第6話 冒険者

「ライラさん、これどうかな?」

「何ですか、コレ?」

「氷と炎の弾を切り替えできて、一秒間に10発発射できるようにしてあるんだ。」

「ま……道具……なんですか……。」

「うん。多分ドラゴン級の魔法石を使ってあると思うよ。」

「確かに、質の高い魔法石ですね。いったい、どうやって手に入れたんですか?」

「そこはナイショだね。」

「こんなものどうするんですか?」

「第二小隊と第三小隊に5丁づつ貸出するつもりだよ。」

「そんなにいっぱいあるんですか!」

「このバッグの中に200丁入ってる。」

「王国相手に戦争でもするつもりですか!」

「それでもいいんだけど、とりあえず効果をみたくてさ。」

「そうするとダンジョンが手っ取り早いですね。」

「そうですね、じゃあ冒険者登録しにいきますか……。」


「冒険者登録をされた方は、Fランクからのスタートとなります。」

 カウンターで受付してくれたお姉さんが、登録カードを作成しながら説明してくれる。

「Fですね。その上はDですか。」

「はい。上のランクに上がるには、薬草であるペタン草かポーションの原料となるツクヨミ草、モタンゴの実などを100か、魔物を100体討伐して証明部位を持ってきてください。」

「こちらの紙に書いてあるように、ホーンラビットの角やゴブリンの左耳などですね。」

「それって、スライムでもいいんですか?」

「スライムは討伐すると溶けてしまいますから、討伐部位がないのですよ。残念ですが……。」

「それに、子供でも倒せるスライムをカウントしたら実績とは言えないでしょ。」

「パーティーの場合は、どうカウントされるんですか?」

「ポイントを折半するか、どちらかが辞退するかですね。」

「私はBランクだからこれ以上は依頼をこなさないと上に上がらないの。討伐数がカウントされるのはDランクまでよ。だからポイントは全部シンにあげるわ。」

 シンというのは、進の読み方を変えただけだ。冒険者という立場では、お互いに敬語はやめて名前も呼び捨てにすることにしてある。


 その日は、ダンジョン攻略に必要な機材の買出しになった。

「まずは薬品類ね。傷薬と回復用ポーション。時間があれば、私が作るんだけどね。」

「時間がもったいないので、お金で解決できるものは買っていきましょう。」

「ああ。冒険者のころの苦労は何だったのかしら……。荷物は最低限にして、徹底した質素な生活をしてたのよ。」

「そういうの要りませんから。」

 ベッドに布団、部屋着、調理道具や水の魔道具などを買いそろえていった。

「なんだか、新婚みたいね。」

「ダンジョンで新婚生活なんて、俺は嫌だね。」

「あら、私はシンとならどこでも大丈夫よ。」

「俺には、100才以上の年の差は耐えられねえよ……。」

「あらっ、私が22でシンが16だから6才差よ。長い人生で考えたら誤差の範囲じゃない。」

「くそっ、いつかエルフの里へ行って、実年齢を調べてやるからな。」

「それって、うちの両親に結婚の承諾をもらいに行くってことよね。うふふっ、楽しみだわ。」


 翌朝は、ダンジョン内で寝泊りするためのシェルターを掘り起こした。

 もちろん、最高級の魔法石を使った魔道具である。

 そこに、ベッドや家具一式を設置して準備完了だ。

 食事は、食堂に頼んで、寸胴いっぱいのトン汁と、焼肉・パンなどを仕入れてある。

「一番近いダンジョンは、隣町のレアルから歩いて1日のところにあるのよ。今日は野宿ね。」

 町を結ぶ定期馬車の中でライラから教えられた。一日歩くってことは、25kmくらいだろうか。

「じゃあ、今日の午後はレアルの視察にして、ダンジョンへは明日向かいませんか。」

「別にいいけど、レアルって何もない町よ。」

「俺にとっては、初めての”外”ですからね。」

「分かった。とりあえずギルドへ行って情報をチェックしておこう。」


