第11話

 リンの魔術は一撃を研ぎ澄ませて切り裂くという性質が強い。ガロンの魔術のように形がなく手数も多い相手とは相性が悪かった。だからといってリンは撤退する気も協力を要請するつもりもない。自分の力で切り伏せられると信じて疑っていなかった。

「アクアショット!」

 ガロンから放たれる水の弾丸がリンの足をせき止める。魔力のシールドで防ぎながら距離を取って隙を伺うが濃い弾幕は止む気配がない。

「抜刀双閃!」

 牽制も兼ねて二段の斬撃を放つが弾幕で威力が減衰されてしまいガロンまで届くことはない。弾幕もすぐに復活し突破するのは容易ではないだろう。斬撃で弾幕を弾き近づいて必殺の一撃を放つ、というのはあまり現実的な戦略ではない。リンは魔力を大きく溜めるとグッと深く身体を沈めた。

「大切断っ!」

 大きく溜めた力を一気に振り抜く。魔力のこもった斬撃は巨大化し、水の弾幕を弾き飛ばしていく。リンは弾幕が晴れた空間を一気に駆け抜けガロンとの距離を詰める。

「ぬっ!? アクアシールド!」

「その程度、この距離なら障害でもない。抜刀一閃!」

 至近距離まで迫ったリンは、魔力の刀で水の盾ごとガロンを切り裂いた。

「ぐふぁっ! みご、と……」

「ふぅ」

 倒れ伏したガロンはリンの実力を認め意識を失った。リンは息を一つつくとリコに連絡魔術をつなげた。

「リコ先生、周囲の状況は?」

『リンくん、とりあえずサレンちゃんは相手の幹部を撃破したよ。カイルくんが足止めした隊が向かって来てるから余裕があるならそっちをお願い』

「了解」

 リンはカイルが向かっていた方向から来る魔力反応を確認すると魔力を込めて斬撃を放った。

「遠斬り!」

 威力を落とした代わりに飛距離の伸びた斬撃を複数放って向かってくる部隊を切り裂いていく。

「ぐあっ!?」

「なにっ!?」

 突然前から飛んできた斬撃に対応できずどんどんと斬られていく部隊。すぐにカイルも後ろから追いつき氷と斬撃の挟み撃ちにあいあっという間に壊滅してしまった。

「カイル、おつかれ」

「リン、そっちは大丈夫だったか?」

「ああ、多少苦戦はしたが、まぁ大したことはなかったよ」

「そうかよかった。これで全員か?」

「多分、リコ先生」

『あいあい、周囲の魔力反応はほとんどない。敵はもういないだろうね』

「だそうだ。戻って生徒たちの勇姿を見ようじゃないか」

「ふぅ、そうだな」

 軍に後処理を要請して、監獄へと敵部隊が輸送されていくのを確認した二人は学舎へと戻って発表祭の監督へと戻った。


「カイル先生!」

「おっと、キリエ。調子はどうだ?」

 学舎に戻ったカイルを出迎えたのは満面の笑みのキリエだった。キリエは競技が終わったところなのか若干汗ばんでいた。

「バッチリです! 次の二回戦も負けません!」

「そうか。頑張ってこい」

「はい!」

 キリエは朝からカイルが席を外していることに違和感を覚えていた。そのカイルが何事もなく姿を現したことに安心しているようだ。

「その前に俺の番だぜセンセー」

「ロイ、調子は良さそうだな」

「おうよ! 全員ぶちのめしてやるぜ!」

「はは、頼もしい。空回りするなよ」

「ああ!」

『一年次二組、ロイ・アニシダ。同じく一年次一組、アイリーン・ボイド。演習場へ入場ください』

 カイルがロイと話しているとちょうどロイが呼び出された。ロイは気合を入れ直すと演習場へと堂々と歩いていった。

「アイリーン、容赦はしないぜ」

「ロイさん、私負けませんわ」

 ロイとアイリーンはお互いに火花を散らして魔力をまとう。ロイは属性を持たない純粋な魔力を、アイリーンは風をまとって構える。

「構えて、はじめ!」

 審判となる教員の合図でロイがアイリーンに飛びかかる。魔力で強化されたロイは高速で踏み込み拳を叩き込む。しかしアイリーンのまとう風がロイの拳を逸らしてしまう。

「ちっ!」

「まったく、驚きましたわ! 暴風!」

「うおぁっ!?」

 強い風がロイを包み吹き飛ばそうとする。ロイはたたらを踏んで風に耐え、再びアイリーンに迫る。アイリーンの風に吹き飛ばされながらもロイはじわじわと近づいていく。拳を構えて風を防ぎながら一歩ずつ近づくロイ。

