第16話 誘惑黒猫【Chiens】
銃声と、ガラスが割れる音、そして、殺気。
本当にヤバいやつだー!!!???
「咲良!腕輪を使え!!」
通信機からじゃなくて、直接悠太の声が聞こえた。
う、腕輪……そうだ、ジョニーさんからもらったやつ!!
右腕につけていた腕輪に触れる。
「!?」
すぐ近くで誰かが驚くような、息を飲む音が聞こえた。
って、今はそれどころじゃなくて、腕輪が光ってる!!
光はだんだん強くなり、部屋全体を明るく照らした。
ハッとして、私は目を開けた。
腕輪はまだ光っているけど、これじゃ周り全体は見えない。
まだ暗闇だけど、さっきとは明らかに違うことがあった。
……感じる、怪盗Chatsの気配を、強く感じる!!
まずい、と思ったのか、彼女は猛スピードで部屋から逃げる。
「咲良!追うぞ!」
「う、うん!」
悠太の足音と、怪盗Chatsの気配を頼りについていく。
すると、耳がピクッと反応した。
「あ、あれ?」
悠太が行ってしまった反対方向から、また別の気配を感じる。
違ってても、さっきの彼女と似てる気配がする……!!
きっと、もう一匹だ!
走り出そうとすると、ぐねっと何かを踏んづけた。
弾力があって、生暖かくて……嫌な予感がしてきた。
腕輪の光をそれに照らすと、まず出てきたのは人の顔だった。
「ぎゃああああ!!!!って、人!?!?!?」
何でこんなとこで寝てるのーー!!!!
しかも、ガタイのいい警備員さん!!!
踏んだのお腹だったーーー!!!
意外とぷよぷよだったよおお!!!(?)
「ふ、踏んづけちゃってごめんなさいいいい!!!」
お化け屋敷にいるのかってくらい、絶叫で響いたのであった。
恐怖で溢れながら階段を登りきる。
ここは、3階だ。
「はああ……」
ここで気配が止まった。
いや、止まってはないけど、先が見えなくなった。
暗くて何も見えないし、悠太とははぐれた。
……もう、逃げられたのかな。
悠太も、怪盗Chatsも一体、どこに行ったんだろう……
階段を降りて、踊り場に足がついたその時だった。
「!?」
ばっと振り向き、階段を見上げる。
気配を強く感じる。
――いる。
怪盗Chatsが、そこにいる――!!!
私は腕輪の光を強くして、彼に向ける。
あ、これ、懐中電灯みたいに使えるんだ!
「そこで止まりなさい!!」
「あーあ、見つかっちゃったか」
のんびりしたアルトの声。
そして、思わずその場に硬直。
足を組み、頬杖を突きながら階段の壁に座る青年。
センター分けにした金髪に、可愛い黒い猫耳と尻尾。
黒いマントが一番の特徴で、顔は金色の仮面でほとんど見えないけど、口元はなぜか笑っているように見える。
「久しぶり?だね」
「……な……な……」
彼はくすっと笑い、その場に立ち上がると、見覚えのあるポーズをした。
マントを翻し、尻尾がふわっと揺れる。
両手を握り、顔の横に置いたポーズ。
「怪盗Chat noirだにゃんっ!」
……
……
……
……だあああああああああ!!!!
「か、可愛い……」
へなへなと座り込む。
「……え?」
なぜか彼—―怪盗Chat noirは肉球ポーズをしたまま戸惑う。
「猫耳!尻尾!可愛い……!!」
この前はじっくり見れなかったけど、今回は目の前にいる!!
やばいやばいモフりたい……!!
「そういうキミはトイプードルなんだね」
ポーズを直しながらまた怪盗Chat noirは座り込み、足を組む。
あ、目が座ってる。
警察を前にずいぶん余裕そうだ。
「えっと、はい?」
「キミはトイプードルなんだね」
……トイプードル?
