第5話 不穏な煙 【Chiens】
今日から私が通うのは私立城川学園。
幼稚園から高校まで一貫の学園で、評判が良い。
署から近い市立の泉中学校でも良かったんだけど、そこはアルバイト禁止だから18歳以下所属可能のChiens警察でも入るにはちょっと厳しい。
だからアルバイトOKな城川学園にした。
それでも一応Chiens警察であることは自己申告して、入学許可はもらえた。
外部からだから入学するには試験が必要だったけど、何とか合格することができた。
「とはいえ……」
周りを見ると見るからにTHEお嬢様・お金持ちっていう感じの人だらけで、心の底でパニくっています!!
制服もがっつりお嬢様!ではないけれど品を感じるセーラーワンピースタイプ。
全体的にグレーで、襟の部分は白、タイが深い紺色。
中等部と高等部はタイのデザインが変わるだけでほぼ変わらない。
まあ、私立だからかなぁ。
敷地はめちゃくちゃ広いし、設備も綺麗。
城川市含め、隣町から高校入試で滑り止めで受ける人がものすごく多くて、高校からここに入ってくる人が多いんだって。
このあたりの中学校と言えば城川学園!だけど、公立の泉中学校も人気はある。
「はあぁ……」
「何ため息ついてんだよ」
隣の席に座るジトっと悠太が見てくる。
実は悠太も城川学園に入学したんだ。
「周りのオーラがすごいのは仕方ないだろ。泉中はバイト禁止だから行きたくても行けなかっただろうし」
「それはそうだけど……」
中学から外部で入る人は少ないらしく、今年は私と悠太だけ。
だからいろんな目で見られるというか、周りから距離を置かれているというか。
「設備も綺麗だし、入試受ける必要ないし。楽な方だろ」
……そう。
一貫だから志望校を変えない限り、高校入試を受ける必要がない。
けど、進学試験と言うのがあって、いわゆる学年末試験のこと。
ある程度成績が良かったら進学には困らないけど、そこで成績が悪かったら即留年。
どの学校でもテストは大事なんだよ……!
「まあ、そうだね」
私が通っていた小学校は創立80年はあったからかなり古くて、汚かった。
今は改修工事に入ったみたい。
設備が綺麗なのはかなりのメリットだ。
「あ、ジョニーさんからだ」
悠太がスマホを取り出す。
中等部から持ち込みができて、休み時間と放課後使えるんだ。
「何て?もしかして、怪盗Chats!?」
私はまだスマホを持っていないけれど、明日届く。
「違う。帰りにパトロールしてこいって来てる」
怪盗じゃないのかーい!!
机に突っ伏す。
「パトロール……怪盗じゃないのか……」
「あんま大きい声で怪盗の名前出すなよ」
「えー何でよ」
「変な目で見られるだろ」
「それは確かに?」
私たちがChiens警察だということ、先生たちは知っているけれど生徒たちは知らない。
たしかに知られたらちょっと面倒かも。
「でも授業中に出動って言われたら?」
「それは仕方ない。先生が上手いこと言ってくれる」
……結局先生任せなのね。
学校が終わり、パトロールだ。
時間は4時くらいで制服だし、変に怪しまれないよね。
「てか、悠太ってついこの前までフランスにいたんでしょ?フランスの学校ってどんな感じなの?」
「んー。昼休みが二時間あった」
「二時間!?!?」
「ああ。学校で昼食べるやつもいれば、いったん家に戻るやつもいたな」
「え、良いなあ……」
お昼寝もできる、ってことだよね。
フランスの学校、良すぎるよ。
「あとは……宿題無かった」
「……ええええっー!?!?」
悠太が耳をふさぐ。
静かな住宅街だから結構声が響いた。
「声でかい」
「ご、ごめん。でも宿題ないってどういうこと?私の時めちゃくちゃあったんだけど」
「だろうな。フランスは宿題を出さないのが義務なんだ。家で宿題ができない環境の子どもの精神的負担を少なくするためらしい。予習もダメだったし、家で復習もするなって担任がうちの親に注意してた」
「え、フランスに転入しようかな」
「お前フランス語話せないだろ」
