第20話 のめり込みたい!
仁志君とコンビを組んでナンパをするのも、これで何回目だろう? 結構、一緒にナンパをしているように思う。困ったことに、仁志君は僕も楽しんでいると思っているようだった。今まで僕には彼女や嫁がいたから、仁志君を立てて、仁志君を盛り上げるナンパをしていた。それで僕がおもしろいわけがない。しかも、仁志君は結果を出せない。僕は、立てるのも推すのも盛り上げるのもバカバカしくなっていた。
だが、その日はいつもと違っていた。“久しぶりに僕もナンパを楽しもう”と思っていたのだ。楓のように、僕を夢中にさせてくれる女性、母の死を紛らわせてくれる女性を探すのだ! きっと、心から惚れられる女性はどこかにいるに違いない! 出会いだ! 出会いさえあればいいのだ! ジッと待っていても出会いは無い。ここは積極的に攻めに出るべきところだ。だから、仁志君とのナンパで、初めて僕は本気になった。
舞台はまた名古屋。この時点で、僕はスッキリしない。付き合い始めてからのことを考えたら、名古屋に住んでいる仁志君の方が家が近くて便利だ。この時点で、ぼくは不満を持ち始めていた。僕が成功したときは、遠距離とまでは言わないが中距離恋愛になる。僕は滋賀県在住だったから。だが、滋賀よりも名古屋の方が人が多い。女性も多い。ナンパするなら人通りの多い名古屋の方がいいのかもしれない。僕は、不満を抱きながら、しぶしぶ名古屋でのナンパに出かけた。
その日の僕は張り切っていた。自分のためのナンパだ。今までとはモチベーションが違う。11時から始めたナンパ、1時には美人2人組をゲットしていた。お互い、ランチがまだだったので、ランチを楽しむことになった。店は、仁志君が調べていた。仁志君に、“いい店を調べておくように”と頼んでいたのだ。
女性陣は166センチの万里子と、152センチの千里。万里子は髪を肩から上で揃えて、千里はショートカットだった。どちらもスレンダー。どちらも美人だった。どちらがより一層美人か? これは好みによるだろう。千里も捨てがたいが、どちらかというと、僕は万里子の方がストライクゾーンのど真ん中だった。僕はその時、仁志君も万里子狙いだと思っていた。2人は僕等よりも3つ年上だった。僕は年上が好きなので、内心ではかなり喜んでいた。その喜びを、僕は態度にも出していた。万里子達と出会えて、遊べて、それがどれだけ嬉しいかを表現、アピールした。
遅めのランチの後で、ちょっとカラオケ。ちょっとだけ飲んだ。それから夕食。夕食のレストランも、仁志君が調べていた。とにかく万里子と千里の気分を良くしたい。そこから、デートに持ち込みたい。頑張らなくてはいけない。
酒が入ると一気に盛り上がった。 というか、盛り上げていたのは僕なのだが。僕には酒が飲めないのにハイテンションになれるという特技があった。仁志君も邪魔にならない程度に会話に入ってくれた。仁志君もやる気のようだ。
そして、みんなで連絡先を交換した。その日は土曜日だったので、翌日の日曜日に早速デート出来るかもしれない。
彼女達を見送って、僕と仁志君は同時にため息をついた。
「なあ、仁志君も万里子さん狙いやろ? 参ったな、好みがかぶると仁志君に気を遣って攻めにくいからなぁ。はあ……」
「え! ちゃうで、俺は千里さん狙いやで」
「マジ? そうやったんか! ほな、お互いに気を遣わずに攻めれるなぁ、僕は仁志君も万里子さん狙いやと思ってたわ」
「良かった、良かった、崔君も千里さん狙いやと思ってたから、ため息ついたけど」
「ほな、明日、お互いにデートに誘おうや!」
僕は万里子に、仁志君は千里に電話して翌日の日曜のデートが決まった。
で、翌日。万里子と千里は三重に住んでいた。僕は万里子を大阪に呼んで水族館を楽しんだ。相手が自分の好みの相手だと、普段の2倍くらいの力が出せるものだ。僕は、ずっと万里子を笑わせ続けた。良い感じ、手応えはあった。水族館を出たら海。僕は海を万里子と眺め、万里子と短いキスをした。
