第8話 怪盗Chat noirのショー 【Chiens】

今日は「女王レジュ・デ・ラ・レーヌ」展覧会の最終日。

……怪盗 シャ・ノワールが来る日だ。


といっても、場所は展示されてるところじゃなくて、パーティー会場。

どうやら展示会主催者が予定していたお披露目パーティーをやるらしい。

一応ホールの中で行うらしく、もう既にパーティー参加者は揃ったみたい。


「さすがにまだわからないか」


悠太が横でつぶやく。

鋭い瞳でパーティー会場を見下ろしている。


「うん……みんなおじさんとかばっかりで金髪の人もいないし」


「そうだな。それにしてもつい数時間前に盗まれかけたのにパーティーをやるなんて……どんだけ見せびらかしたんだよあのおっさんは」


苦い顔になる悠太。

あ、わかるよ、そうなるの。


私たちは上から見とけって命令されてここにいる。


実は私たちがここに着く前、「女王レジュ・デ・ラ・レーヌ」が盗まれかけたらしい。

いろいろあって犯人は逮捕されたけど、展覧会は途中で中止になったみたい。

でもパーティーは絶対にやる!って、不機嫌に主催者は言っていたなあ。


脳裏にパーティー主催者の顔が浮かぶ。

目つき悪かったし、小太りでほぼ髪の毛がないといういかにもお金しか考えない!って人で正直良い人だとは思わなかった。


『絶対に捕まえろよ』って言われたんだけど陰で『子供で大丈夫なのか』って言ってたの!!腹立つ!!

Chiensをなめんなよ!って言いたくなったけど。


会場が真っ暗になった。

ステージがスッポトライトにあたって、真ん中に主催者のおじさんが出てくる。

ちょうど頭がピカってなってるのちょっと面白い。


「みなさん、ようこそ。『女王レジュ・デ・ラ・レーヌ』お披露目パーティーへ。私、主催者のざいぜんえいぞうでございます。本日はお越しいただきありがとうございます」


うわ、打ち合わせの時と態度違う……

こういう人嫌だなー。


主催者の横からショーケースが出てくる。

遠くても見えるくらい「女王レジュ・デ・ラ・レーヌ」は輝いている。

主催者は自慢話を始める。


うわあ、聞きたくない……


「気を抜くな、咲良」


「あ、うん」


危ない危ない。

怪しい動きをしている人は……いない、な。


「それでは、こちらの『女王レジュ・デ・ラ・レーヌ』をじっくり見ていただきましょう。前の列の方からどうぞ」


会場の前に座っていた人たちが立ち上がり、ステージに向かおうとしたその時だった。


「おい、さく、」



パン!パン!パン!



聞き覚えのある弾ける音。


「何だ!?」

「誰だ!!」


煙が会場中に広がる。

う、うそ、これって……!!



ガッシャアァン!!



今度は何かが割れる音。

ガラスの音ぽかったけど、まさか……!!


「咲良!行くぞ!!」


悠太が駆け出す。


「う、うん!!」


走りながら会場を見る。

煙は薄くなってる、けど……人が倒れてる!?!?


「悠太!人が倒れてる!!」


「わかってる!睡眠玉だ!!」


睡眠玉……やっぱり本当に現れたんだ。

あの弾ける音、この前の誘拐未遂事件のと同じだったもん。


みんな、倒れてる。

ステージの方はまだ見えないけど、主催者は眠っていないみたい。

離れたところに移動している。


「……あれ?」


一瞬視界の端でキラッと光った。


会場の真ん中。

まだ煙で見えにくいけれど、何か影が見える。

みんな眠ってるのに一人だけ眠ってない……みたい。

その人は机の上に座って膝を組んでいる。

……まさか、あの人。


「……悠太!会場の真ん中!!」


私が叫ぶと悠太は立ち止まり、会場を見下ろす。


「あそこ。あの人だけ倒れていないのおかしいよ。怪盗 シャ・ノワールだよ!」


「まずいな。降りるぞ」


階段を降り、会場に足を踏み入れる。

グラスが割れていたり、椅子が倒れていたり。

本当に、眠ってるだけだよね。


もう一度ステージの方を見ると、ショーケースは割れていて、「女王レジュ・デ・ラ・レーヌ」はない。

ガラスが粉々になっていて、床に散乱している。

早く取り返さないと!!


