第13話  ご褒美!

 社員旅行は、施設に着いて、風呂に入って、食事をして、飲んで寝たら終わりだ。終わりなのだが、帰りのバスは朝と夕方があった。僕は、朝のバスで帰るつもりだったが、親しい先輩が、


「プールや体育館とか、遊べるところがいろいろあるから夕方まで遊ぼうや」


と言うので、夕方のバスの予定表に自分の名を入れた。ところが、その先輩が体調不良を訴えて朝のバスで帰った。親しい人はみんな朝のバスで帰ってしまった。僕も朝のバスに乗ろうとしたら、“もう、定員オーバーだ”と言われ、夕方まで時間を潰さないといけないことになった。僕は、比較的話をする毒島妙と天野奈江と行動を共にすることにした。


 2人の目的はプールだった。思ったよりも広いプール。客は僕等だけ。他のメンバーは体育館でバドミントンなどをやっているらしい。僕は、“残って良かった!”と思った。奈江の水着姿を堪能することが出来たからだ。妙子は話しやすいが、ずんぐりむっくりしていて女性としての魅力は感じない。女性と思っていないので話しやすいのが良いところだ。


「すみません、僕、奈江さんの水着姿をジロジロ見て良いですか?」


 僕は最初に許可を取った。並んでビーチチェアにもたれて、奈江の水着姿を堪能する。天国だ。黄緑色のビキニがよく似合っている。僕は奈江から許可を得たので、堂々と水着姿をガン見する。


「崔君、見過ぎ、見過ぎ、そこまで見られると照れるわ」

「いやぁ、こんなチャンスはなかなか無いですからね、見せてくださいよ」

「婚約者に怒られるで」

「婚約者は、多分、離婚になるからもういいんです」

「崔君って、こんなに積極的やった? なんか仕事中とキャラが違うねんけど」

「プライベートの僕は、自分に正直なんです。奈江さんの水着姿を見たいから見る! わかりやすくていいでしょ?」

「うん、いつもよりも話しやすいわ」


 愛子もスタイルは悪くない。163センチ43キロ。スレンダーだ。胸はブラによってBだったりCだったりするらしい。奈江にサイズを聞いてみたが、161センチのウエスト56,胸はDらしい。奈江の方が愛子よりも1サイズずつスタイルがいい。水着姿の奈江はカッコ良く、美しかった。顔も、僕の好きな顔なのだ。


「崔君、もうすぐ結婚やね」

「はい、正直、既に後悔しています。多分、離婚するでしょう」

「なんで? 今、1番楽しい時やろ?」

「大学を卒業して、今、家で1人で暇らしいんですけど、僕しか話し相手がいないのに、僕が残業続きで相手してくれへんからストレスが溜まるって、毎日ヒステリーですわ。そうでなくても寝不足やのに、もう限界を超えてるんです」

「それは大変やね」

「もう、ヒステリーが始まったら寝てます。でも、うるさくて眠れないんですよね」

「奥さん、パートに行かせるとか習い事させるとかは? そうしたら友達も出来るんとちゃうの?」

「パートにもテニススクールにも行かせてます。でも、友達を1人も作れないんですよ。それで、またヒステリーですわ」

「崔君、大変やね」

「地獄ですよ。料理も下手だし。僕のことを恨んでるし」

「なんで恨んでるの?」

「式より先に、独身寮で一緒に暮らしたいって言うから人事に電話したんです。勿論、ダメだと言われました。なのに、婚約者は“婚約者と同居を開始する”って周囲に言いふらしたんですよ。それが実現しなくて“恥をかかされた”とわめき続けているんです。僕は“無理だから誰にも言うな”って言ってたのに」

「そんなん、逆恨みやんか」

「そうですよ、逆恨みです。僕は“社内規定上無理やから、絶対に周囲に言うな”って注意していたんですから。それでも言いふらした婚約者が悪い! ですよね?」

「なんか、ややこしい女性みたいやね」

「ややこしいというか、めっちゃ嫌ですわ。離婚を覚悟しながら結婚します」

「離婚を前提に結婚するって、めっちゃ悲しいね」

「婚約者に会う前にこっちに転勤してたら、違う女性を選んでいたのに。早まってしまいましたわ」

「今の職場やったら誰と結婚したい?」

「沙那子さんか奈江さんです。奈江さんは大人っぽい雰囲気で色っぽくて魅力的だし、家庭的な雰囲気もあるし、スタイルもいいし……」

「ありがとう。私も崔君やったら結婚してもええわ」

「ああ、やっぱり今回の結婚は後悔してしまう」

「崔君、話したらおもしろいし、飽きへんからええわ」

「ありがとうございます。ほな、来世では結婚してください」

「わかった。ほな、来世では夫婦やで」

「ああ、結婚したくないよー!」

「切実やね。言葉に重みがあるわ」

「だって、これから毎日ヒステリー嫁が待ってるんですよ。地獄ですわ」

「新工場の立ち上げが終わったら、仕事も落ち着くやんか」

「そうなったら、嫁と一緒にいる時間が増えるでしょ? やっぱり地獄や!」

「なんとかしてあげたいけど、何もしてあげられへんわ。崔君が婚約する前やったら、なんとかしてあげられたけど」

「奈江さんが良かった-!」


 挙式の直前に水着姿の奈江といろいろな話が出来た。これは天からのご褒美だ。



 それから、僕の体調が悪化した。挙式の1週間前に内視鏡、挙式の2日前に胃カメラを飲んだ。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道潰瘍、腸潰瘍だった。僕は、貧血状態のように、ただ歩くだけでもフラフラしていた。真っ直ぐ歩くことが出来なかった。







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