第13話
発表祭の二日目は初日を勝ち残った者だけが出場できる。とはいえ二日目は基本的に上級生の試合がほとんど、一年次の生徒は初日で殆どの試合を終える。カイルの担当しているクラスでも残っているのはキリエとロイの二人だけ、一年次全体でも八人だけだった。
『一年次二組、ロイ・アニシダ、一年次三組、クレス・タランド。演習場へ入場ください』
「よっしゃぁ! いってくるぜ!」
呼び出されたロイは威勢よく演習場へと飛び出す。いち早く演習場の中心に立って相手を待ち構える。相手のクレスはゆっくりと歩いて入場してきて、挑発的にロイに声をかけた。
「相変わらず暑苦しいね君は」
「はんっ! スカしてるよりはよっぽどマシだと思うけどな!」
バチバチと火花を散らす二人に審判の教員が立ち位置に戻るように促した。二人はにらみ合いながら立ち位置に戻ると、開始の合図が響き渡った。
「構えて、はじめ!」
「おらおらおらぁっ!!」
魔力をまとったロイがクレスに向かって突進する。強化された肉体は弾丸のように高速の突進を可能にする。先手必勝、ロイは拳を振りかぶって振り抜く。しかしクレスもすんでのところで拳を避けて距離を取った。
「全く、イノシシか何かか君は! 炎弾!」
クレスはまとった炎を弾丸に変えてロイに向かって撃ち出す。ロイは近接戦闘に持ち込もうと炎を拳で撃ち落としながら接近していく。しかしクレスは一定の距離を保ちながら炎の弾丸を撃ち続け接近を許さない。相手の得意な土俵では戦わないという意思がよく見える作戦だ。
「ちょこまかちょこまか……!」
「お前こそしつこくつきまとってきやがって……!」
距離を詰めたいロイと詰めさせたくないクレス、純粋な追いかけっこに見えるが炎の弾幕を落とし続けるロイの方が消耗は激しい。少しずつクレスの逃げ足に余裕ができてくる。
「はっは、はぁ……」
「ふふ、スピードが落ちてきたんじゃないかい?」
「うる、せぇ……!」
余裕ができたクレスは炎を飛ばしながらロイを挑発していく。挑発に乗ったロイは被弾も構わず突撃していくがクレスはひょいっと身を躱して避けた。ロイはそれでも何度も突撃を繰り返すがクレスは余裕を持って躱し続ける。
「クソ、があああぁ!!」
「おっと危ない」
何度目かのロイの突撃、今まで通り身を躱したクレスだがロイは素早く切り替えして躱した先へ方向転換をする。
「なっ、炎壁!」
クレスはとっさに炎で壁を作るがロイの突撃は止まらない。体表を焼きながら突っ込んできたロイは渾身の力で拳を振り抜いた。
「おっ、らあああぁぁぁっっ!!」
「ぐあっ!」
避けきれなかったクレスは顔面に拳を食らって大きくふっとばされる。なんとか意識を残して立ち上がろうとするがロイは素早く詰め寄るとトドメの一撃を食らわせた。
「うおらっ!」
「うぐっ……」
「そこまで! ロイ・アニシダの勝利!」
「っしゃあああぁっ!」
ロイは煙を漂わせたまま勝どきをあげる。観客からも拍手が送られて称賛の嵐の中ロイはカイルたちの待つ待機場所へと帰ってきた。
「へへ、やってやったぜ!」
「ロイ、救護室へ行くぞ」
「あ? ちょっと痛えけどこれくらい、つめたっ!」
「俺の冷気で冷やしとけ、火傷はほっとくと危ないからな。キリエ、すまんがちょっと離れる」
「はい。いってらっしゃい」
「はなせ! 俺は平気だから!」
カイルは意地を張るロイを抱えて救護室へと急ぐ。
「ババア、火傷の治療頼む」
「クソガキ、患者はどこだい」
「こいつだ。さっき炎の弾幕に突っ込んで殴りかかってた」
「はぁ、バカかいこいつは……どれ? 全身ひどいねこりゃ」
「カナ先生! 俺は平気だ!」
「平気なもんかい。まぁこの程度ならすぐ治るさね。ほい」
カナはロイの火傷に軟膏を塗っていくと魔力を流して治癒力を活性化させた。
