浪速区紳士録【社会人編:疾風】

崔 梨遙(再)

第1話  新生活、スタート!

 社会人になった。就職先は大企業だった。とりあえず、大阪勤務に決まったので安心した。大阪以外の拠点にまわされるのは、出来れば勘弁してほしいと思っていた。大阪に落ち着いたところで、スグに知人から電話があった。


「崔やけど」

「あ、崔君?」

「うん、神内、どうしたんや?」

「今度の土曜、空いてる?」

「うん、空いてるで」

「女の子、紹介出来るんやけど、来れる?」

「うん、行く、行く」

「崔君も、そろそろ童貞を捨てないとアカンやろ」


 反論したかったが、反論出来なかった。ただ悔しかった。


 僕には、18歳の終わりから彼女がいた。だが、彼女は風俗嬢だった。友人や知人に“風俗嬢と付き合っている”とは言えなかった。その風俗嬢と別れた後、人妻(最初は人妻とは知らなかった)、バツイチ子持ち、セフレ……と付き合ってきたが、どれも友人や知人に堂々と“付き合っている”とは言えない関係が続いた。だから、僕は周囲から、20歳を過ぎても童貞だと思われていた。それでは困るので、僕は“風俗に行って、童貞を捨てた”と友人や知人に説明した。すると、“素人童貞”と呼ばれるようになった。要するに、半人前だと言うことらしい。


 だから、僕は素人を抱かなければいけなかった。そうしないと、いつまでも素人童貞だと思われてしまう。これは一人前と認識されるチャンスだ!



 そして、土曜日。僕は景子という同い年の女性を紹介された。正直、第一印象は“普通!”だった。綺麗でもない、ブサイクでもない、158センチで華奢。華奢なのはいい。僕は華奢な女性が好きだ。“さあ、どうしようか?”。神内の彼女と神内と景子と僕。4人で食事、コーヒー、カラオケ……。


 ビックリした。景子は話題が豊富だし話していて面白い。こんなに話していて楽しい女性に会ったことが無い。僕は、“もっと景子と話したい”と思った。僕は景子に気に入ってもらえたらしい。だから、僕と景子は付き合うことになった。良かった。



 それから毎晩、景子と電話で話すようになった。景子は経験が少なく、Hに興味津々のようだった。


「崔君、何人くらいと遊んだん?」

「ご想像にお任せするわ」

「風俗やろ?神内君に聞いたで」

「…………うーん、うん。景子は何人?」

「2人」

「なんや、ほな、やることやってきたんやんか」

「でも、2回しかしてへんで」

「え! ほな、1人につき1回ずつ?」

「そうやで」

「やり捨てにされてるやんか」

「そうやねん」

「ほな、次のデートでHする?」

「うん、する!」



 次の土曜日、僕は景子とデートした。ランチの後、スグにホテルへ行った。


 これで、僕は“素人童貞”と呼ばれなくてすむだろう。ちなみに景子はAカップだった。まあ、胸には期待していなかったから良いとしよう。知人のオッパイ星人は、オッパイが無いと付き合わない。自分でチャンスを狭めている。自分がオッパイ星人じゃなくて良かったと思った。


 景子と付き合っていると、結婚の話も出て来た。僕はちょっと引いた。付き合ってからまだ日が浅いので、僕は景子との結婚はイメージが出来なかった。


 だが、映画、音楽、友人の話、景子と話していると楽しかった。“もしかすると、一緒にいておもしろい女性と結婚した方がいいのかな?”と思ったりもした。短大の時の友人の話はおもしろかった。友人(女性)のカバンの中に使用済みのゴムが入れられていて異臭を放っていたらしいのだ。その女性の彼氏、かなりヒドイ奴だ。もしくは、すごく面白い奴だ。


 景子は医療事務をしていた。職場の愚痴もよく聞かされた。だが、愚痴以上に職場での笑い話が多かった。景子は、付き合っていて気楽だった。僕は、景子と付き合い始めて毎日が楽しくなった。


 だが、そんな景子にも欠点はあった。嫉妬深いのだ。僕が浮気していないかどうか? 毎日チェックされる。おまけに、


「浮気したらチ〇チ〇切るでー!」


と言われていた。


「輪切りか?」

「縦割りや」


景子の浮気チェックには閉口した。



 そんな或る日、知人の中川から電話があった。


「崔やけど」

「久しぶり」

「久しぶり、どないしたん?」

「崔君、土曜日は空いてる?」

「ああ、デートやけど、デートを日曜にすれば会えるで。久しぶりに会う?」

「そやねん、会いたいねん。実は崔君に女の娘(こ)を紹介したいねん」


「え!?」







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