我等、秘密結社九十九団

栗木百幸

第1話 正義のヒーローがいる世界


この世界は笑顔で溢れている。

楽しい出来事、面白い話、最高の思い出、ユーモア溢れるはなし家。そして……憧れが募る漫画やアニメなどのサブカルチャー。

人は愉快な気持ちになると自然と笑ってしまう生き物だ。

しかしそんな世界にある日、突如謎の巨大生物が現れる様になった。

その生物のドロドロの液体に取り込まれた者は途端に笑顔を失い、身体の先から粒子となり消えていき、最後にはその生物によって吸収されてしまうのだ。

人間の笑顔を食い物にするその生物を人々は“笑み喰い”と呼び、酷く恐れた。

このままではこの世界の人間全てを食い尽くされてしまう……そう考えた科学者達は“笑み喰い”を研究し、ある時興奮した様子でこう公言した。


『笑み喰いの弱点は、夢を見る気持ちだ』と__


その言葉に人々は震えた。確かに笑み食いに襲われるのは大人ばかりで、子供が狙われ難い。その時はてっきり小さい子供はエネルギーにならないから身体が大きくなるまで待っているのでは無いかと思われていたが、違った。

奴等は子供を狙わないのでは無い。夢を持つ子供を狙えないのだ。

それは大人も例外では無い。夢見る大人も又、笑み食いに狙われ難いのだ。

そこで沢山の科学者は政府など沢山の人間と協力し更に研究を重ね……ついにあるアイテムの作成に成功した。

人間の夢を力にし、自分の好きな形の武器を具現化させる事ができる最高傑作。その名も【ロマンバッヂ】

このバッヂを付けた者は唯一笑み喰いに対抗できると言っても過言では無いのだ。

人々はそれを量産し、戦う意志のある人間にそれを託した。託された人間は“ロマン戦士”と呼ばれる様になり、同じ志を持つ人間同士団体となり戦い、その団体の量や種類も増え__いつしか笑み食いを倒したロマン戦士はヒーローの様に賞賛される様にまで成長していった。


しかし笑み食いが現れて早10年……未だに笑み食いは現れ続け、吸収されてしまう人間は後を絶たない。

ある人は人助けの為、ある人は復讐の為、ある人は金の為……笑み食いが出続ける限り、笑み食いと戦う人間は今も尚増え続けている。

将来の夢としてロマン戦士と記す小学生も多く、ロマン戦士を育てる学校なんかもできた。

名のあるロマン戦士の団体に就職する人間も沢山だ。

しかし……それでも笑み食いは次から次へと現れ、例えロマン戦士でも夢を見続ける事ができなかった者は容赦無く奴等に取り込まれた。

夢を見るのは一見簡単そうに見えるが、夢を砕かれるのはそれ以上に簡単だった。それ故『こんなのに勝てるわけがない』と恐怖が勝った途端に取り込まれるロマン戦士も数多い。

ロマン戦士はとても危険な仕事だ。夢を見続ける才能の無い者には絶対に向かない。取り込まれて消えてしまうのがオチだ。

戦う意志の無い人間は大人しくロマン戦士が助けてくれるのをただただ待ち続けるしか無い。

“彼女”もそうやって生きて行くつもりだった。

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