第6話
脅迫状が届いたと言うのを聞いてから、教員たちは対策を講じ始めた。結界の強度の確認、強化にはじまり周辺警備の強化に見回りの徹底。脅迫が実現しないように各教員が力を合わせて不安を徹底的に排除しようとする。不審物を見つけては確認して排除、部外者には徹底した身分確認。魔力反応があれば複数人で出どころの確認をするなど、普段よりも厳しい基準での警備は学舎のさらなる安全へとつながっているはずだ。
「くぁ~~……とはいえ、疲れるな」
「まぁ普段より仕事は増えるからな」
カイルが警備の交代で漏らす愚痴にリンが澄ました顔で返した。成果はあるはず。しかし発表祭まで何があるかはわからないという不安は少しずつ教員の間で広がっていた。
「カイル先生、リン先生……少しいいですか?」
「サレン先生? どうされました?」
「実は、魔力反応のある物体が見つかりまして……」
「分かりました。行くぞカイル」
「はいはい、もう一仕事いきますか……。サレン先生、案内よろしく」
「はい。こちらになります」
パトロール中に異変を見つけたサレンが協力を求めてカイルとリンを呼びに来た。ただの不審物なら一人でも対処できるだろうが魔力反応があるとなると話は別だ。最悪の場合高魔力爆発を起こす可能性もある。カイルとリンは警戒しながらサレンの後をついていった。
「これになるんですけど……」
「石?」
「確かに魔力反応はあるが……石だな……」
サレンが二人に見せたものは何の変哲もない石だった。魔力反応がなければ見落としてしまうであろうただの石。誰かが魔力を込めたのか、なんらかの魔術の残滓なのか。何にせよ不審なものには変わりない。
「とりあえず俺が触る」
「気をつけろよカイル」
「お願いしますカイル先生」
冷気を手にまといながら石を拾い上げるカイル。触れても何も起きず、パキパキと少しずつ凍結していく。
「何もないな……何かが起きている感じもしない。ん、魔力反応は中だな。外についている感じじゃない」
「探知魔術の類か? なんにせよ破壊しておくに越したことはない」
リンが魔力を込めるとカイルは手に持った石を高く放り投げた。
「抜刀双閃」
魔力で作られた刀が一瞬で二回閃き、石を四つに切り分ける。石の内部の魔力の核もきれいに切り裂かれ、石から発される魔力反応は消失した。
「とりあえずこれで解決かな」
「お二人ともありがとうございます」
「いいっていいって。仕事だしな。とりあえずこの残った石は分析に回すか」
「そうだな。反応もないし持ち込んでも問題ないだろう」
「ではリコ先生に連絡しておきます」
学舎の中でも魔力の分析や解析が得意なリコにサレンが連絡をする。有能ではあるのだが気難しいところもあり事前に連絡をしたことじゃないと頼みを受けてくれないこともあるためだ。
「では学園に戻りましょうか。サレン先生は引き続きパトロールを?」
「はい。まだ時間もありますし」
「そうか、ご苦労さま。無理しないようにな」
「はい。ありがとうございます」
「リコ先生には俺が持っていこう。その方が凍ってる理由も明白だろうしな」
「お任せします。それでは」
カイルは四つに割れた石を持ち、サレンと別れる。学舎へと戻り、実験室の主となっているリコを訪ねた。
「リコ先生、いるか?」
「んにゃ? カイルくん? サレンちゃんじゃなくて?」
くしゃくしゃの白衣をだらしなく着た女性教員、リコが顔を出してフランクにカイルに質問をする。年齢はカイルの方が一回り以上年上なのだがリコはこの呼び方をやめるつもりはないしカイルも気にしていない。
「サレン先生はまだパトロール。ほい、これが件の石だ」
「ふむふむ、凍ってるのはまだ中身がわからない時にカイルくんが拾ったのか。んでこの切り口はリンくんかぁ」
「そゆこと。色々ある時期だからしっかり解析頼む」
「ほいほーい。まっかせなさーい」
軽い口調だがリコの腕は確か。カイルが部屋を出ると石をじっと見つめて魔術を使った解析を始めた。
「この件に関してはリコ先生の結果待ちだな。さて、次は演習か」
