第24話 国王の陰謀
「頭は大丈夫?苦しかったらお姉さんに言うのよ。楽にしてあげるから。」
「こえーよ!いいじゃねえか、鬼人族に仕事を持たせてやりたいんだよ。」
「だからって、ダンジョンを作るなんて発想は出ないでしょ。ふつう。」
「なんで?」
「何でって、危険だからにきまってるじゃない。」
「どこが危険なんだ?」
「年間で何人もの冒険者が命を落としているのよ。」
「それは何でだ?」
「えっ?」
「ダンジョン攻略での失敗には、必ず理由がある。」
「それは……。」
「実力不足もそうだし、出現モンスターのブレ幅を予想できなかったよかだよな。」
「そうね。」
「ダンジョンの仕組みがわかった以上、対策はいくらでも構築できる。」
「どういうこと?」
「倒した魔物を放置することで、ダンジョン内の邪気濃度があがり、強力な魔物が発生してしまうんだ。」
「そうなの?」
「邪気は空気よりも重いため、普通のダンジョンでは下に行くほど邪気の濃度が濃くなるんだ。だから、下層にいくほど魔物が強くなるし、突然上ランクの魔物が現れるのも最下層になる。」
「じゃあ、倒した魔物を放置しなければ安定するのね。」
「でも、それは普通のダンジョンでは難しいだろ。ゴブリンを持ち帰っても、メリットがないから。」
「そうね、余程貴重なモンスターでなければ持ち帰ろうなんて思わないもの。」
「だから、こうした問題をクリアしたダンジョンを人工的に作って管理する。」
「言いたいことはわかったけど、それでもダンジョンを作るなんて危険だわ。」
「完全に整地された通路。完備された照明。」
「えっ。」
「小型マジックバッグの貸し出しに、入場管理。夜間討伐の禁止と邪気の制御による、討伐対象の固定。」
「そこまで……。」
「鬼人族男性への職業斡旋とオーク肉の買い入れ。鬼人の里での通貨浸透と商店導入による経済の活性化。女性の職場も新たに発生し、里全体が活性化するだろ。」
「……。」
「確かにどんなに注意していても、武器を使うのだからリスクはある。だが、死ななければ俺たちには人体修復シートがある。」
「本気なのね。」
「勿論だよ。」
「はあ、わかった。それで、その子は?」
「鬼人族のマツリだよ。少し前から町に来てもらっているんだ。」
「マツリです。よろしくお願いします。」
「ああ。よろしくね。」
「話言葉はほとんど一緒なんだけど文字は違うからね。鑑定メガネを貸して勉強させているんだ。」
「ふうん、図書館で勉強ね。」
「うん。でも本の種類が少ないだろ。全部読んじゃったらしいんだ。」
「少ないといっても、二・三日で読める量じゃないわ。」
「すごく面白かったです。魔法の構成や魔道具の構造。薬草の知識やお料理や機織り。全部を理解できたわけではありませんが、これからもっと勉強していきたいです。」
「読んでみて、何か気になったことはあった?」
「そうですね。いくつかあったんですが、例えば転移魔法の座標の指定なんですが、今は魔法の使用者から見た相対的な座標を使っていますよね。」
「うん、悩んだんだけど、ほかに良い方法が見つからなかったんだ。」
「今の術式だと、自分と対象物が移動していると、誤動作をおこす可能性があると思うんですよ。」
「確かに、静止状態を想定しているからね。」
「あそこに追尾式の術式を加えれば、移動中でも使えそうな気がするんですが……。」
「ふうん、ちゃんと本の内容まで理解してるようね。数日でここまで理解できてるって、もしかして天才ってやつ。」
「そんな大層なものじゃないですよ。」
「ちょっと、俺の手には負えそうもないので、イライザと一緒の方がいいのかなって思ってさ。」
「面白そうね。私も、魔法について議論できる相手が欲しかったんだ。歓迎するわ。」
「ススム様、ブランドン王国の方針が固まったようです。」
「そう。じゃあ、向こうの都合を聞いて出かけようか。」
