第8話 伝説

「に、逃げようよ!」

「ダメだ、……あいつが呼んでいる。」

「なに言ってるのよ!出現したら、国が滅ぶっていわれている伝説のドラゴンなのよ!」

「そういう存在じゃないんだ……。」

 ソードドラゴンは俺たちの前を通り過ぎて先に進んでいった。

「た、助かったの?」

「いや、俺たちが戦える場所に向かっているんだ……。」

「そんなの……。ダメ、勝てっこないでしょ!」

「……やらなきゃ……いけない気がするんだ。」


 ソードドラゴン、もしくはシルバードラゴンと呼ばれる存在が人類の前に姿を現したのは2回と記録されている。

 その体表は、矢や槍どころか魔法も受け付けず、傷を負わせた記録は残っていない。

 また。具体的な被害の記録がないため、無敵の存在として伝わっているものの。それ以外は一切の情報がないのだ。


 ソードドラゴンの後についていくと、下に降りる坂道があった。

「今のフロアが最下層ではなかったのか。」

「そんなはずないわ。私だって何度か来ているけど、地下8階なんて見たことがない。」

 地下8階はドーム球場ほどもある広大な空間であり、光で満たされていた。

「まるで、闘技場みたいに整地されてやがる……。こいつ専用の空間みたいだな。」

「何のために?」

「さあな。戦ってみりゃあわかるんじゃねえか。」

 俺はマジックバッグをライラに預けて体をほぐした。

「武器はどうするの?」

「自動小銃やスコップで戦える相手じゃないよ。まあ、素人の体技でどうこうできるわけもないんだけど。じゃあ、いってくる。」

 ソードドラゴンは俺の準備を待っていてくれた。

 死への恐怖は感じないが、圧倒的な存在感に押しつぶされそうになる。

「なんで俺なんかを選んだんだよ……。有難迷惑だっつうの。」

 俺は力いっぱい地面を蹴った。強化された体は、少なくともAクラスの魔物は凌駕していたはずだ。

 だが、俺の放った蹴りは空をきった。

「くそっ、スピードでも敵わないのかよ……。あれっ、縮んでるのか……。」

 いつのまにか、俺と同じくらいの身長になっていた。

 これなら、パンチも放てる。

 だが、甘かった。触れることすらできないのだ。フェイントを入れたパンチも、頭突きも肘うちもかわされてしまう。

「どうすりゃあいい……。」

 そしてカウンター気味のパンチをもらう。

 物理障壁を無視したような衝撃が襲ってくる。

 奴の爪が頬をかすり、尻尾の一撃が腹に食い込んでライラの足元まで吹っ飛ばされる。

「ライラ!シールドのアクセサリーをもう一つくれ!」

「えっ、重ね掛けできるの?」

「わかんねえけど、手も足も出ねえんだ。」

 ライラから受け取ったアクセを首にかける。

 違いはわからなかったが、地を蹴った瞬間に理解できた。

 5倍の5倍で25倍。スピードもあがったおかげで、俺の右ストレートが初めて奴の顔にヒットした。

 だが、代償は少なくない。血管だか筋肉だかがブチブチと切れていく感じがする。

 その瞬間、奴がニッと笑った気がした。

 次に放った左のフックは、スウェーでかわされた。

「まだ、上のスピードがあるのかよ……。」


 どれくらいの時間戦ったのだろうか、パンチが宙をきった反動で俺は転倒した。

「まいった、もう動けない……降参だ……。」

 だが、地面に転がった俺の頭を奴は踏みつけにきた。

 俺は地面を転がってそれをかわした。

「くそっ、動く場所がある限り戦えってことかよ……。」

 