眠っていない人は男性というよりは青年で髪は黒髪。

スーツを着ている。

下を向いているからか顔は見えない。


「おい、動くな」


悠太が拳銃を構える。

私も青年の後ろで構える。


「おい!お前は誰だ!『女王レジュ・デ・ラ・レーヌ』を盗んだのはお前だろ!!」


主催者が叫ぶ。


すると、ずっと下を向いていた青年が顔を上げ、立ち上がる。

そして、彼がつけていた指輪から光が出る。

それもすごく眩しい……!


「うっ……」


光がおさまると、さっきとは別の青年がいた。


髪は金髪で、センター分けをしている。

白いシャツにグレーのベスト、黒いマントを羽織り、金色の仮面が顔のほとんどを隠している。

わずかに見える瞳は青っぽい。

そして、頭には可愛い猫耳と、後ろには尻尾。



え、ええ、可愛いいいんですけどお!?!?!?



可愛い。

可愛い、可愛い……!!

モフりたいよぉ!!!


まさかの姿に悠太も絶句。


「おい!!誰なのかは知らねえけど、さっさと返せ!!」


また主催者が叫び、ずかずかこっちに来る。


「まだボクのことがわからないの?」


青年はちょっとだけ拗ねたように言い、主催者に向かって何かを投げた。


「うわっ」


主催者の足元に何か刺さった。

主催者はそれを拾い上げる。

あれは……カード?


「それ、見覚えあるでしょ」


青年はにやりと笑い、両手を顔の横で握る。

……えええっ!!



「怪盗 シャ・ノワールだにゃんっ!」



会場に響く明るいアルトの声。

悠太がボトッと拳銃を落とす。



か、可愛すぎるんですけどおおおおお!!!



なにこのポーズ!?

肉球!?!?

にゃん!?!?


「ほら、主催者サン。これいらないから」


怪盗 シャ・ノワールはポイっと捨てるように「女王レジュ・デ・ラ・レーヌ」を投げる。


うわ、すごく高いものなんだから大切に扱いなよ!!


「お、おい!投げるなよ!!」


「それ、目的のものじゃないんだよね」


目的のもの、じゃない……?

どういうことだろう。


怪盗 シャ・ノワールは軽々と机を飛び越えて行く。

すごい、身軽……!

そのたびに尻尾が揺れているから本当に猫みたい。


じゃなかった、追いかけなきゃ。


「お前だな。昨日、誘拐未遂で犯人を眠らせたのは」


悠太が追いかけながら言う。


「……よくわかったね」


あれ、急に声が低くなった?

さっきまですごく明るい声だったのに。


「なぜお前が被害者を助けたんだ」


悠太の声も低くなる。

それ、気になってたことだ。


「人を助けて何が悪いのかな」


飛び越えるのを辞めた怪盗 シャ・ノワールは温度のない瞳で私たちを見る。

背筋がゾクッとした。


な、何、今の。


「本業は盗みだが人を助けて罪を償おうとでも?」


悠太の声がさらに低くなる。

もしかして、怒ってる……?


「……勝手にそう思ってたら良いよ」


吐き捨てるように言い、その瞬間怪盗 シャ・ノワールは大きくジャンプした。

すごい、ジャンプ力……!!


「「あっ!」」


二階に着地した。

やばい、すぐそこに窓がある。

逃げられちゃう!!


「おい!早く捕まえろ!!」


主催者が怒鳴る。

わかってるってばぁ!!


「今度また遊べることを楽しみにしてる。それじゃ、アデューだにゃんっ!!」


私たちが行こうとした時、怪盗 シャ・ノワールはポイっとまた投げると、パン!とそれは弾けた。

またブワッと煙が広がる。

……まずい!!


「咲良!」


「悠太!」


しまった、絶対に逃げられた。

私が、ぼんやりしていたから……!



「悔しいいいいいい!!」

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