宰相秘書のアイリスがいるので、先方との調整は簡単だし、転移もすぐにできる。
時差も大きいため、俺はメイドさんと翌朝日の出前に転移した。
「ブランドン王国としては、大臣は罷免のうえ資産の80%を没収。爵位および領地は剥奪して放免。王子は、王族の地位剥奪、資産没収の上国外追放とし、兵士も同罪。また、此度の賠償として金貨5万枚をお支払いすることで決議いたしました。ホリスギ様、如何でしょうか。」
「国内の処分に異論はございません。しかし、賠償については国庫から捻出されるのは国民に申し訳ないでしょう。
「では、どうすれば?」
「王子の勝手な振る舞いに起因するものですから、王子の資産を引き当てることはできませんか。」
「しかし、王子の個人資産では、とても賄いきれません。」
「不足分があるのなら、当然親が負担するべきでないでしょうか。」
「ば、馬鹿な!なぜワシの負担となるのだ。」
「親としての責務ですよ。」
「ぐっ……。」
「ところで、王子と兵士は5日前に城を追放となったそうですが。」
「はい。国王からそのように報告を受けておりますが。」
「この国の法律では、国外追放を言い渡された場合、軍が国境まで護送して放逐すると決められていますよね。」
「その通りです。」
「放逐後、万一国内に戻ったことが分かれば、確か処刑の対象になるとか。」
「ご指摘の通りですが。」
「こちらの情報では、王子が移送されたのは王家の馬車で、しかも最寄りの国境ではなく北の辺境ガラムに送られたと聞いています。」
「そ、それは話が違う。国王からは、東の国境で放逐したと。」
「そ、その通りじゃ。」
「ガラムに到着したのは一昨日の夜で、王子と兵士は昨日冒険者ギルドにて偽名で冒険者登録を行い、装備を整えたうえで今朝早くにD5ダンジョンにてゴブリン討伐を行っているそうですよ。」
会議室がざわつく。
「出鱈目だ!何の証拠があってそのような嘘を!」
「では、これが事実だとしたら、王子と兵士は処刑ですね。」
「無論じゃ。」
「では、本人に確認しましょう。メイドさん、お願いします。」
会釈で応じたメイドさんの横に、ゴブリンの耳を切り取ったばかりの王子と兵士が出現する。
「なっ……なんだと!」
「あれっ……、えっ……?……なんで……。」
「ジェームズ王子、今どこにいました?」
「ガラムのダンジョンに……、えっ、ススム?……父上?」
「国王による偽装工作と、追放者の国内滞在。ブランドン王国は、戦争犯罪者をかくまい、ヤマト国を欺いているということですね。」
「お、王子は国王としての特別措置法により処罰を……変更した……。」
「それはヤマト国に対する敵対行為と考えます。宰相殿、これは国としての対応なのですね!」
「いや、そのようなことはない。」
「では、国王の独断と解釈してよいですね。」
「せ、戦争じゃ!ジェームズ、そいつを切れ!」
「えっ?……なに?」
「陛下ご乱心だ!衛兵、陛下を拘束し投獄しろ!」
国王と王子、元兵士の3人は衛兵により取り押さえられ、連れていかれてしまった。
「国家維持法第3条に基づき、国王不在期間は宰相である私が国王代理として政務を取り仕切ってまいります。皆様のご協力をお願いいたします。」
パチパチと同席者から拍手が起こる。
宰相から聞いていた話では、土木・建築大臣が失脚したことで、国王擁護派は閣議メンバーの半数を割り込んだそうな。
残りのメンバーは、宰相派という明確な立場ではないが、利権にとらわれない公平な国政を望んでいるという。
今回、国王の失脚とあわせて、ヤマト国との協調という観点から宰相支持明確にしたのだろう。
【あとがき】
ジェームズ王子はほっておいてあげようよ。まだFランク冒険者なんだから。
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