった。誰かがカイルを止めなきゃいけないと思いながらも、用心棒が一撃でやられたという事実は盗賊たちの足を止めるのに十分すぎるほど重かった。
「さて、お前たちのボスはどこだ?」
「ひ、ひぃっ!!」
カイルは手っ取り早く親玉を叩こうと近くにいた盗賊にボスの位置を尋ねるが、カイルの強さに怯える盗賊たちはまともに答えられず萎縮してしまう。
「おい」
「ひ、や……やっちまえー!」
「やれやれ……氷刃っ」
ヤケクソのように特攻してきた盗賊たちを氷の刃で斬り伏せて無力化していく。怯えた盗賊たちはコンビネーションも策略もなく、ものの数分で全滅してしまった。
「……とりあえず、奥進むか」
またしてもボスの居場所を聞けなかったカイルはとりあえずといった様子で奥に進み、分かれ道は勘で選んでいく。何度か食料庫などの行き止まりに行き当たっては戻り、盗賊と出会っては迎え撃ったカイルは、ようやく洞窟の最奥部らしき開けた空間に行き当たった。
「ここが、最深部か……?」
「ボス! あいつが侵入者です!」
注意深く足を踏み入れたカイルを出迎える盗賊の叫び声。どうやらここがボスのいる空間で間違いないようだった。
「よくも好き勝手やってくれたな! どこの誰だ?」
最奥には慌てふためく盗賊たちと、彼らに指示を出している一人の男がいた。盗賊からカイルが侵入者だと聞いた男はカイルの素性を尋ねながら立ち上がる。怒りに満ちた様子で、今にも爆発しそうな心を理性で抑えているようだ。
「帝国からの要請で盗賊団の討伐に来た帝国独立魔導学舎クダスリ校教員、カイル・リベリアだ。お前が盗賊団のボスだな? 大人しくお縄につけ」
「ハンッ! クタ盗賊団頭領ルカ・オウスがそう簡単に引き下がれるかってんだ! センセーは大人しくガキどものお守りしてやがれ!」
「軍人でもあるのでそういうわけにはいかない。大人しくするなら痛い目には合わないだろう」
「だからハイそうですかってわけにはいかねえんだよ! それに、帝国軍ったって田舎軍人だろうが! ちょっとはやるみたいだが」
ルカはそう言うと魔力によって生み出された炎を身にまとい叫んだ。
「俺の炎はチンケな氷じゃ消えやしねえ!!」
「チンケな氷かは、お前の身で確かめてもらおう」
カイルも同様に魔力による冷気を身にまとい、ルカに向き合う。お互いの戦闘態勢が整い、すぐにでも戦闘が始まるような緊張感が辺りを包み込む。
刹那の後、先に動いたのはルカの方だった。
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