第7話 B6ダンジョン

 ダンジョン内では火を使うことができない。可燃性のガスが漂っている可能性があるからだ。

 だから今回は二人ともライトキャップという光る帽子を被っている。

 そこまで明るいわけではないが、7~8メートル程度まで見通すことができる。

 ライラにも自動小銃を渡して、操作方法を説明してある。


「この階はゴブリンしか出ないね。」

 ゴブリンは自動小銃で一撃だった。

「文句を言ってないで、早く左耳を切り取ってください。」

「気持ち悪くて仕方ないんですけど……。」

「Fランクの新人は、全員がこの道を通るんです。」

「誰だよ、こんな罰ゲームみたいなシステムを考えたのは……。」

「本来なら、ゴブリン相手でも真剣になるはずなんですけどね。あっ、そこの分岐を左です。」

「地図があるってすごいよな。」

「大勢の冒険者が毎日のようにやってきますからね。地図くらいできますよ。」

 下への階段にたどり着くまでに2時間ほど要したが、半分はゴブリンの耳を切り落とした時間だ。

「ところで、何で洞窟に階段があるんだ?」

「昔の冒険者たちが整備してくれたみたいですね。」

「何で?」

「初期のころは、坂道に生えた苔なんかで滑って、ケガをする人が多かったみたいです。まあ、鉄鉱石の採掘場がダンジョンになっている場所では、最初から階段が作られた場所もあるみたいですけどね。」

「おっ、ホーンラビットだぞ!」

 地下二階の魔物も、自動小銃で簡単に倒せた。

 それに、収納へ直行するため切り取りの手間がなくなり、進行速度も早くなっていく。

「くっ、邪道だ。私はこんなダンジョン攻略は認めないぞ。」

「おっ、広場があるな。休憩にしようか。」

 俺は収納からシェルターを取り出した。自動水平調整機能が高さの調整をしてくれる。

「な、なんだよこれは!」

「簡易テントだな。」

 俺はドアを開けて、ライラを中へ促した。

「シャワー、トイレ、キッチン、ベッド付きだよ。当然だけど、照明も完備してあるし、トイレはウォシュレットだよ。」

「ダメでしょ、これ。ダンジョンの緊張感が感じられない……。」

「物理障壁と魔法障壁を展開してあるから、まあ安全だと思うけど。あっ、冷蔵庫に飲み物が冷やしてあるからね。」


 地下3階には、オークが大量に発生していた。

 当然、自動小銃の敵ではない。

「へへへ、新鮮な肉ゲットだぜ!」


 地下4階の中ほどで時計を確認すると8時を過ぎていた。

「じゃあ、今日はここまでにしておきますかね。」

「全然疲れていないんだけど……。」

 シェルターを展開して中に入ってロックする。

 入り口で靴を脱いで裸足になると、床の冷たさが心地よかった。

「ねえ。」

「なに?」

「ご飯にする?」

「うーん、まだいいかな……。」

「シャワーにする……、それとも……。」

「シャワーを浴びてこい。食事の用意をしておくから。」

「ちぇっ……。」

 準備とはいっても、食器を出すだけだ。

 よそうのはライらがシャワーを浴びてからでいい。


 緑の髪をふきながらシャワー室から出てきたライラは……、神秘的な美しさだった。

 思わず見惚れてしまった俺に、ライラは言った。

「冗談じゃないんだよ。」

「だ、だけど……。」

 ライラは俺の唇に、自分の唇を軽く重ねた。

「だから、ゆっくりと…ねっ。」

 俺の心臓は破裂しそうなくらい高鳴っている。

 初めてのキスだった。


 食事を終えてベッドに入っても、胸の鼓動はおさまらなかった。

 そんな状態でも、明日の願いはまとめておく。


 翌日増えたのは、シールドのアクセサリーだ。

 バッグにはあと498個入っている。

 ペンダントになっており、起動すれば使用者の周囲に物理障壁と魔法障壁を展開してくれる。

 ライラにも渡して起動し、討伐に出る。


 ガンガンガン!

