第40話  順調と不穏!

 こづえとの恋愛は順調だったのだろうか? とにかく僕は浮かれて、はしゃいでいた。こづえと一緒にいられるのが嬉しくて仕方なかった。僕は、こんなにも女性の前で子供のようになったことは無い。本当に、僕はガキだった。こづえは、なんでこんなガキみたいな男と付き合ってくれたのだろう? 不思議だ。しかし、夜の僕は大人だった。僕はこづえにのめり込んだ。こづえも、僕を求めてくれた。これで良かったのだろうか? わからない。



 僕は仕事のことでは悩んでいた。1つは、大手の営業マンのカッコイイ商談を学びたかったのに、なかなか上司が同行してくれなくて(忙しくて)自分の成長が感じられないこと。もう1つは、“父がリストラされるかもしれない”と聞いたことだった。その2つが理由で、僕は転職を考え始めたのだ。


 父を引き取ることになるなら、寮や社宅のある昔ながらの大企業がいい。僕は母校の教授を頼った。意外にも、スグに僕の望む条件を満たしてくれる企業が見つかった。僕は、転職に前向きになった。


「こづえ、僕、転職しようと思ってるねん」

「どこの会社?」

「〇〇〇〇って会社やけど、知ってる?」

「知らない」

「大企業やで。今度は営業ではないけど、大阪勤務で行けそうやねん」

「まあ、大阪勤務やったらええんとちゃう?」

「ほな、反対はしないんやね」

「うん、反対はせえへんよ」

「良かった、ほな、退職と再就職の手続きを進めるわ」

「うん、お父さんのこともあるんやろ?」

「そうやねん、でも、これで安心や。社宅も2室とか使えるらしいで」

「へえ、ええやん、社宅の間取りは?」

「3DKらしいわ。まあ、古い建物らしいけど」

「崔君には、大阪にいてほしいけど」

「なあ、真面目な話をしてもいい?」

「ええけど、何? 緊張するやんか?」

「こづえは僕のこと好き? 愛してる?」

「うん、好きやで。でも、“愛してる”って言葉は嫌いやけど」

「こんなガキみたいな僕でも好き?」

「うん、好きやで。どないしたん? 不安になった?」

「ほな、こづえは僕のどこが好きなん?」

「うーん、お姫様扱いしてくれるところかな? 私だけを見てくれていることがわかるし。確かに、ちょっと子供っぽいけどね」

「こづえだけを見てるで。それが伝わってるなら嬉しいわ。でも、自分の愛する彼女をお姫様扱いするのは当然やんか。確かに、本当に僕はガキっぽいと思うけど。なんでやろ、こづえの前では張りきり過ぎるのかな? 今までにも、だいぶん年上の女性と付き合ったことはあるけど、その時はもっと冷静やったのに」

「まあ、気にしなくてもええんとちゃう?」

「それで、なんで“愛してる”って言葉が嫌いなん?」

「薄っぺらいし、軽いから。みんな簡単に“愛してる”って言うけどね」

「こづえの過去に、“愛してる”が嫌いになった原因があるんやね?」

「そうやで、でも、何があったかは言わへんで」

「言いたくないなら、聞かない」

「しかし、あんたも変わってるなぁ、女医2人と付き合ったのに、それを捨てるなんて。女医さんをお嫁さんにもらったら、収入の心配は無いのに」

「損得勘定で恋愛なんかできへんよ」

「そういうところは嫌いやないよ」

「好きって言うてや」

「写真で見たけど、若葉さんも美雪さんも、キレイな人やったのに」

「話したやろ? 僕は若葉にはフラれたんやで」

「でも、美雪さんに復讐した後やったら、上手く話せばよりを戻せたと思うで」

「そやろなぁ、でも、若葉は僕を信じなかった。美雪を信じた。僕を愛してくれていたなら、若葉は僕を信じてくれたはずや。信じてもらえなかったのは、愛されていなかったからや」

「そこまで考えなくても良かったと思うけど。でも、ほら、“愛してる”って言葉は軽いと感じるやろ? 普段は何回も“愛してる”って言うのに」

「それでも、僕は“愛”を信じたい」

「美雪さんと付き合ったら良かったのに。美雪さんはメロメロやったんやろ? 女医やで? 結婚できたらラッキーやんか」

「美雪は憎かったから愛せないよ。美雪のことを愛しいと感じたことなんか、1回も無かったもん。美雪は、僕が完全に自分のモノになったと勘違いしてたみたいやけどね。どんな男も自分の思い通りになると思ってるところが気に入らない」

「うーん、崔君は難しいわ。そんなに“愛”にこだわり過ぎたら、多分、幸せになられへんで。もう少し肩の力を抜いた方が幸せになれると思う」

「それでも、僕は“愛”を諦めない。愛は母から受け継いだ僕の人生のテーマやから」

「わかった、わかった、ところで、次のデートはどこに行く?」

「うーん、テーマパークは行ったし、水族館は行ったし、温泉も行ったし、動物園は動物の臭いが嫌やし、映画は3回行ったし……こづえ、行きたいところはある?」

「行ったことの無いテーマパークに行こか?」

「うん、ええよ」

「花火、夏祭りももうスグやね」

「浴衣はある?」

「大丈夫、浴衣は持ってるから」



 こづえの浴衣姿に感動した直後、再就職先から連絡があった。配属先が、大阪から岡山に変わるということだった。急に欠員が出たということだった。


「拒否権はありますか?」

「基本的に無いです」

「わかりました。では、ご社命とあれば」



 どうしよう? こづえは岡山について来てくれるのだろうか?







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