第14話

「雷壁」

「ぐおあっ!?」

 バチンっと大きな音が響きロイが雷の壁に弾き返される。拳からは煙が立ち上り一瞬焼き焦げたのがよく分かる。

「いってぇ……やってくれるじゃんか……」

「……雷弾」

 どう攻めるのがいいか考えるロイにそんな暇は与えないと言わんばかりに雷の弾丸が何発も飛んでくる。魔力をまとった拳で叩き落とすが高速の弾丸すべてを落とすことはできず何発かは身体に撃ち込まれてしまう。

「ぐっくそっ!」

 バックステップ。距離を詰めたいロイとしては一番やりたくない選択肢だが攻撃を受け続けるわけにもいかない、距離を取って弾丸を避けつつ攻めの起点を探す。

「……雷弾・連」

「増えっ! く、っそ……!」

 距離を取って躱し続けるロイを追い詰めるように更に弾幕が濃くなる。ロイはまとう魔力を増やして防御を固めるが長くは続かないだろう。

「だぁらっしゃああぁっっ!!」

 取った選択肢は突撃。弾丸を避けるように回り込みながらラナスに突っ込んでいく。避けきれない弾幕は被弾覚悟で突っ込み、拳を振りかぶる。

「雷壁」

 試合開始時と同じように雷の壁でロイの突進を防ごうとするが、ロイはバチバチと火花を散らしながら雷の壁を強引に突き抜けた。

「っしゃおらあぁっ!!」

「っ!?」

 全身の体表を焼き焦がしながら突撃してくるロイに怯んだのかラナスの動きが止まる、そしてロイは勢いのまま拳を振り抜いた。

「……?」

「……がっ……」

 振り抜いた拳は力なくラナスにかすり、そのままロイは地面に倒れ伏した。

「そ、そこまで! 勝者、ラナス・ケイト!」

 審判の合図と同時に救護教員が駆け寄りロイを運び出していく。行き先は当然救護室だろう。カイルは再び救護室へと急いだ。


「カイル先生! ロイくんが……!」

「キリエ! もう大丈夫なのか」

「はい、私は……でも……」

「安心しな、アタシが死なせないよ」

 救護室に駆け込んだカイルを出迎えたのは元気になったキリエだった。キリエはロイを心配してオロオロしているがカナが通りすがりに声をかけて安心させる。キリエはなおも心配そうだったがカナに任せるしかないと分かっているのかそれ以上はカイルの裾をぎゅっと握るだけだった。

「全く、またこの子かい、無茶ばかりするこだね……どれ、これはひどい。雷に打たれすぎだ」

 カナの診察が始まりロイの惨状がカナの口からこぼれ出る。全身火傷に裂傷、体内も電撃が焼いているようだ。すでに雷は体内から逃されているようだがその傷跡はあまりにも深い。カナは全身を見終わると両手に魔力を込めてロイの治療を始めた。

「癒術・波動」

 カナの手から放たれた魔力がじんわりとロイを優しく包み込み傷を治療していく。体外から魔力を流し込むだけの治療ということはカナの腕なら無事に治るだろう。カイルはほっと胸をなでおろした。

「ふぅ、とりあえずはこんなもんさね。まぁしばらくは目を覚まさないだろうけどひとまずは安心していいよ」

「よかった……」

「助かった。ありがとな、ババア」

「ふん、あんたも教員なら無理しすぎないように言うんだね。戦場でもこんな無茶は通らない」

「よく言っておくよ」

 治療を受けて穏やかな表情で眠るロイ。心配そうに見に来たキリエもその様子を見てホッと胸をなでおろしていた。

「キリエ、もう大丈夫なら見学に行くか? まだまだ上級生の試合は残ってる」

「はい、私も強くなりたいですから」

「よし、じゃあ戻るぞ。ババア、ロイをよろしく頼む」

「あいよ。二度と来ないことを願ってるよ」

 カイルは最後にロイの頭をそっと一撫でするとキリエを連れて待機所に戻った。待機所に戻るとちょうど一年次の試合がすべて終わったところで、ラナスが頭一つ抜けた実力を見せつけていた。

