第16話 仲間達


到着、みんな、お客さん……彼の口から次々と放たれる言葉にハッとなり、上半身を起こして辺りを見渡す。

窓の無い、剥がれかけのタイル張りの壁に囲まれた肌寒い空間……恐らくは地下倉庫なのであろうこの場所には数人の人間が居り、各々がそれぞれ違う反応をこちらに向けた。

長い黒と紫の髪が美しい背の高い女性は戸棚の整理作業の手を止めヒラヒラと手を振り、眼鏡をかけた大人しそうな青い髪の男性は読んでいた本から視線を外してこちらに丁寧にお辞儀をし、サロペットが愛らしい最年少であろう緑髪の少女はこちらから逃げる様に部屋の隅へと場所を移し、地下倉庫にも関わらずタバコを蒸していたピアスだらけで見るからにチャラそうな赤髪の男性は女子だ!と声をあげ、癖っ毛のオレンジ色の髪をふたつに束ねた最年長であろう女性はニコラの尻餅着いての登場にゲラゲラと指差して笑い、ボロボロのソファに座る黒髪の男はこちらを一瞬だけ見たがすぐに興味無さげに手に持っていたメモ帳へと向き直った。

ここはどこなのか、そしてこの人達は誰だろうという疑問が生まれたが、ブラッドが満足そうに目を細めてこちらに手を伸ばしてくるのを見た途端すぐにその謎は消えた。

冷たくカサついた手を再び取って立ち上がり、その場にいる人達を見渡す。

そう、ここは彼の言っていた“アジト”であり、ここにいる全員彼の仲間なのだ。


「ニコラちゃん。ようこそ、自分達のアジトへ。改めて、自分の名前はブラッド。そしてここにいるみんなは仲間っていうか、まぁ、ぶっちゃけ利害関係ってところかな?その利益と損害に共通している物は皆同じ__」

「ロマン戦士……ですか?」

「そう!その通り!ある者はロマン戦士に利用され続け、ある者はロマン戦士に自由を奪われ、ある者はロマン戦士に裏切られ、ある者はロマン戦士の在り方に失望し、ある者はロマン戦士に見捨てられ、ある者はロマン戦士に疑念を抱き、そしてある者は__ロマン戦士に心を殺された。そんな人間の集まりが≪ここ≫さ。」


冷たい言葉にゾワリと胸の辺りが冷え、鳥肌が立つ。

彼の細められた目もここに居る人達の目もどこか冷たく、遠くを見ている様な、空っぽの瞳をしている様にすら見えてしまった程だ。

皆カラフルな見た目をしているのに、一瞬全体が灰色に染まってしまったかの様だった。


「ここに居るみんなのロマン戦士に対する思いは同じ。でも目的は皆バラバラ。復讐の為、自由を得続ける為、大切な人を守る為、信念を突き通す為、お金稼ぎの為、奪われたものを取り戻す為……と、まぁ、とにかく色々ね。」


色々と一括りにされてしまったものの内容の重さに、ゴクリと詰まりかけた息を無理矢理飲み込む。

まるで皆が崇拝する神様の本心を盗み見てしまったみたいで、罪悪感と後悔の入り混じった感情に包まれた。

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