 さらに少しして、今度こそ俺は動けなくなった。

「だ、大丈夫?」

 ライラが駆け寄ってきたが、返事を返すこともできない。

 ということは、奴は去ったのだろう。

 そのまま、どれほどの時間が経過したのだろうか。

 何とか喋れるようになった俺は、ライラの手を借りてマジックバッグからシェルターを展開してその中で寝た。

 だが、全身が熱を持っていて熱い。当分動けそうにない。この状態を解消するには……、俺はあるものを思いついた。

 ライラに時間を確認し、午前0時を過ぎたのを確認してライラに支えてもらって外に出る。

「これが、新しい品物を生み出す俺のチカラだよ。」

 地中から出現した木箱に驚いていたライラだった。

「私なんかにバラしてよかったんですか?」

「問題ないよ。ソードドラゴンにも言われたけど、この世界の土から生まれたものは、世界に必要だから生まれるんだって。」

「確かに、それは理に適っていますね。」

「それをどこまで広めるかは、俺が判断すればいいんだって。」

「あのドラゴンは、いったいどういう存在なんですか?」

「世界の理、神に近い存在なんだと思う。」

「それで、この木箱の中には、何が入っているんですか?」

 俺は木箱をマジックバッグに取り込んだ。

「それは、見てのお楽しみ。」


「人体修復シートって……。」

 俺がイメージしたのは、発熱の時におでこに貼り付ける冷却シートだ。

 少し大判で、30cm四方のものである。木箱にはそれが一万枚収容されている。

「文字通り、破損した体を修復するシートだよ。事故で手足を失った人にも使えるだろうし、単純なケガの治療にも効果的だと思うよ。」

 俺はライラに着ているものを脱がせてもらい、全身にシートを貼り付けてもらった。

「子種をもらうには最適のタイミングなんですけど……。」

「悪いけど、今の俺にそんな余力はないよ。」

「冗談ですよ。」


 人体修復シートは、一晩ですべての炎症を癒してくれた。そして、身体強化25倍の負荷に対応した肉体は圧倒的な力を有していた。

「自動小銃の効果は確認できたので、帰りは素手で討伐していくよ。」

 アークドラゴンやサイクロプスなどは、足止めにもならない。現れた魔物に高速で近づき、必要最低限の力で屠り格納していく。

 帰りは半日で地上へ到達することができた。

 そして、車でレアルの町に戻って、冒険者ギルドを訪れた。

「討伐部位のチェックと素材の買取・解体をお願いします。」

「承知いたしました。」

「ここへ出していいですか?」

「どうぞ。」

「じゃあ、まずはゴブリンからですね。」

 カウンターの上に大きな布袋を出した。

「えっ?こんなに……今どこから出したんですか?」

 簡単にレアアイテムであるマジックバッグを説明した。

「すると、オークなども……。」

「ええ、ここに出していいですか?」

「あっ、やっぱり裏の買取倉庫でお願いします。」

 俺とライラは受付のお姉さんに連れられて買取倉庫に移動した。

「じゃあこれ、ゴブリンの耳です。」

「は、はい。数えさせますのでお待ちくださいね。」

「あとは、ホーンラビットからアークドラゴンやアトラスまでありますけど、何から出しますか?」

「アークドラゴンはAランクの常設依頼になりますので、ライラさんの実績にされた方がよろしいかと……。」

「ああ、じゃあそれでお願いします。50くらいあると思いますが、全部出してもいいですか?」

「いやあ、うちで同時に処理できるのは6体が限度だな。」

 ゲンさんという解体専門の職人さんが応じてくれた。

「じゃあ、6体出しますね。」

「おう。全部買取させてもらえるのかい。」

「肉の半分は持ち帰りでお願いします。ほかの部位は買取で。」

「おう、こりゃあ状態がいいな。血抜きはしてないがまだ硬直してねえじゃねえか。これなら高値で買い取らせてもらうぜ。」

 査定の結果が明日の昼頃と言われたので、俺たちは食事して宿をとった。


「ライラさん。」

 宿で、俺はライラさんを前にして話を始めた。

「どうしたんですか、あらたまって。」

「これ、使ってください。」

 俺が差し出したのは、オレンジのマジックバッグだ。

「な、なんでそんな大切なものを……。」



【あとがき】

 最初は、スローライフ系の軽いストーリーだったのですが……。

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