実験室の中で解析が始まったのを感じながらカイルは生徒たちに演習をするため演習場へと向かっていった。
「今日の演習は帝国式戦闘術の基本、魔力をまとわせる演習だ。これを効率よく回すことで対魔術への強化、身体能力の強化、スムーズな魔術発動につながる。自然とできるようになるまで繰り返し叩き込むんだ」
「はい!」
「俺これ苦手~」
「ロイは一気に魔力を流しすぎている。もっと自然に少しずつ均一にやるんだ」
そう言うとカイルは少量の魔力を身にまとわせ冷気へと変換していく。
「こんなふうに」
「そりゃ先生はできるだろうけど……」
「できるまでやったからできるんだ。ロイもいずれできるようになる、ほらやったやった」
カイルのお手本と発破で生徒たちが各々広がってその身に魔力をまとわせていく。魔力量がブレる者や全身を覆えない者、何人かは安定した様子だが時間が経つにつれ少しずつ魔力が減衰していったり集中力が切れて精度がブレたりしてしまう。二十分ほど経つとほとんど全員がゼーハーと肩で息をするほど疲弊していた。
「よし、十分休憩。しっかり休めよー」
「カイル先生」
「キリエか。休憩はいいのか?」
「質問をしたら休みます」
「そうか。それで、どうした?」
少し顔をうつむかせたキリエがカイルのところにやってきて声を掛ける。少し汗ばんでいる以外は平気そうなのは安定して魔力をまとえていたからだろうか。優秀な生徒だ。
「最近、先生たちが、その……何かありましたか?」
「ん、あー。近隣で不審な集団がいるらしくてな。警戒を強めてるんだ」
「それにしては……」
「大丈夫だ。心配かけてすまないな。安心してくれ、俺やリン、サレン先生、他にもいろんな教員が警戒にあたってる。発表祭も問題なく開ける予定だ」
「……ならいいですけど。ありがとうございます。無理しないでくださいね」
「おう、キリエもしっかり休んでがんばれよ」
「はい」
キリエはなおも不安そうな顔をしていたがそれ以上追求することなくカイルから離れていった。
(キリエは聡い、ある程度何か察してるかもしれんな。とはいえ、バカ正直に脅迫されてますと言えるわけもなし。難しいねこりゃ)
(カイル先生、何か隠してる……私たちには言えないことなんだろうけど、さみしいな)
カイルの懸念通り、キリエはすでに教員たちが生徒に隠して何かを警戒しているのを察している。しかしだからといって詰め寄るようなことはしない。それをしても困らせるだけだというのが分かっているからだ。
「ほらそろそろ休憩終わりだぞ。立った立った」
「げ~もう終わりかよ」
「ふぅ、もう一踏ん張り……」
パンパンと手を叩きながらカイルが休憩の終わりを告げる。生徒たちはだるそうにしながらも立ち上がって再び魔力をまとう練習を始めた。
「ふぐ、ぐぬぬ……」
「ふぅー……」
「キリエはいい感じだな。集中しなくてもその段階を維持できるまで安定化サせられたら理想だ」
「は、い……」
「センセー、俺はー?」
「ロイはまず安定させろ。魔力量が多いからってそんなブレッブレだとすぐ魔力切れ起こすぞ」
「ってもなぁ……んぐぐ……」
成果が両極端な生徒にそれぞれ声をかけ、他の生徒にも少しずつ声をかけていく。声をかけられたことで魔力が乱れる者、集中しすぎて声が届かない者などもいたが、概ね指導は行き渡っただろう。
「よーしあと五分。気張ってけ」
「ふぅ……はぁー……」
「あと、少し……」
残り少しということで生徒が残った体力と魔力を振り絞って集中していく。カイルから見たらまだまだ未熟な生徒たちだが発表祭までにどこまで仕上げられるか。
「よし、そこまで」
「っぷはぁ! 疲れた~!」
「は、っはぁ……はぁ……」
「水分の補給を忘れずにしっかり休むように。じゃあ解散」
演習を終えて疲労困憊の生徒たちに休むように言ったカイルが演習室を出るとリコから連絡魔術が届いた。
「カイル君、今暇~?」
「ちょうど演習が終わったところだ。解析が終わったのか?」
「うん、だから実験室に来てね~」
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