「このクソガキに感謝するんだね。すぐに冷やされてたから治りも早い。次の試合も出られるよ」
「ほんとか!?」
「大人しく寝てたらね。ほれ、怪我人はベッドに行った行った」
「はーい……」
カナの手早い治療を受けたロイはベッドで安静を伝えられる。ベッドに寝転んだロイは疲れからかすぐに眠りに落ちてしまった。
「ありがとな、ババア」
「ふん、アタシは自分の仕事をしただけだよ。ほれ、邪魔するなら帰った帰った」
「後でロイを迎えに来る、またな」
カイルが待機場所に戻るとキリエが呼び出されて演習場に向かったところだった。キリエは少し緊張した様子で構えている。相手は一組のエース、ラナス・ケイト。ラナスは落ち着いた様子で緩やかに構えていた。
「双方構えて、はじめ!」
「氷弾!」
審判の合図と同時にキリエの氷の弾丸が放たれる。ラナスはまとっている雷を強く打ち鳴らして弾丸を撃ち落とす。キリエは何度も何度も弾丸を打ち込むがラナスのまとっている雷を貫けない。
「くっ、だったら……! 氷槍!」
「雷撃」
弾丸がダメならと質量を大きくした槍を放ったキリエ、しかしラナスは強力な雷を放ち槍すらもたやすく砕いてしまう。
「雷槍」
「きゃっ、氷壁! きゃあああっ!!」
ラナスが雷の槍を放つとそれを防ごうとキリエは氷で壁を作る。しかし氷の壁は簡単に貫かれ、そのままキリエの身体を雷が駆け巡った。
「そこまで! 勝者、ラナス・ケイト」
強力な電撃がキリエの意識を刈り取り、そのままラナスの勝利が確定した。キリエは救護室へと運ばれ、治療されることだろう。カイルはまたすぐに救護室へと駆け出した。
「キリエは!?」
「クソガキ、うるさいよ。嬢ちゃんなら無事さね。今はぐっすりさ」
カナの言う通りキリエは大きな外傷も目立たずすやすやとベッドで眠っているようだった。カイルはホッと一息つくと、ロイのベッドを探した。
「よぉ先生」
「ロイ、調子はどうだ?」
「ぐっすり寝たからな。もうバッチリだ」
「アンタも治りが早いね。どれ、診せてみなさい」
カナはロイの身体をじっくりと観察してすっかり治っていることを確認するとベッドから立たせた。
「ふん、確かに治ってるね。もう来るんじゃないよ」
「ありがとな! カナ先生!」
ロイは元気よく挨拶をするとカイルと一緒に待機場所へと戻っていく。
「先生、キリエは……」
「ラナスに負けた。今は救護室で治療してもらって休んでる」
「そうか……ラナスか……」
キリエの仇を討ちたいと思っているのか個人的な因縁でもあるのかふつふつと闘志を燃やすロイ。カイルはロイを落ち着かせながら待機場所へと戻ってきた。
「キリエは休んでる。カナ先生が言うには治療はもう終わってるから安心して良いそうだ。そして、ロイはこの通り元気になって戻ってきた。ロイの戦いを応援してやってくれ」
「うおおおお! ロイ、いけえええ!」
「よっしゃあああ!」
二組の最後の勝ち残り、ロイをみんなで応援するようにカイルが煽り、クラスメイトもそれに乗っかり大きく叫ぶ。ロイも乗せられて大きく吠えて気合を入れる。時間的にロイの出番が来るのも近いだろう。
『一年次二組、ロイ・アニシダ。同じく一年次一組、ラナス・ケイト。演習場へ入場してください』
「ラナス……!」
残った一年次は四人。当たる可能性は高かったとは言えキリエの敵を取るチャンスだ。ロイは気合を入れ直して堂々と演習場へと入場すると大きく叫んで構えた。
「うるさいね君は」
対するラナスは落ち着いた様子で入場してくるとゆるく構える。
「双方、構えて。はじめ!」
「うおらあああああっ!」
先手必勝、ロイははじめの合図とともに大きく吠えてラナスに突撃した。
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