「なんで岩に頭突きしているの?」

「障壁がどれくらいの効果なのかなって……。」

「ダンジョンが簡単すぎて、気がふれたのかと思ったわ。」

「今日は、肉弾戦を試してみようかと思うんだ。」

「それはいくらなんでも無謀でしょ。」

「シールドのアクセには、身体強化もついているんだ。平常時の5倍になっているはずだよ。」


 そのあと、単体で現れたオーガに対し、俺はスコップを掴んで向かっていった。

 右手で横殴りにきたオーガの攻撃を受け流して、勢いをつけたスコップの一撃を叩き込むと、オーガはあっけなく絶命した。

 サイクロプスも同じだった。

「だめだ、手ごたえがなさすぎる。」

「でも、本来地下7階で出現するサイクロプスやオーガが地下5階で出現するってことは、下の階層にはAクラスの魔物が出現していると考えた方がよさそうね・」

 ダンジョン名についているB6というのは、最下層で現れる魔物のクラスを表しており、冒険者はそれを目安にして攻略に挑戦する。

 目撃情報に出てきたアークドラゴンやアトラスはAクラスの魔物だった。

 地下5階の魔物に自動小銃が有効なことを確認した俺たちは、地下6階へと降りて行った。

「出たわね、あれがアトラスよ。どうする?」

「もちろん、討伐あるのみ。」

 アトラスも自動小銃で討伐できたのだが、アークドラゴンの鱗は貫通できなかった。

「やっぱり、ドラゴン系の鱗は固いんだ。」

「どうするの?」

「接近戦を試してみる。」

 俺はアークドラゴンに近づき、尻尾の一撃をかわして顔に自動小銃を打ち込んだ。

「うん、目と口の中なら弾が入るね。」

 ズンっと、アークドラゴンは横に倒れた。

 体長3m程度だが、1トンは超える感じだ。

 倒れたアークドラゴンで試したところ、腹への掃射は効果があった。

 スコップによる一撃は、アークドラゴンにも有効だった。

「あのね、アークドラゴンの頭をスコップで叩き割る冒険者なんて、どう考えても異常だと思うんだけど。」

「Fランクですが何か?」

「そういえば、冒険者登録して、まだ三日目だったかしら?自動小銃が異質な武器だっていうのは理解したけど、その所有者はもっと異質だったようね。」


 そうして俺たちは地下7階、最下層に到達した。

「アークドラゴン・アトラスだけじゃなくって、アギラスなんかの上級悪魔も出てきたわね。」

「まあ、皮膚の柔らかい魔物には自動小銃が有効だから問題ないよね。」

「問題はあるわよ。こんな初級冒険者が操作できる武器が、Aクラスの魔物に有効なのよ。これまで腕を磨いてきた戦士や魔法使いはどうなるのよ。」

「でもほら、売るとしても金貨1000枚とか高額だからさ。」

「その金貨1000枚って、アークドラゴン3匹程度で元がとれるって知っているのかしら?」

「それに、アークドラゴンを倒しても、持ち帰るのが大変だからさ。」

「それと、シールドってアクセサリーなんだけど。」

「はい。」

「なんで駆け出しの冒険者が、アークドラゴンと肉弾戦やっているのよ。」

「つ、つい……熱くなってしまって……。」

「こんな非常識な人を好きになっちゃった私って……可哀そうだと思いませんか?」

「……はい。そろそろ、ご飯に……。」

「それだって変じゃないのよ。Bクラスダンジョンの最下層で、なんだって生活リズムを変えずに楽しんでいるのよ!」

「しっ!何か……来た。」

 ズシン、ズシンとおそらく一歩ごとに響く振動。

 暗闇に浮かび上がったそいつは、銀色の体をしたティラノサウルスのようなシルエット。

「まさか、ソードドラゴン……伝説クラスの……。」

 ライラの乾いた声が微かに聞こえた。


【あとがき】

 違う!こんな展開は、構想になかった……。

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