第18話 対面!【Chats】
ノワは左手を横に伸ばし、私をかくまうように後ろに寄せた。
その後ろ姿はとても頼もしかった。
「お前……」
悠太くんの表情は悔しそうだったけど、さっきのあの怖い要素はとっくに消えていた。
「って、悠太!?!?」
ドアの方からまた聞き覚えがある声。
一つくくりの髪を揺らし、なぜかトイプードルみたいもふもふの耳をつけている少女、咲良ちゃんがいた。
「ええっ!?」と、絶叫しそうなのをぐっとこらえる。
な、何で咲良ちゃんまでここに!?
てか、犬の耳可愛い……
「あんた!女の子に対して何やってんの!?」
「え、あ、」
咲良ちゃんはぐいぐい悠太くんを引っ張り、ノワから引きはがす。
悠太くんを引っ張りながらこちらをチラッと見た。
私と視線が合った途端、目がくわっと開いた。
「ああ!もう一匹だ!しかも、白猫の女の子!!めっちゃ可愛いですけど!?!?」
咲良ちゃんの目がキラキラ輝き始めた。
あまりにも突然の登場に茫然と私とノワは立ち尽くす。
「って、やっぱ泣いてるじゃん!悠太、謝りなさいよ!いくら怪盗相手でも、脅しはダメでしょ!しかも、警察から手を出すのアウトだよ!!」
「い、いや、だから、」
咲良ちゃん、すごく怒ってる。
慌てて言い訳をする悠太くんは初めて会った時とは全然違う。
そんな2人を差し置いてノワはこちらを振り向き、私の背に合わせて少しかがみ、和私の顔を覗く。
瞳がわずかに揺れていた。
「大丈夫?ブラン」
「う、うん……ありがと」
ノワを直視することができない。
何でって……かっこよすぎるから。
すると、ノワは私をグイッと引き寄せて、いつの間にか私はノワの腕の中にいた。
薔薇を連想させような匂いがふわりとした。
……えええええ、何これ!?!?!?
離してよおおお!!!!
「すぐに行けなくてごめんね、ブラン。怖かったよね」
ノワの声が沈んでいる。
そしてなぜか私をなだめるように頭を撫でてくれてる。
うう、勘弁してくださいぃぃ……このままだと恥ずかしくて溶けそうです……
しかも温かいし、ノワの心臓の音がリアルに聞こえるし、抜けようと思っても力が強くて抜けられない……
「—―オイ、いつまでいちゃいちゃしてやがる」
超低音に私はびくっとする。
悠太くんが白々しい目でこちらを睨んでいて、その隣の咲良ちゃんは私とノワを交互に見てた。
ノワは私から離れたと思うと、今度は肩を引き寄せた。
「ちょ、何す、」
「僕のブランを泣かせておいて、謝らないなんて警察としてどーなの?」
棘のあるノワの声。
意外にも低くてちょっとびっくりする。
「ほら!やっぱあんた泣かせてるじゃない!!」
すかさず咲良ちゃんが悠太くんをバシッとはたく。
「いや、だから、違うんだって!!」
「言い訳禁止!ほら、謝る!」
「……すまん。って、何でだよ!!!」
潔く謝ったと思ったらまた言い返す悠太くん。
一体何を見せられているんだろう。
「今のうちに帰ろうか、ブラン」
ノワの目が完全に座って、しれっと半眼になっている。
「そうはさせんぞ!!大人しくしろ!!」
悠太くん、そして咲良ちゃんも拳銃を構える。
その動きで犬の耳と尻尾が揺れた。
なるほど、だから「Chiens」警察なんだ。
「悠太が泣かせたのはごめんねだけど、「春風の音」と話は別!大人しく渡しなさい!!」
咲良ちゃんの顔つきが違う……彼女、こんな表情になれるんだ。
私は「春風の音」が入っているポケットに外から触れる。
これは、渡すわけには行かない。
ついでに、あのネックレスも取り返したい。
「そういうわけには行かない」
ノワはくるくるっと例の銃を回し(カッコいい)、その先をChiensの2人に向ける。
この銃……私のと違う。
私のはワイヤーガンで、中から紐と、その先にフックがついているもので、これで「春風の音」のショーケースを割った。
銃口を向けられた2人は表情がピシッと固まる。
「じゅ、銃を置きなさい!!」
ノワはふっと口だけで笑い、指に力を込める。
「それは無理かな。だって」
パァン
「警察の言うことなんて僕が聞くわけないじゃん?」
弾は悠太くんと咲良ちゃんの間を通り抜けて、壁にぶつかったと思うと小さく爆発して煙が瞬く間に広がった。
ノワの銃、煙玉を撃つやつなんだ……!!
