第12話 一度言われてしまうと


「あの、ブラッド……さん?何か、その、怒ってたんじゃ……?」

「え?『何でこんなにもケーキと酒は甘美なんだろう』と真剣に考えてはいたけど怒ってはいないよ?いやぁ本当に、ケーキとか酒を初めて作り上げたファシストはさぞ素晴らしい人間だったんだろうね。」


だからそんな真剣と言おうか、ずっと真顔でバクバクとケーキ齧ってゴクゴクと酒を飲んでいたのかと、勝手に彼が怒ってると思い込んでしまっていた事に項垂れた。変に被害妄想をしてしまうのはニコラの悪い部分なのかもしれない。

勝手に勘違いをして勝手にショックを受けている彼女に何を思ったのか、ブラッドは力を失っているニコラを見てケラケラと喉を鳴らした。気持ちが顔に出やすくコロコロと表情が変わる様子を見て笑っている様にも見える。

それに対して何笑ってんですか、と投げ掛けても、笑っとらんよ〜?と小馬鹿にする様にケラケラ喉を鳴らし続ける彼に、自然とため息が漏れた。彼と話しているとどうもため息が止まらない。

疲れてブラッドの近くにあった別のパイプ椅子を引っ張り、ギシリと音を立てながら座り込む。はしたないと言われてしまいそうだが、かなり古いパイプ椅子なのでどんなにゆっくり座っても音は鳴ってしまうだろうから許して欲しい。

深く深く座り、再度深く深くため息を吐くニコラに、ブラッドはテーブルにあったコップにチェイサー用に置かれたであろう水を注いで手渡す。それを自然と受け取ってこれまた自然と一口中身を飲み始めると彼は、ねぇ、と質問を投げかけた。


「ニコラちゃんだっけ?お前さんはロマン戦士になるん?かなり才能あるっぽいし、ロマン戦士って、戦士って名前が付くだけあってバリバリの戦闘!っていうイメージ強くて回復系にも回れる人少ないから、欲しがる団体も結構多そうだけど。」


彼の言葉に一瞬う、と息が詰まった。

あれから何度も何度も考えた。ロマン戦士についても調べたし、色んな戦士団体のホームページや、図書館にしまってあったロマン戦士に関する新聞記事や雑誌も読み漁った。

しかしどれもロマン戦士を称えるものや、ロマン戦士の素晴らしさ、大切さ、重大さに触れるものばかり。

中にはロマン戦士を批判する様なものも存在したが、そのどれもは笑み喰いに家族を取り込まれてしまった事による、ロマン戦士に対する逆恨みの様なものばかりだった。

ロマン戦士はそんな批判すらにも屈せず、助けられなかった人間の親族に謝罪をして周り、壊れた村や街の復旧活動にも積極的だった。

その姿に胸を打たれ、支持をする様になった人達も数多い。

ロマン戦士について調べれば調べる程彼等に対する尊敬の気持ちが現れる反面、ニコラの頭に“あの言葉”が静寂の頭脳にこだまする。


『笑み喰いが消滅した今になってやっと来たか……これだから嫌いなんだよ、あんなクソ集団。』


そこで毎度ハッとする。まるで洗脳から解けるかの様に。

そして疑問が生まれる。何故こんなにもいい事しか描かれていないのか、と。

ロマン戦士と同じ正義の象徴である警察でさえも人間なので間違いはあるし、批判的な見られ方をされる事がある。だがその批判の中には逆恨みなどではなく、本当に警察自体に非があるものも多数あった。なのにロマン戦士にはそれが一切無い。

それは可能なのか?ロマン戦士には本当に何の非も無いのか?

家族や町の人をどうしても助けられなかったという事以外に“ロマン戦士の所為で”という言葉は発生しないのか?

ニコラは……もしかしたらそう言える立場にいたかもしれない。何故なら彼女はロマン戦士がすぐ来てくれなかった所為で死ぬかもしれなかったのだから。

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