ここにトイプードルなんていないけど。
黒猫(?)はいる。
「そうか、だから僕に気づいたのか。あまり舐めない方が良さそうだ」
「うん……?」
相変わらず尻尾は揺れ、猫耳がぴょこぴょこ動いている。
不思議そうに私を見る怪盗Chat noir。
私は彼が不思議でしょうがない。
お互い脳内は「?」でいっぱい。
……待って、今、「君はトイプードルなんだね」って言ったよね?
思わず頭に手をやると、モフッとしたものがあった。
「ええ!?!?」
両サイドにある……もふもふ。
「え、今気づいたの……?」
明らかにドン引きしている怪盗Chat noir。
仮面の奥の目が半眼だ。
いや、そんなに引かなくても……
「しょ、しょうがないじゃん!暗くて何も見えないもん!!」
「それはそうだね。僕たち猫の方が夜目が効くしね」
ほえー。
だから、あんな暗いところでも動けたんだ。
……じゃなくって!!!
「本当にトイプードルになっちゃってる……」
しかも尻尾までついてるし!?
「まだそこなんだ」
怪盗Chat noirがずるっとずっこけかける。
そういえば、Chiensって「犬」って意味だし、腕輪にも肉球のマークがあったよ……今思い出した。
……あれ、待てよ、悠太も同じ腕輪を持っているということは、悠太も今こんな感じで耳と尻尾があるってことだよね!?
うわー想像つかないなー。
「って、おしゃべりしてる場合じゃない!!「春風の音」はどこ!!」
「さあ?別に僕が盗んだわけじゃないからなぁ」
小さく首をかしげながら言う怪盗Chat noirはすごく可愛い。
おまけに頬杖もついていてさらに可愛い。
……なんて、誘惑されたらダメだ!!
てか、ずいぶん無責任だね!?
「それで、キミたちはいったい何者なんだい?」
私は胸ポケットから警察手帳を取り出す。
「私は陽山咲良。Chiens警察の陽山咲良。あなたたちを捕まえるためにここにいる」
「へー。Chiens警察。本当に未成年とはね」
あ、明らかに興味ないな、これ。
仕方なく警察手帳をしまう。
「あ、あんただってそうでしょ!」
「どうだろう?変装かもしれないよ?」
「こ、この……!!」
唇を噛む私を見て、怪盗Chat noir はくすくす笑う。
「じゃ、じゃあ、もう一匹はどこ!」
怪盗Chat noirが実際何をしてたのかは分からないけど、もう一匹が実行したことはこれで確実になった。
「もう一匹……ああ、ブランのことか。僕も待ってるんだけど、なかなか来ないね」
話し方は変わってないけど、声が少し低くなった。
気配もピン、張り詰める。
すごい……気配って、こんなに分かりやすく出るものなんだ。
それと、もう一匹の名前は「ブラン」らしい。
「……ん」
怪盗Chat noirが耳に手を添える。
あれは……通信機?
「わかった。今行く」
たぶん通信機越しに誰かと話している。
相手は、もう一匹かな?
「それじゃあね。話せて良かったよ」
怪盗Chat noirは立ち上がると、階段の壁から飛び降り、一気に2階まで降りた。
マントがバサッと音を立てた。
すごい、身軽……!
「ど、どこ行くの!?」
ふと立ち止まった怪盗Chat noirは振り向き、私を見上げる。
金髪の髪がさらっと揺れた。
ちょうど窓から外の光が差し込んでいて、怪盗Chat noirの顔を明るく照らした。
画面の奥の、強い光を宿したアイスブルーの瞳がキラッと輝いた。
「決まってる。……僕の、可愛いパートナーのところさ」
そう言ってマントを翻しながら駆け出していく怪盗Chat noirはさっきまでの可愛い彼とは違って、カッコ良かった。
これは、これは惚れる……!!
「って、逃げるなあああーーー!!!」
また誘惑されそうになった私は黒猫の後を追った。
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