「まずい!」
「逃がさない……!!」
2人はあっという間に煙に包まれた。
「今のうちに行くよ、ブラン」
「う、うん!」
ノワは私の手を引いて、部屋から出た。
……し、しまった、ネックレスが……!!
足取りが重くなり、ノワとの距離が少しづつ離れていく。
仕方ない、諦めよう。
今は、逃げることに集中する!
「待て!猫共め!!」
もう追いかけてくる!!
うわあ、すごい形相だ……
『ノワ、ブラン!急いで屋上に行ってくれ』
「「了解!」」
階段を二個飛ばしで駆け上がる。
下の方から大量の足跡が聞こえる。
やばい、援護が来てるんだ……
『屋上の警備員はまだ寝ているが、そろそろ効き目が消える。できるだけ急いでくれ』
そうだ、睡眠玉は限りがある。
たしか、長くて30分あるかないかだった気がする。
「止まれ!!」
後ろを見ると、悠太くんを先頭に警備員が私たちを追いかけていた。
この人たち……きっと、予備の警備員だ!
階段を上りきり、私は走りながら握っておいた睡眠玉を投げつける。
このまま捕まるわけには行かないんだから!!
「睡眠玉だ!吸うな!」
悠太くんの低い声と弾ける音が響く。
階段で警備員たちの動くが鈍くなったことを確認してまた屋上へ駆け出す。
「待って!止まりなさい!」
今度は咲良ちゃんの声。
警備員の数は減っていたけど、悠太くんと咲良ちゃんには睡眠玉は効いていないようだった。
「何で……!?」
「ブラン!屋上だ!」
「あ、うん!」
開けっぱなしだった屋上の戸を通り抜けたら、あえて閉めておいて一番奥の柵に向かって走る。
屋上でも警備員は眠っていた。
「行くぞ、ブラン!」
ノワの合図で、足を大きく踏み込み、柵に向かってジャンプをした。
「「あっ!?」」
ジャンプした私たちはコツ、と靴を鳴らして柵に着地した。
私はふうと息をつき、立ち上がりながら警察たちに視線を向ける。
Chiens警察たちはちょっとびっくりしていたけど、すぐに切り替えて私たちを睨む。
「あ、あなたたちは一体……」
警備員たちの後ろから出てきたのは館長さんだった。
名札に館長と書いてある。
ノワが私に視線をよこした。
何かを言いたげだった。
”両手は握って、顔の横”……?
何だろう、これ。
頭の中がハテナの私を置いて、ノワはふっと笑う。
そして、握った両手を顔の横に置き、首を少し傾ける。
ええええっ!?!?
横目で私を見たノワは、「ブランもやって」と小声で言う。
えええ、こんなの聞いてないんですけど!?
恥ずかしいし!!
……ノワの視線が何だか怖いので、仕方なくもうどうにでもなれ!とノワの真似をする。
顔が熱くなる。
「怪盗Chatsだにゃん!」
「……にゃん」
ノワに遅れて言ったせいかほとんど何も言えていなかった。
そんな私たちを見て、警備員は硬直。
咲良ちゃんはなぜか目を輝かせていて、悠太くんは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「目的は果たせたからそろそろおいとまするよ。それじゃ、アデュ―にゃん!」
いつの間にか銃を手に持っていたノワは一発撃つと、私に視線を送って柵から飛び降りた。
その後を追い、私も柵から降りた。
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