「そ、そうだった……」
「まあ、フランス人は日本好きな人が多いから、フランス語話せるようになったらめちゃくちゃ歓迎されるぞ」
「へえ、そうなんだ!アニメの影響?」
「それもあるだろうな……っ!?!?」
悠太の表情が突然鋭くなった。
「悠太?」
「今、悲鳴が聞こえなかったか?」
「悲鳴?聞こえなかったけど」
悠太はきょろきょろ周りを見る。
特に何も起きていない、みたいだけど。
「おかしいな。聞こえたはずなんだけど」
静かな住宅街なら悲鳴はそれなりに響く。
でも、悠太は聞こえて私は聞こえなかった。
――そういえば、悠太って耳がすごく良かった気がする。
何だろう、何だか嫌な予感がする。
「悠太、悲鳴ってどこから聞こえた?」
「えっ、たしか……こっちだった気がする」
「っ!」
私は駆け出す。
わからないけれど、走らないといけない気がする。
「お、おい、咲良!?」
悠太がすぐ追いかける。
この住宅街特に家が密集しているから高い塀や電柱、角も多い。
それに場所によっては暗いし、狭い路地も多い。
例えば……誘拐にはうってつけの場所だともいえるかもしれない。
「は、離し、むごごっ!!!」
……聞こえた!!
かすかに、今の女の子の声だったけど、途中から聞こえなくなった。
けど、場所的に近いかもしれない。
「あっ、咲良こっちだ!」
私は急ブレーキをする。
少し通り過ぎた狭い路地。
その奥に中学生くらいの子と、男性がその後ろにいて何だか怪しい動きをしている。
「行くぞ!!」
「うん!!」
2人がいる道も狭い道で、人気が少なかった気がする。
私は加速する。
近づいてきた途端私は血の気が引く感覚がした。
車、だ。
……あの男性が犯罪者である決定的な証拠が車にある!!
急がないと!!
「悠太、誘拐で間違いないよ!車がある!!」
「車!?」
「あの車、右に向いてるってことは見えてるあの窓は運転席の窓ってこと。でも、運転席の窓黒いでしょ?」
日本製の車はたいてい運転席は右側。
これが海外の車だと逆になるんだ。
それと、窓が黒い。
これはこれはスモークフィルムと言って、車内が見えないようにするものなんだけど、あの車は全部の窓に貼っている、いわゆるフルスモーク。
後頭席の窓、透視率が70%以上のものなら運転席や助手席の窓に貼っても良いんだけど、あの車は運転席の窓からも車内が全く見えないから違反対象。
窓が全部黒い車は絶対見かけたら近づいちゃダメだって小学校の犯罪教室で教えてもらった。
「……本当だ。ってことは、」
「急がないとってこと!!」
あと少し。
女の子はぐいぐい車に引っ張られている。
まだ間に合う!!
「……ま、待て、咲良!!」
悠太に腕を掴まれる。
「へっ?」
パン!パン!パン!
何かが弾ける音。
「な、何?」
残り3メートルほど。
2人がいたところから急に煙が広がった。
「口と鼻をおさえろ!絶対に煙を吸うな!」
悠太の鋭い声。
慌ててハンカチを出して避難訓練の時みたいに鼻と口をおさえる。
何が起きたんだろう。
女の子、無事かな。
ハンカチをおさえながら煙の中に進む。
すると、バタッと音がした。
「何!?」
振り向いても悠太しかいない。
振り向いた衝動で煙が動いて、わずかに薄くなる。
その薄くなったところに何かが見えた。
……人、だ。
人が倒れてる。
この人、誘拐犯だ!!!
でも、何でこの人が倒れているんだろ。
この煙のせい?
それより、女の子はどこだろう。
早く助けないと!!
前を向いたとき、黒い影が私の目の前を通った。
「わっ!?!?」
な、何今の。
気がつけば煙は薄くなっていた。
女の子はいなくて、男性が倒れている。
車も残ってる。
「女の子は……?」
悠太の方を見ると、なぜか家の天井を見ていた。
「悠太?」
悠太はゆっくり私を見て、苦い表情になった。
……まさか。
「あの子は、無事だ」
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