第12話 新たな予告状 【Chiens】

キーンコーンカーンコーン



放課後を告げるチャイムが鳴った。

一気に体から力が抜けて、机に突っ伏す。


「やっと終わったぁ」


「お前ほとんど授業聞いてねえだろ」


半目で私を睨む悠太。

そう言う悠太は眠そうだけど。


「聞いてますー。板書も取ってるし」


机から起きてノートを悠太に見せつける。


「……まあ、聞いてるならいいか」


ふいっと私が書いた板書を全く見ずにそっぽをむいた。

別にいいもん!

それにちゃんと聞いてますし??


すると、制服のポケットがぶるぶると震えた。

誰かから連絡だ。

先生はまだ来てないし、別に見ても良いよね?


ジョニーさんからだ。


「はい、咲良です」


『学校は終わったかい?』


「えっと、もう少しで終わります。そろそろ終礼が始まるかと」


『そうか。なら終わり次第すぐに城川美術館に来てくれないかい?』


「わ、わかりましたっ」


電話を切ると、悠太が何やら真剣な瞳で私を見ていた。


「何があった?」


「ジョニーさんが、学校が終わり次第すぐ城川美術館に来て欲しいだって」


悠太の眉がピクッと上に上がる。


「終わり次第すぐ?美術館?一体何が……」


今まではずーっとパトロールばかりだった。

でも、わざわざ学校から美術館っていつもよりパターンが違う。

美術館に何かがあったことは確かなんだけど。


「……怪盗Chatsじゃないっ!?」


「バカ、大きい声で言うなっての」


「……ごめん」


「まあでも一理あるか」


そう呟く悠太は嫌な予感を感じているのか、珍しく終礼はずっと考えていた。






「ええええええええっ!?!?」



「咲良声でかい」


隣の悠太が迷惑そうに耳を塞ぐ。


「ごごごごめんだけど、ええっ!?」


街の中心部にある城川美術館。

レンガでできた超オシャレな西洋の造りに、中は赤い絨毯にゴージャスなシャンデリア。

あの額縁は必ずどれも金色の額縁だし、宝石やアクセサリーは全てガラスのショーケースの中という、高級感が半端ない。

見に来ている人もセレブって感じの人で、品がある。



――いや、紹介しているどころじゃ無いんだけどさ。



私と悠太、ジョニーさんの視線の先はショーケース、じゃなくてその上にある挑戦状。

1つは怪盗 シャノワールから届いた、黒猫がシルエットのもの。

これは見たことある。

それからなぜか



『今夜、城川美術館にて「春風の音」を取り返しに参上する

                   by 怪盗Chat noir』



『今夜、城川美術館にて「春風の音」を取り返しに参上する

                   by 怪盗Chatte blanshe』




黒猫だけではなく、白猫がシルエットの同じ内容の挑戦状が来ていた。

美術館の館長さん曰く、黒猫の方は午前、白猫の方はついさっき発見されたばかりなんだって。


ただ、内容をよく見ると挑戦状を送ったのは怪盗 シャノワールではなく、怪盗Chat blansheと書いてある。

つまり……どういうことだ?


てか、こんな展開アリ!?

2人から挑戦状が来ること、ある!?


「怪盗 シャットブランシュ、か……」


悠太が顎に手をあてながら言った。


「ん、ん?悠太何て言った?」


「怪盗 シャットブランシュ。フランス語でメスの白猫という意味だ」


「そうなの?てか、メスとかわかるの?」


「ああ。フランス語には男性形と女性形があってな。Chatは雄、Chatteで雌を表す」


うわ、ややこしい。

こりゃフランス語覚えるの大変だなぁ。


「……てことは、黒猫の方は男ってこと?」


「そうなるな」


「仲間なのかな?それとも敵?」


「それはわからん。まあでもタイミング的には敵じゃないか?仲間ならわざわざバラバラで出してこないだろ、俺たちを油断させるために。それに、2匹が仲間だろうが敵だろうか俺たちには関係ない。捕まえることに変わりはない」


「う、うん。そうだね」


「相手が2匹ならこっちも手を打つ必要があるな」


さっきからずっと黙っていたジョニーさんが口を開いた。

悠太と同時に渡我部さんを見る。


「本当は直前まで黙っておきたかったけど。2人にこれを託そう」


ジョニーさんは頑丈な鞄を開けて、私たちに見せた。

クッションみたいな物の上に2つのブレスレットが置かれていた。


「な、何ですか、これ……!」


金色で、Chiensと書かれていて、肉球型の宝石もついている。

すごい、こんなアイテムがあるんだ!!


「100年前から使われていなかった特殊なアイテムだ。これを身につけば全身の能力や、足の速さ、特に嗅覚も上がる」


そうだった、Chiensは「犬」の意味だ。


それに、100年前ってことは、ひいおじいちゃんも使っていた、ってことだよね?

……これがあれば、きっと怪盗Chatsを捕まえることができる。


私と悠太は受け取り、私は右手にはめた。

ブレスレットとは言っても、手首にちょうどぴったりで激しく動いても簡単には外れない。

室内のシャンデリアに宝石が照らされて、キラッと輝いた。


何だろう……ひいおじいちゃんの面影を感じた。

アルバムでひいおじいちゃんを見た感じと似てる。


「もちろん私も2人をサポートする」


ジョニーさんはさらに私たちに何かを渡した。

これは……イヤホン?


「これは通信機だ」


ジョニーさんは私たちを見る。

まだ会ったばかりだけど、こんなに強い瞳を見るの初めてだ。


「必ず、怪盗Chatsを捕まえよう」




〈Side 悠太〉


先に行った咲良とジョニーさんをぼんやりと眺める。

俺の、勘違いなら良いんだが。


ショーケースの上の2枚の挑戦状。

1つは黒猫、もう1つは白猫がシルエット。

色と猫の向きが違うだけで、あとは全部同じデザインだ。

内容がある面も金色で、文字は筆記体に近いフォント。


この前まで猫怪盗は黒猫1人だけだったし、白猫はゼロと言って良いほど、目撃情報がない。



なぜ、急に2匹になった……?



仲間だとしたら同じ日に予告状を出したのは向こうには不利益だ。

俺が怪盗なら予告状は1枚だけ出して、相手は1人じゃなくて2人だったのかと油断させる。

だから仲間ではない、と咲良には言ってしまったが。

……いや待て、猫の色と向きが違うだけで、もし敵同士ならここまで予告状が似ているのはおかしい。

一緒に出しているのは、猫に策略があるからか……?


それともう一つ。


予告状の「取り返す」の部分。

なぜか、ここに引っかかる。


すると、視界の端で何かが動いた。

視線を向けると、不思議そうな表情で俺を見る咲良がいた。


「悠太、何してんの?」


「……いや、何でもない。今行く」


俺は予告状を後にした。

気になることは大量だが、俺は自分の役目通り、泥棒猫を捕まえるのみだ。

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