第11話 日本酒とショートケーキの組み合わせはイケる
青年……いや、男性はブラッド。偽名だろうか、ニコラの父からはそう呼ばれていた。
150cm程の身長しか無い為てっきりニコラは自分より歳下だと思い込んでいたが、彼はれっきとした成人男性であり、ニコラの父親の経営している酒屋【水篠酒屋】の常連客だった。
ニコラが学校に行っている平日の昼間に来るのが殆どらしく全く気付かなかった。
そんな彼は今、ニコラの父親と共に酒屋の隅っこに設置されたパイプ椅子が置かれただけの簡素な試飲コーナーで、持ち込んだのであろう近くのケーキ屋のショートケーキを三個、手掴みで貪りながら真顔でグイグイと買ったばかりの日本酒を飲みまくっていた。
果たしてショートケーキと日本酒は合うのかと酒を飲んだ事はないニコラは疑問に満ちていたが、父親はブラッドの飲みっぷりを見て満足そうに笑っているので、もしかしたら間違った飲み方ではないのかもしれない。
「あ、そうそう!頼まれてた日本酒、近い内に入荷できる様にしておくよ。満足いくまでゆっくり飲んでてくれ。ニコラ、大丈夫だとは思うが一応ブラッドの兄ちゃんが酔って倒れない様に見てやってくれ。」
「わ、分かった。」
「ありがとね、お兄さん。」
「はははっもう兄さんって歳じゃねぇよ!」
彼の発言に何処か嬉しそうにそう返すと、父親は日本酒の取り寄せの為に酒蔵に電話をしに奥へと引っ込んでいってしまった。
万引きを疑わず真っ先に酔って倒れないかの心配をする辺り、余程この男性を信頼しているらしい。
「あの、お水飲みますか……?」
「貰えるモンは水でも石ころでも貰うけど。なんで敬語なん?この前はタメ口だったのに。」
「一応歳上ですし……。」
「別にいいのに、律儀だねぇ。まぁ好きにすればいいよ。話し易い言葉遣いをするのが一番さね。じゃないと自分らしくいらんないし。」
「はぁ……。」
終始真顔でそう語る彼を眺めていると、会ったばかりの時と何処か雰囲気が違う様な気がした。
不機嫌そうにも見えるその様子に、身体が萎縮してしまう。知らぬ内に彼を怒らせてしまったのだろうかと中々次の言葉を出せないでいると、男は徐に指についたクリームを舐め取り、すっかり空になってしまったケーキの箱を潰し始めた。
もう帰ってしまうのだろうかと思ったが、彼は真っ赤になった顔を隠す様に首にずらしていた黒い布を口元に戻すと、パァッと明るくテンション高めの声で『ご馳走様でした〜!』と叫んで手を合わせた。
不機嫌なのか?怒らせてしまった?どうすればいいの?と思っていた気持ちが途端に消え失せ、思わずポカンとする。開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。
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