第2話 これが出会い!
中川から誘われ、指定された時間に指定された喫茶店に入った。その喫茶店は、近所の僕達が学生の頃に通っていた馴染みの喫茶店だった。社会人になって初めて中に入るが、まだ社会人になって間もない。懐かしいという感じは無かった。それが良かった。僕は緊張せずにいられた。
この時点で、僕は景子に満足できていないのだと自覚した。景子に満足できていれば、僕はこの場に来ていないはずだ。中川に呼ばれても、“もう、彼女がいるから行かない!”と断っていただろう。だが、僕は出会いを求めた。景子には悪いが、それが景子との交際の答えだった。
「崔、こっちや、こっち!」
手を振る中川が見えた。中川の前には、2人の女性が座っている。ぽっちゃりさんと華奢な女性。僕は、ぽっちゃりさんはあまり好みじゃない。僕の相手はどっちだ?
僕は、中川の横に腰掛けた。それぞれ自己紹介をする。良かった、ぽっちゃりさんは敦子、中川の彼女だった。ということで、華奢な方、愛子を紹介された。華奢な方が僕は好きだった。
愛子の第一印象は……“真面目そう!”、“女の子っぽい!”、“おしとやか”、“守ってあげたい……かもしれない”だった。流石に、もう少し中身を知らなければ、“守ってあげたい”とまでは思えない。でも、いい線いってる、と思った。顔は美人というよりもかわいい系だろう。背は163センチと聞いた。体重も教えてくれた。43キロらしい。ウエストのくびれが良かった。僕はくびれフェチなのだ。胸は……あまり期待しないでおこうと思った。ちなみに当時の僕は169センチ、58キロだった。
会話。僕と中川と敦子が盛り上がったが、愛子は愛想笑いと相槌。愛子はあまり言葉を発することが無かった。僕が気にかけて話を振ると、頬を赤く染めて俯く。今時、こんな純情な女性は少ないのではないだろうか? 次第に、僕は愛子に好感を抱き始めた。カラオケに行って、一緒に夕食をとって解散した。愛子と連絡先の交換をするのは忘れなかった。だが、カラオケで1曲も歌わなかった愛子には、“それは控え目すぎるだろう?”と思った。敦子も中川も気にしていないようだったが。
それから、毎日、僕は愛子と電話するようになった。その分、景子と電話する時間は減って行った。多分、その頃には、“何かが変わった”と景子も気付いていたのではないだろうか? 景子の浮気チェックが厳しくなった。だが、幾らチェックされても心を縛ることは出来ない。心はいつでも自由なのだ。景子のチェックは裏目に出でた。僕は景子との電話が楽しくなくなっていった。
景子の浮気チェックにウンザリすると、ますます愛子と話す時間が増える。最初に会った次の土曜、僕は愛子とデートすることになった。ちなみに、日曜は景子とデートすることになっていた。僕の気持ちは、まだ揺れていたのだ。愛子か? 景子か? そう簡単に結論は出せない。
午後に待ち合わせて水族館に行った。それから早めの夕食、アジアン料理の店に入った。流石に、愛子を最初のデートで抱こうという気持ちは無かった。愛子を抱くのは、景子とキッチリ別れてからだと決めていたのだ。ケジメはつけないといけない。僕は浮気をするのは嫌だった。
食事中、愛子は相変わらず聞き役で、俯き加減で顔を赤らめていた。僕は年上とばかり付き合ってきたので(景子は別として)、その愛子の初々しさにどんどん惹かれていくことを自覚した。これ以上会ったら、僕は愛子を好きになってしまうかもしれない。だが、そうなってもいいと思っていた。むしろ、惚れさせてもらいたかった。
3回目のデートで聞いてみた。
「愛子は、僕のことをどう思ってるの?」
「……」
「好き?」
「うん」
「もしも僕が付き合ってくれと言ったら、付き合う?」
「うん」
「そうか……」
「私と付き合ってくれるん?」
「付き合うなら、今、彼女がいるからキッチリ別れなアカン」
「だったら、私も彼氏と別れなアカンわ」
「え! 彼氏いるの?」
「いる」
「でも、この前は“男性経験は無い”って言うてたやんか」
「それは本当やで。キスしかしてへんもん」
「ほんまか?」
「ほんま、ほんま、信じて!」
「……でも、今の愛子を見てたら、迫られたら断れないような気がする。断れなくて、受け入れたんとちゃうか?」
「それは断った、お願い、信じて!」
「あのな、もし処女じゃなかったとしても、別にええんやで。それよりも、嘘をついてほしくないねん。処女じゃなくてもええけど、処女やって嘘をつかれるのは嫌や」
「嘘なんかついてへんもん」
「彼氏って、誰? 女子大やろ? 出会いはあるんか? ああ、バイト先とか?」
「うん、地元、和歌山のバイト先の飲食店の社員さん」
「別れられる? 今の愛子を見てたら、別れ話も出来へんような気がするんやけど」
「別れる! 別れてみせる! 別れるから付き合って!」
「ほな、お互いに恋人と別れたら、また会おうか」
「うん、それでええよ」
その時、ちょっと嫌な予感がした。だが、気のせいだと思うことにした。
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