「まぁ、妥当な結果だな。一年次であれに対処できるのは少ないだろう」

「先生ならどう対処しますか?」

「俺か? 俺なら冷気で閉じ込めても氷を撃ち出しても打ち勝てるからな。地力の差で押し勝てる」

「……」

「分かってるよ。キリエがどう対処するべきかは、その時の状況にもよるが氷で撃ち落とされるなら地面を凍らせるとか冷気で相手の判断を惑わせるとかかな」

「なるほど……」

「氷に限らず魔術は想像力が試される技術だ。普段からいろんな手札を用意してとっさの引き出しを増やしておいたほうが良い」

 そう言うとカイルは手元に氷のりんごを生み出し、それを犬に組み換え、最後は一輪の花に変わった。

「ここまでできるようになれとは言わないけど、こういう遊びをたまにやってもいいかもな。魔力操作の練習の一環だな」

 カイルの魔力操作を見て生徒たちが息を呑む。練習を重ねればああいう芸当ができるのかという憧れと自分にあんなことができるのだろうかという不安が混ざった視線がカイルに突き刺さる。

「魔力操作は才能もあるが練習が物を言う技術だ。毎日少しずつでも練習し続ければいつかはさっきみたいなこともできるようになる。がんばれよ」

「はい!」

「とは言え今は見学の時間だ。上級生のハイレベルな魔術をよく見て学べ」

 演習場では二年次の生徒が試合を行っており、先程よりレベルの高い攻防が行われていた。高速で飛ぶ水の槍、と同時に地を這いながら襲いかかる水のツタ。二段同時攻撃だが土の柱で自分を持ち上げて両方の攻撃を避ける、と同時に上から土砂を振り落とす質量攻撃。単純な攻撃では簡単に捌かれるとわかっててそれを対策する二段三弾の攻撃や防御。ラナスの圧倒的な雷でさえ彼らの洗練された攻防には敵わないと思わされる圧倒的な差。これがたった一年の差なのかと思い知らされる。

「勘違いするなよ。あくまでもこれは二年次の上位だ。全員が全員このレベルなわけじゃない」

「でも目指すべき場所ではあります」

「そうだな。この差を埋める時間は一年間たっぷりある。まだまだ伸びしろのあるお前たちなら充分追いつけるさ」

 演習場では土魔法を使った女生徒が勝利を収めていた。それからも二年次、三年次のハイレベルな攻防が繰り広げられる。一年次の生徒はそれらに圧倒され、その中で自分のマネできるところはないかとかじりつくように観察する。魔力量が成長しきってない分劣っているのは仕方ないとしても技術はなにか応用できるはず。そうやって見ているうちに二年次、三年次も最優秀生徒が決まった。

「それでは本年の最優秀三年次、クロム・アダベルと教員によるエキシビションマッチを行いたいと思います」

 エキシビションマッチ。最高学年である三年次の最優秀生徒と教員が試合形式の組手を行いその実力を見せるとともに教員の実力維持を確かめる目的もある。普通なら感謝も込めて担当教員を指名するのだがここ数年はそうならないことが多い。

「ではクロムさん、エキシビションマッチの相手の教員をご指名ください」

「カイル先生で」

「はぁ……よく見とけよ、色々見せてやるから」

 ここ数年は学園でも随一の実力者との手合わせとしてカイルが指名される事が多かった。カイルはため息をつきながら演習場へと歩いていく。

「カイル先生、お手柔らかに」

「最優秀生徒おめでとうクロム。こちらこそお手柔らかに」

「双方構えて、はじめ!」

「大雷槍! 雷撃陣!」

「いきなり飛ばすねぇ」

 クロムは開始の合図とともに雷の大槍を二本放ち、カイルを囲むように上空から落雷を落とし逃げ場をなくす。カイルはゆるく構えたまままとった冷気を強めると落雷の瞬間に自身の周りを氷で覆って落雷と大槍を防ぐ。

「さすが、この程度では崩れませんか」

「まぁ、教員がそう簡単に生徒に負けるわけにはいかんからな」

 

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