第8話 まるで漫画やアニメの様


お互いに示し合わせたわけでもないのに同時に地面を蹴る。

ニコラが真っ直ぐ夢喰いへと向かい、ステッキの魔法で襲い掛かる夢喰いの身体を弾く。その威力は魔法少女に対する長年の憧れと執着によってかなりの高火力だ。

そんな攻撃を努々喰らうわけにはいかないと理解しているのだろう。敵はニコラを倒そうと彼女の死角に腕を伸ばす。

しかしそれは青年のクナイによって全て切り落とされた。逆に青年の死角に伸ばされた腕はニコラの魔法で撃ち落とされる。

一応攻撃を受けてしまった時に備えていつでも回復魔法が使えるように身構えていたのだが、不思議と二人の動きが噛み合ったのでいつの間にか傷の回復用に準備していたそれはいつの間にかスタミナ回復用や自身や青年にかけるバフ、夢喰いにかけるデバフ用に回していた。

本当に初めて戦っているとは思えなかった。

頭の中で『この動きをしたい』『こんなことがしたい』『こうしないと危ない』とシュミレーションしたら体が勝手に動くのだ。

園児の頃にやっていたごっこ遊びに、小学生の頃に考えた必殺技。中学生の頃にかいていた妄想の小説や漫画に、高校の三年間で集めた沢山の魔法少女に関するアニメのビデオ鑑賞。

その全てが今の状況を守ってくれている。サポートしてくれている。

こんな時魔法少女だったら__そう考えるだけでやるべき事が頭を駆け巡った。

だがもっとすごいのはそんな独りよがりな二コラの動きに完璧に合わせてくれる青年の存在だった。

彼の素早い動きは不思議と邪魔にはならず、障害物が目の前や足元にあったりしたらニコラが気付いて避ける前にすぐに一掃してくれる。おかげでただ真っすぐ突き進んでいるだけでも魔法の攻撃範囲内まで夢喰いに近付くことができた。


「夢喰いの身体はかなり小さくなってる!核の位置もかなり下がってきたし、今ならやれる!」

「ええ!絶対に倒して見せるわ!」

「最後の追い上げだ!お前さんの中の強い魔法少女を強くイメージするんだ!」


ズキリと頭が痛む。走りながら、そして襲われながら妄想するなんてこれまで体験したことなんてなかったから頭が疲弊しているらしい。

それでも必死に振り絞る。自分の中の愛らしく、素敵な、散々に憧れ焦がれてきた魔法少女を。


「いっっけええええぇぇ!!!」


カッと光がステッキから放たれる。大きく振り下ろし、自分の持つ最大のイメージを呪文と共に笑み食いに投げかけた。

水色の光線の様なものが笑み喰いを覆った瞬間、耳をつんざく大きな音と共に漫画やアニメで見る様な物凄い威力の爆発が巻き起こった。

その勢いときたら壮絶で、突風が巻き起こったかと思うと砂埃だけでなく周辺の倒壊した建物の瓦礫ですら吹き飛ばしてしまうほどのものだった。

当然だがそんな技を喰らったら無事では済まないのは明白だ。笑み喰いは核が壊されたのかどんどんその姿は小さくなり、最後には細かな粒子となって消えていていった。

青年の助けとロマンバッヂがあったとはいえ、ロマン戦士ではない一般人の、しかも女の子が夢喰いを倒してしまったのだ。かなりのお手柄だ。


「よ、よかったぁ〜〜〜!!」


安堵感にへなへなと空気が抜けた風船の様に地面にへたり込む。

腰が抜ける経験なんてこれが初めてだったが、正直もう二度と味わいたく無い。それ程心臓に悪い体験だった。

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