第5話 魔法少女と忍者
自身の中で何かが弾ける。
それと同時に手の中で光っていたバッヂが更に強い光を放った。
その眩しさに、こちらに向かってきていた笑み食いが逃げるように退いたのが分かった。そう、この光は“夢”そのものだ。
「へぇ、いいじゃん魔法少女。最高じゃん。ねぇねぇ、忍者と魔法少女が一緒になって戦うシナリオとかどうよ?面白そうじゃね?」
「アニメ化したら教えて。絶対に観るから。」
「その前に実写版を見せてもらおうかな。そのバッヂの使い方は分かる?ただ“こういうのが使いたい”って考えるだけでいい。」
青年の言われた通りに自分の思い描く魔法少女を想像し、考える。するとバッヂを持つ手とは逆の手に、正しく彼女が考えていた通りの趣味全開でファンシーな魔法のステッキが具現化された。
とても愛らしく、プラスチック質の宝石が沢山散りばめられたどう見てもオモチャにしか見えないそれを、ずっと求めていたかの様に強く握る。流石は自分の想像の産物なだけあって、かなりしっくりとくるものがあった。
理想の魔法少女を想像すれば想像する程バッヂは煌々と輝きを増し、武器には力の様なものが流れて行く。今ならどんな敵でも倒せる様な気がしてきた。
「ねぇ、お前さんの理想の魔法少女ってやつは、まさかとは思うけど杖で殴る様な感じじゃあ無いよね?」
「まさか。私の理想は戦闘よりも……皆を守ったり、助けたりする魔法少女よ!」
ステッキを一振りする。すると淡い水色の光がニコラと青年に降り注ぎ、みるみる内にニコラの足の痛みは引き、青年に付いた擦り傷が消えて行った。
「回復か!尚更最高!」
「援護するから、君は攻撃に専念して!」
「はは!今のお前さん、めっちゃ魔法少女だわ。頼んだよ!」
今の私は魔法少女。漫画やアニメと同じ……いいや、それ以上に素晴らしい“理想的な魔法少女”だ!
そう思い込む事で更に力が強まる感覚があった。理想ばかりで、独りよがりで、恥でしかない妄想。でも今はそんな事は誰も言わない、否、言えないだろう。何故なら彼女はこの瞬間、本物の魔法少女だったのだから。
「いくよ。」
「うん!」
コンクリートの床を蹴り、笑み喰いに向かって全力で走る。
恐怖の対象へと近づいているというのに、何故か今は恐怖よりも自身が魔法少女であるという期待と責任と興奮と歓喜の気持ちばかりが先走っていた。今の彼女に逃げる、隠れるという選択肢は一切無かった。
「これも義務教育で教えられてると思うけど、笑み喰いの弱点は身体の中に隠されている硬い核……奴はそれを身体の至る所に移動させる事ができてしまうんだけど、大抵の笑み喰いはそれを人間で言う頭に置いてる。そこが一番安全だと思い込んでいるからね。」
「確かにあの大きさでこの距離だとどんな武器でも届きそうにないよね……どうするの?」
これは昔からわかっている事だが、笑み喰いは身を守ろうと弱点の核を上へ上へと移動させ、近付いて来ようと核に合わせて上へ向かってくる人間を、そこから一番遠いであろう下へと叩き落とそうとする傾向にある。
どうやって倒すのか?そんなの当たり前だ。最低でも自分の持つ武器が届く場所まで辿り着ければいい。
どうやってそこまで行くのか?そんなの当たり前だ。
「攻撃されてもいい覚悟でそのまま走って突っ込めば良いんだよ!」
「脳筋戦法はやめて欲しいかな!!」
「とりあえず自分が地面に落とされたらその度に回復を頼むわ!阿知波自分が無理矢理どうにかする!」
「どうにかって何!?」
「知らね!!」
「ちょっと!?」
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