「ぐぬぬ、お、らぁ!」

「きゃあっ!」

 風に煽られながらも強力なパンチを繰り出したロイ、アイリーンに直撃こそしなかったものの衝撃は与えたようで風が止んでしまう。

「そのままぁっ!」

「くっ、風壁!」

「おせえっ!」

 ロイの拳がアイリーンの身体に突き刺さって吹き飛ばす。ロイはそのままラッシュを繰り出そうとするが審判がそれを制止した。

「そこまでっ! ロイ・アニシダの勝利!」

「よっしゃぁ!」

 アイリーンはロイの拳を受け止めきれず意識を失ってしまった。そのまま救護室に運び込まれて治療されるのだろう。

「見てたかセンセー!」

「ああ、いい勝負だった」

「だろ! 次も勝つから見てろよな!」

「分かった分かった。次の出番までゆっくり休んでな」

 ロイは勝ち誇り調子に乗った様子でクラスの待機場所に戻ってきた。カイルはロイを褒めると同時にクールダウンするようにたしなめる。

 その後も様々な年次の生徒が呼ばれ、勝敗を争っていく。

『一年次一組、ソルト・マクダス。同じく一年次二組、キリエ・クロイツ。演習場へ入場ください』

「カイル先生、行ってきますね」

「おう。がんばってこい」

 そしてキリエの番がやってきた。キリエはカイルに向けて挨拶をすると演習場へと歩いていく。

「キリエくん、残念だけど君はここまでだ」

「私は負けません」

 キリエに話しかけるソルトだがキリエはたった一言で切って捨てる。立ち位置に立って魔力をまとって構える。

「構えて、はじめ!」

「氷弾!」

 キリエの放つ氷の弾丸がソルトに襲いかかる。ソルトは素早いステップでキリエの攻撃を避けて魔術で反撃していく。

「水流波!」

 ソルトの放つ水の流れがキリエを飲み込もうとうねる。しかしキリエも素早く飛び退り攻撃を避けた。

「氷針!」

「水弾!」 

 氷の針と水の弾がぶつかりあい相殺される。お互いの攻撃は拮抗していてなかなか決定打が生まれない。氷と水、弾と弾。ぶつかり合う魔術がじわじわと二人を消耗させていく。

「はぁっ、氷弾!」

「水だ、うわっ!?」

 キリエの氷の弾に対して水の弾を打ち出そうとしたソルトが凍った地面に足を取られて転んだ。その隙にキリエの放った氷弾が鋭く突き刺さる。

「うわっ、わああっ!」

「そこまで! 勝者、キリエ・クロイツ!」

「やったぁ!」

 キリエは年相応の少女のようにはしゃいで喜びながら待機所に戻ってきた。

「カイル先生! どうでしたか!?」

「ああ、いい作戦だったな。よくやった」

「えへ、えへへ……」

「あんなの運がよかっただけじゃん」

 カイルに褒められるキリエを見てロイが文句を垂れる。確かに運が良いだけに見えた勝利だがカイルの評価は違った。

「違うぞロイ。キリエは氷の攻撃を散らしながら冷気を少しずつ広げて氷の範囲を広げていたんだ」

「狙ってたってことかよ」

「ふふん」

「凍った床に誘導するまではできてなかったが、あれだけ凍らせて移動していれば相手が凍ったところを踏むのは時間の問題だ。攻撃が拮抗している相手を崩す手段としていい方法だ」

 カイルは自分も氷を使う魔術師であることからもキリエの作戦を高く評価していた。ロイはまだ少し納得していないようだったがそれ以上噛みつくことはなく大人しく席に座った。

「さて、今日はここまでか。明日も残ってるやつは明日に備えて休むように。それと上級生の魔術や作戦を見て学ぶのも忘れるなよ。実践は良い教科書だ。上級者の真似は上達の近道だからな」

「おう!」

「はい!」

 

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