第10話

 カイルがドラスと戦いを繰り広げている頃、学舎付近では別の戦いが始まろうとしていた。

「上からとはご挨拶だね」

「ふん、陸路は塞がれていたものでね」

 リンとサレンが氷壁を飛び越えたボスと幹部を迎え撃つ。ふわりと着地した敵二人はリンたちに向かって攻撃をするでもなく語りかける。

「発表祭を中止しろ。今なら間に合う」

「未来ある子どもたちの成長の場を奪えと? まっぴらだね」

「その成長の場がかえって子どもの未来を奪っているとなぜわからんのだ!」

「何を言っているんだ? 切磋琢磨し競い合う素晴らしい場だ、テロリストなんかに奪われてたまるか」

「退かぬか」

「そっちこそ」 

 ジリジリと高まる緊張感。リンと男がぶつかろうかという瞬間、幹部と思しき女が割って入った。

「ガロン様のお手を煩わせるまでもありません、この私、リタス・マイアーがここを押さえます」

「サレン先生、任せられるか?」

「もちろんです、リン教員」

 リンとサレン二人を足止めしてボスであるガロンを先にいかせようとするリタス、当然学舎側もそれを許容するわけはなくリンがガロンを、サレンがリタスに対応しようと分かれる。

「させません! グラビデ!!」

 リタスの放った重力波がリンとサレン二人を縛り付ける。

「重力か、サレン先生気をつけて! 魔断抜刀!」

 しかしリンは重力波を切り裂くとガロンを追いかけて駆け抜けていった。残されたサレンはリタスがリンに攻撃できないように光の弾を放って牽制する。

「厄介な女……とっとと潰してガロン様にお力添えしませんと」

「生徒たちの安全のため、止めさせていただきます」

 重力波の中、サレンはジリジリと押しつぶされながら魔力をまといその身を光らせる。

「ちっ、うざったいね! その無い胸もっとぺちゃんこにしてやるよ!」

「人が気にしてることをズケズケと! 光刃!!!!」

 コンプレックスだったのだろう。胸囲のことを触れられたサレンは大きく怒りながら巨大な光の刃を放ちリタスを切り裂こうとする。しかしリタスが軽く身を捻っただけで光の刃はかわされて霧散してしまう。

「あらあら、お胸だけじゃなくておつむも足りないのかしら?」

「無駄に育ったその贅肉切り落としてあげますよ……!」

 バチバチと魔術だけでない女の戦いが始まろうとしていた。サレンに襲いかかる重力波は変わらず、身体に重くのしかかる。しかしサレンは魔力を身にまとい重力を感じさせない動きでリタスに迫っていく。

「や~ん、こわ~い! グラビデショット!」 

「く、あぁっ!」

 光の剣を持って斬りかかろうと飛び上がったところを横向きの重力をくらい吹き飛ばされてしまう。

「ん、くぅ……あぁっ……!」

「ほーら、潰れちまいな! グラビデ!」

「んぐっ、んあぁっ!」

 吹き飛ばされてバランスを崩したところに追撃の重力波。サレンは立ち上がろうとしたところを重力波で潰されてしまった。

「ははは、独立魔導学舎の教員とやらも大した事ないなぁ! ぁ?」

「光刃……!」

 サレンは重力に倒れ伏したまま小さな光の刃を放ちリタスの頬をわずかに切り裂く。

「よくも……よくも……!」

「光刃っ……!」

「よくもアタシの顔を傷つけてくれたなぁ!! グラビドンプレス!!」

「んぐっ、あああぁぁっっ!!」 

 再び光の刃を放ったサレンに対して、怒りのあまりさらに強力な重力波を放つリタス。サレンは自分の身体がミシミシと鳴っているのを感じながら魔力で身体を強化しながらなんとか耐えていく。