そして早めの夕食、コーヒータイム。
「これ、良かったら」
僕はポケットから小箱を出した。
「うわぁ、ネックレス? キラキラしててかわいいなぁ」
「細かくカットしてあるから、キラキラして見えるねん」
「うわぁ、ありがとう」
「同じデザインのゴールドもあったんやけど、ゴールドの方が良かった?」
「ううん、これがいい。気に入った」
「でも、着てる服によってつけ変えられた方がええと思うねん」
「そうかなぁ、まあ、そう言われたらそうだけど、これで充分だよ! めっちゃ気に入った、ありがとう」
「でも、ゴールドも捨てがたいねん。だから、はい、これ」
「何、これ? うわぁ、同じデザインのゴールドだ」
「トップが割と大きいし、アクセントにはなると思うで」
「2つともくれるの?」
「うん、受け取ってや、僕の想いとともに」
「想い?」
「うん、万里子さん、僕は万里子さんを好きになってしもた、僕と付き合ってや」
「そうなの? うん……崔君なら、いいよ」
僕が内心でガッツポーズをとっていた時、仁志君は玉砕していた。
仁志君の玉砕を知らず、僕は万里子とホテルに行った。僕は久しぶりに夢中になることが出来た。嫌なことを全て考えずにいられるくらいに燃えた。そして、駅まで万里子を見送った。なんとかお互いに終電に間に合った。勿論、また会う約束をした。
仁志君から電話があった。仁志君は千里を名古屋に呼んでいた。
「崔君」
「どないしたん?」
「風俗に行かへん?」
「どないしたんや?」
「千里ちゃんに、“付き合ってくれ”って言うたんやけど」
「言うたんやけど?」
「見事に断られたわ」
「あれ? 万里子も千里も“彼氏はいない”って言ってなかった?」
「うん、彼氏はおらんけど、俺は“タイプじゃない”って言われた」
「そうか、でも、僕は今は風俗には行かへんで。万里子と付き合うことになったからなぁ。万里子と別れることになったら、その時は風俗に付き合うわ」
「え! マジ? 風俗に行かへんの?」
「うん、今日はホテルに行ったし」
「くそ! 俺もホテルに誘った方が良かったかな? 崔の話を聞いてたら、俺もホテルに誘った方が良かったんかなぁって思ったんやけど」
「いやいや、“好みのタイプ”じゃないんやから、今回はホテルに誘ってもアカンかったやろ、仁志君、目の付け所がおかしいで」
「ほな、またナンパに付き合ってや」
「万里子が許可してくれたら付き合えるけど」
「ほな、また連絡ちょうだい」
「うん、連絡するわ」
翌週、土曜の晩から万里子と合流した。万里子は正社員としてOLをやっていたが、土曜日は基本的に掃除のバイトをしているとのことだった。
夕食後、ホテルに泊まった。
「なんでバイトしてるん?」
「高い買い物をしたから」
「何を買ったん?」
「いろいろ。いろいろ買ったから、いちいちおぼえてない」
「おぼえてないって……なんで、そんなおぼえてないような買い物をしたん?」
「営業の男の人のことが好きだったから」
「どんな営業やったん?」
「喫茶店で商談したり、食事しながら商談したり」
「それって、デート商法とちゃうの?」
「うん、それに気付いたから、もう何も買ってない。でも、今までにローンで買ったものが沢山あるから、お給料だけじゃ足りなくて」
その話を聞いて、僕は“応援してやろう!”とは思えなかった。急に冷めた。せっかく心の底から惚れることが出来ると思っていたのに、実に残念だった。僕は、万里子は自然消滅させようと思った。だが、言葉では“また会おうね”と言った。
日曜日の晩、万里子と駅で別れてから、仁志君に電話した。
「崔か、どないしたん?」
「風俗に行こか? ほんでその後はナンパや」
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