「B6ダンジョンですね。報告では魔物が活性化しているとのことですよ。」

「活性化か、最下層はどんな魔物が出ているの?」

「普段はオーガ、サイクロプス・パミラあたりなんですが、最近ではアークドラゴンやアトラスの目撃情報が届いていますね。」

「どっちもAクラスだよね。私たち二人じゃ厳しいかな……。」

「まさか、お二人だけのパーティーなんですか!ライラさんはともかく、シンさんは登録したばかりのFランクじゃないですか!」

「まあ、うまくいかなければ1階で帰ってくるしね。」

「肉の美味しい魔物っているんですか?」

「そうですね。3階あたりに出てくるオークは人気がありますけど、荷物になるのでみなさん討伐部位だけを持ち帰ってきますね。」

「オークね、他には?」

「私は食べたことないんですが、ドラゴン系のお肉は美味しいって評判ですよね。」

「じゃあ、アークドラゴンってやつが狙い目ですね。」


 ギルドの次に町中を散策した。

「シン、これ美味しそうだよ!」

「はいはい。」

 串焼きに氷菓子、果汁の飲料に服や靴、果ては下着まで買わされた。

「あれっ?何でお前の下着まで買わされるんだ?」

「まあまあ、男の子が細かいこといわないの。」

「金はあるからいいけど……。」

 この国の貴族の実態を聞いてから、永住という考えはなくなっている。

 したがって、家を買うとか必要ないので、お金を貯める目的はないのだ。

 それに、金を稼ぐなら上質の魔法石でも売りに出せばいい。


 そういえば、最近ライラのことが気になり始めている。

 体系こそ凹凸のないラインだが、何気ない仕草に胸がときめいてしまうのだ……。

 ダメだ!相手は100年以上生きてきたエルフだ。

 思わせぶりなことを言われたからって、本気にするんじゃない!……と、自分に言い聞かせている。


「この地の領主を任されておるイワノ・フォン・ビッチじゃ。」

「国務大臣付き補佐官に任命されました、ススム・ホリスギです。こちらは、部下のライラになります。」

「で、今日はこの地を視察にまいったと。」

「はい。魔物の活性化が目立ってきておりますので、状況確認にお邪魔しました。明日からB6ダンジョンに潜って実情を見てきたいと思います。」

「まあ、好きにしてもらって構わんが、くれぐれも問題を起こしてくれるなよ。」

「はい。ではこれで失礼いたします。」

 部屋を出るときに、”歓待しなくてよいのか”とか聞こえてきた。それに対して、手土産もなく突然の来訪だ。手をかける必要はないという領主の声が聞こえてきた。

 まあ、その程度の人物だということだ。俺とライラは顔を見合わせて笑った。


 翌朝、俺は朝一番で魔導四輪駆動車を掘り出した。

 大型のものではない。日本でも人気のある軽自動車タイプのオフロード車だ。

 否破壊属性がふよされているため、魔物と衝突しても壊れることはないだろう。

 街はずれまで歩いたところで、俺は収納から車を取り出した。

「こ、今度は何ですか!」

「自動馬車……みたいな感じかな?」

「みたいなって……。」

「まあ、細かいことは気にしないで、とりあえず乗ってよ。」

 俺はドアを開けて促した。

 お互いにシートベルトを着装し、車を慎重にスタートさせる。

 俺自身、遊園地のゴーカートくらいしか運転経験はない。

 内燃機関ではなく、モーターである。EVのバッテリーの代わりに魔法石を使っているだけである。

 ウィーンという小さい駆動音と共に車が走り出す。

 舗装路ではないため、時速20kmから30km程度だが、徒歩と比べれば5倍ほど早い。

 俺たちは、1時間ほどで目的地に到着した。



【あとがき】

 予定になかった冒険者編突入です。ながくやるつもりはありません……多分。

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