「潰れろ……! 潰れちまえ!!」 

「つぶ、れる……わけには……!」

 ギチギチと潰されながらも、なんとかサレンが立ち上がる。肩で息をしながら立つのがやっとと言った様子。しかしそれでもサレンは魔力をまとい、光を放って攻撃を繰り出す。

「ふん、滑稽だね。そんなになってまで守る価値があるもんかね」

「だまれ……」

「なんだって? 子供なんてやかましいだけじゃないか」

「子供の未来は、世界の未来です……それを守るのが、私たちの仕事……!! 大閃光!!」

「うわっ!?」

 カッとひときわ大きくサレンの身体が輝く。リタスは目が眩んで数秒視界が奪われてしまった。

「ちっ、なんだ眩しいだけの見掛け倒しかい……びっくりさせやがって……」

 数秒後、光が止み目を開けるようになったリタスは目を何度か瞬かせて再び視界を取り戻すと、先程まで重力に潰されていたサレンがいなくなっていた。

「どこに……!」

「上よ」

「なっ!? ぐあっ!」

 いつの間にか重力の影響圏から抜け出していたのか、サレンは魔術で浮遊しながらリタスの上を取り、光弾を浴びせる。不意をつかれたリタスはもろに光弾を食らってしまい、大ダメージを受けた。

「ここならあなたも迂闊に重力を使えないでしょう」

「舐めやがって……! 上等だ! ヘビーグラビドン!!」

「まぁ! でも、遅い! 光槍!」

 リタスが自分もろとも重力で押しつぶしてサレンを潰そうと魔術を放つより速く、サレンの槍がリタスに突き刺さり意識を刈り取った。

「閃光によって加速した私には、あなたの重力は遅すぎたわ」

「あ、が……」

「っく、少し、疲れました……学舎に戻って休憩を……」

 閃光による自身の爆発的な強化は、代償に魔力と体力を無尽蔵に消費する。サレンは倒れそうになる身体を引きずりながら学舎へと戻っていく。

『サレンちゃん大丈夫?』

「リコ教員……少し戻って休みます……」

『はいはい、交代は探しとくからゆっくり休みな』

「ありがとう、ございます……」

 魔力探知をしていたのだろうリコから連絡が来てサレンの担当区域に入る要員を探してくれるらしい。おそらく東の方を担当していた教員が来るのだろうが、誰にせよ疲労困憊状態のサレンよりは安心して任せられるだろう。


「リタスでは足止めもできないか」

「重力の女か? 相手が悪かったな。俺はあの程度の魔術なら魔力ごと切り裂ける」

「仕方がない、リン・クロビツを相手にはしたくなかったが……」

「ならそのままお帰りいただいでもいいんだぞ」

「そういうわけにもいかないのでな。ガロン・ブリスト、いざ……!」

「魔力充填……」

 ガロンが学舎に侵入する前にリンは追いつくことに成功した。ガロンはリンを認識すると振り払うのを諦めて向き合って戦闘することを選んだ。二人の魔力が高まり、ぶつかり合う。

「アクアカノン!」

「抜刀一閃!」

 勢いよく放たれた水流がリンの居合によって両断される。そのまま斬撃はガロンまで飛んでいくが魔力によって阻まれて掻き消えた。

「ふん、この程度では通じんわな……」

「この距離では流石に斬れないか」

 お互いの力量を測る一手目が交差し、緊張が高まる。そして本番と言わんばかりに苛烈な攻撃が始まった。

「アクアショット!!」

 水の弾丸が雨あられと降り注ぎ、リンに襲いかかる。リンは切り落とすのを諦め、ステップで回避していくが、弾丸の嵐はどんどんと追いかけてくる。

「しっ!」

 リンは駆け抜けながら斬撃を放つが水の膜がそれを阻みガロンまでは届かない。

「そらそら! アクアブレード!」

 水の弾丸にまじり、大きな水の刃が飛びかかる。リンは避けるのを諦め、魔力を高めて小さな弾丸を弾いていく。そして、魔力の刀を構えて抜き放った。

「抜刀一閃!」

 水の刃は一刀のうちに両断され、斬撃は弾丸を切り裂きながらガロンへと牙を剥く。

「アクアシールド!」

 しかし水の盾が生み出されガロンの身を守った。遠くからの一撃ではガロンに届く前に阻まれ、しかし近づこうにも水の弾幕がそれを許さない。リンは相性の悪さを実感し始めていた。

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