第6話  景子か? 愛子か?

 恋愛と違い、結婚となると、親や家族も絡んでくる。ということで、僕は親の反応も見ることにした。景子と愛子を、それぞれ僕の親に会わせたのだ。


 まず、景子から親に会わせた。僕の両親も、にこやかに歓談しながら景子の品定めをした。景子は、親に会わせて貰えたことを喜んでテンションが高かった。まあ、そういうことで素直に喜べる人の良さは景子の長所なのだ。だが、僕が親に会わせたことで、景子の結婚願望は膨らんでしまったらしい。仕方ない、そんなことは後で考えることにした。


 で、景子が帰ってから、両親に感想を聞いてみた。


「まあ、悪い娘(こ)じゃないなぁ」

「うん、まあ、ええ娘やと思うで」

「でも、メニエル病なんやろ?」

「うん、デート中も、よく目眩がするってうずくまるねん」

「うーん、かわいそうやけど、ちょっと持病があると不安やなぁ」

「勿論、あんたが景子ちゃんと結婚したいって言うなら反対はせえへんで」


 要するに、可もなく不可もなくといった印象のようだった。当然ながら、最終的な判断は僕がするべきことだと言われた。親からすれば、賛成する理由も反対する理由も無かったのだろう。元々、本人の想いを尊重してくれる親だった。だから、もしも僕が“景子と結婚したい”と言えば反対されないのはわかっていた。



 次に、愛子を親に会わせた。相変わらず俯き加減で頬を染めながら会話も受身な愛子だった。だが、礼儀正しい。なんとなく上品な愛子の良さが出た。受身だったから、ほぼ僕の両親の質問に答える形になったが、無事に面談は終了した。


 すると、母が乗り気になった。


「あんた、愛子ちゃんと結婚しなさい! まあ、あんたが景子ちゃんを選ぶなら反対はせえへんけど、私は愛子ちゃん! 気に入ったわ」


“あんた、愛子ちゃんと結婚しなさい!”母が半分命令口調で僕の恋愛に干渉するのは珍しい。前述のように、母は、


「本人の選択を受け入れる」


といったスタンスだったのだ。


 母は、“愛ちゃん! 愛ちゃん!”と呼んで愛子をかわいがる。やっぱり、控え目で上品な雰囲気の愛子は好印象だったのか? 母いわく、


「今時、あんな娘はなかなかおらんで!」


とのことだった。


 それで、肝心の僕の気持ちなのだが、その頃には完全に愛子に惹かれていた。もう、処女かどうか? なんて関係無い。もしも、愛子が“処女だ!”というのが嘘だったとしても、もう構わない。その嘘も含めて愛子を愛するようにしよう。そこまで、僕の気持ちは愛子に傾いていた。



 と、いうことは、景子と別れなければならない。考えたが、卑怯だが僕は電話で別れを告げた。本当は会って話すのが誠意的だと思ったが、電話ですませたかった。僕は別れ話はあまりしたことが無い。セ〇レと別れるのとは重みが違うのだ。


「別れたくない!」


繰り返す景子だったが、


「ごめん」


と僕は繰り返した。1時間以上、“別れたくない”、“ごめん”が繰り返されたが、僕は1時間を過ぎたところで、思い切って電話を切った。やはり胸が痛んだ。景子は何も悪くないのだ。悪いのは僕だ。そのことは充分に自覚していた。


 だが、後日談だが、僕との別れを乗り越えた景子は、僕の知人の石田にアタックしたらしい。一度、景子を石田に会わせたことがあったのだ。そういえば、景子は石田と映画の話で盛り上がっていた。石田はイケメンの映画、音楽好き。景子は、


「私は、石田君と話が合うから」


と、石田に交際を申し込んだとのこと。まあ、景子は玉砕したらしいが……。


 僕は、その話を聞いて“なんやねん、それ?”と思った。僕と別れてスグに他の男に告るなんて信じられなかった。景子のことで胸を痛めていたのが馬鹿馬鹿しい。景子は、僕が思っていたよりも精神的にタフな女性だったのだ。スグに石田に告ったと聞いて、景子を選ばなくて良かったと思った。僕が抱えていた罪悪感は無くなった。



 そして、愛子と正式に付き合うことになった。愛子と付き合うということは、要するに婚約だった。愛子は結婚相手としか結ばれたくないと言う、そして僕は愛子と付き合いたい。この婚約は自然な流れだった。僕は、給料3ヶ月分のダイヤモンドの指輪を買って渡した。婚約指輪だ。


 それから、僕は愛子とホテルに入った。愛子は、何の抵抗もなくホテルについてきた。ただ、繋いだ僕の手をギュッと握っただけだった。それぞれシャワーを浴びてベッドへ。愛子は終始受身だった。


 そして! 愛子は終始痛がらなかった。出血も無かった。脱ぐときも自然に脱いだので、脱ぎ慣れているように感じた。


“ああ、やっぱりか……”


僕は愛子に何も言わなかった。だが、少しだけ心が寒かった。処女じゃないことが問題じゃない。処女だという嘘をつかれたのが寂しかった。こんな嘘つきとこれから一生付き合えるのだろうか? こんなことなら、景子のように“2回だけしたことがある!”などと笑って言ってくれた方が良かった。


 まあいい、これから暖かい家庭を築けばいいのだ。ずっと求めていた、ささやかで幸せな家庭をこれから作るんだ! 愛子と!



 僕が愛子と婚約したことを告げると、誰よりも母が喜んでくれた。もしかしたら、これは1つの親孝行かもしれない、などと思った。さあ、忙しくなるぞ!







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