第15話

「だったら、雷拳!」

「ステゴロか? いいぜ」

 クロムがまとっている雷を強化し、特に拳に集中させてカイルに突っ込んだ。カイルは拳を構えて受け止める構えで迎え撃つ。

「ふっ、しっ、はっ!」

「よっ、とっ、おっ」

 高速で繰り出される雷を纏ったクロムの拳を冷気をまとった拳でいなす。触れる瞬間だけ小さな氷の層を生み出すことで身体に電撃が流れるのを防ぎながらの防御でクロムの攻撃を完全にシャットアウトしていた。

「くっ、やっ、どりゃあっ!」

 クロムの攻撃は勢いを増し雷も出力が上げられたがカイルの薄氷が壊せない。カイルは的確な防御を繰り返し最低限の魔力と動きで防ぎ続ける。

「ふっ、とりゃっ、……雷撃!!」

 至近距離からの雷撃がカイルを襲う。しかしカイルはそれにも的確に氷の盾を作り出して防ぎ切る。

「さすがはカイル先生……雷刃・双!」

 拳を振るい続けながら立て続けに雷の刃を二つ生み出しカイルに斬りかかる。正面からはクロムの拳、左右からは巨大な雷の刃、カイルを襲う三方向からの攻撃。ここで初めてカイルは魔術行使に言葉を紡いだ。

「氷塞」

 バキィッンと甲高い音を立てて巨大な氷がカイルを包む。氷でできた堅固な要塞は、クロムの拳も巨大な雷の刃もまとめて弾き返した。

「かって……マジか……」

 クロムは今の拳に渾身の力を込めていた。雷の刃もかなり高い出力を放っていた。その同時攻撃をして、傷一つつかない要塞は絶望的なまでの堅牢さを誇っていた。

「まずは、引きずり出す!! 雷熱線!!」

 氷を溶かすには高熱。電撃反応で発生する熱を高めて放つクロムだがカイルの要塞は溶ける気配を見せない。打撃、熱線、雷撃……。あらゆる攻撃手段すべてを弾き返す無敵の要塞を突破する術はクロムには思いつかなかった。

「無理っすわ。降参します、カイル先生」

「それまで。勝者、カイル・リベリア」

 クロムは両手を上げて降参の意思を伝え審判の合図で試合が終わった。カイルは氷の要塞を溶かしてクロムに歩み寄ると固い握手を交わした。


「ふむぅ……なかなかやるが……」

「カイル君も容赦がない。最優秀生徒が霞んでるではないか」

「いやいやクロム君の実力は充分ですよ。中央の魔導隊員になるのも可能でしょう。ただ……」

「圧倒的ではないのう……」

 視察に来ていた軍の上層部からの評価も辛口。クロムは優秀だが十年に一度の逸材ではないと判断されてしまっている。カイルに封殺サれているからそう見えるというのもあるかもしれないが、実際クロムの現時点での実力は若手にしては強い程度であって軍全体としては戦力にはなる程度の評価でしかない。将来的に成長すればどうかはわからないが、今すぐ魔導隊長として一地域を任される等といったことはないだろう。

「じゃが雷という属性は良いな」

「雷部隊はいつも人不足で嘆いてるからのう」

「ふむぅ、それ込みで中央かの」

「ええ、将来どう育つかも楽しみじゃ」

 珍しく強力な雷属性の魔術を使えると言うだけで評価が上がる。実際帝国中央軍魔導部門雷部隊は人数不足で優秀な雷属性の魔術を扱える人材は求められている。発表祭が終わって数日後にはクロムに中央軍から何らかのアクションが取られるはずだ。


「お見事でしたカイル先生。手も足も出ませんでしたよ」

「はは、まぁこっちにもメンツってもんがあるんでな。とはいえクロム、その年齢でこれだけできれば将来は有望だ。中央でもなんでもいってこい」

「ありがとうございます。まだどうなるかはわかりませんが、帝国のためにこの魔術を捧げる覚悟ですよ」

 固い握手を交わしたあと、談笑しながら演習場を出る二人。それぞれのクラスの待機場所へと分かれるとそれぞれが熱烈な歓迎を受けた。

「クロム! お前やるじゃねえか! あのカイル先生に魔術を使わせるなんてよ!」

「カイル先生選びやがってお前私への恩はないのか~!」

「なぁ! カイル先生どうだった!? やっぱどうにもならんか!?」

「おわあぁ落ち着けってみんな!」

 クロムは学内最強とも言われるカイルとの直接対決の感想を求められ詰め寄られている。一気に詰められて対応に困っているが少しすれば落ち着いて一つずつ対応していくだろう。

「先生! クロム先輩どうだった!?」

「怪我はありませんか!?」

「先生あの殴り合いのとき何起きてたの!?」

「落ち着けってお前ら、一人ずつ聞いてくから」

「先生!」

「落ち着けって言っただろうがボケ」

 カイルの方も生徒たちに名実ともに学内最強生徒のクロムとの試合の感想を求められていた。カイルは生徒たちに落ち着くようにたしなめるが知りたい盛りの一年次たちはなかなか落ち着かない。五分ほどかけて落ち着けると一人ずつ対応していった。

「それで、先生! クロム先輩どうだった!?」

「かなり強かったな。俺はああ言う戦い方慣れてるから最後以外魔力操作でなんとかしたがそれでどうにかなるギリギリって感じだったな。実際最後は結構でかい魔術使わされたしな」

「カイル先生! お怪我は?」

「いやしてない。流石に生徒に傷つけられましたで救護室行くのはカッコ悪いからな。攻撃は全部防がせてもらった」

「よかった……」

「先生! 殴り合いは何が起きてたの!?」

「ステゴロか? そうかその解説は必要だな。クロムの拳は当然雷をまとっていた。ロイとラナスの大会でもあったように何もしないで雷をまとってる拳と打ち合うとこっちが電撃に焼かれちまう。だから拳と拳が触れ合う間に薄い氷の膜を張って防いでたんだ。こんな風に」

 そう言うとカイルは薄氷を身体の周りに巡らせて見せた。この薄氷が盾となってクロムの雷を防いでいたのだ。

「とまぁ、こんな感じだ。拳の周りが特に強化されてたからそこ防げば他のはまとってる冷気や魔力で防げる範囲だったからな」

「すげ……」

「最後の技は!?」

「氷塞か? あれは高密度低温度の氷を自分の周りに生み出して要塞化する魔術だな。まぁ真似事くらいなら簡単だろうがこの術の本懐は絶対防御。砕かれることがあってはいけない。まぁ、高い魔力と魔力操作精度、あとは運用の慣れだな」

 カイルは生徒の疑問に一つ一つ丁寧に答えていく。そうこうしているうちに発表祭を締めくくる校長の挨拶も終わり、発表祭は終りを迎えた。

「うーし、じゃあ発表祭で経験したこと、見たことを忘れずに明日からの授業、演習に臨むように。解散!」

「お疲れ先生!」

「お疲れ様でした先生」

「おうお疲れー」

 生徒たちが寮へと帰っていくのを見守るとカイルは実験室へと足を向けた。

「リコ先生、お疲れ」

「カイルくん~? どしたん?」

「発表祭が終わったからその報告にな。警戒お疲れ様」

「ん、ん~~~~っ! 終わったかぁ……とりあえずすぐに警戒用の探知魔術切るわけじゃないけど範囲縮小くらいはしていってもいいかな」

「まぁいいんじゃないか? 脅迫状を出したのもあいつらだって監獄の方から連絡あったし」

「あ、そなの? じゃあほんとに一安心かな。つかれた~……」

 リコはへなへなと力なく崩れ落ち机に突っ伏した。発表祭当日だけでなくその前からずっと警戒のために探知魔術を使っていたリコはこの発表祭を裏から支えていた功労者だろう。

「ま、今日のところはゆっくり休んでくれや」

「そうする……もう思いっきり寝てやる~!」

「はは、いいじゃないか。酒でも持ってくるか?」

「お? 久々に呑むか? いい酒持ってきてよね」

「はは、リンとかサレン先生も呼んで飲み会と行くか」

「いいね、呼んだよ」

「相変わらず酒となると仕事が早い。んじゃあ酒持ってくるわ」

「期待してるよ~」

 

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