第5話 収納……いやそれ反則でしょ
土中から出てきたのは、醤油(ペットボトル1本)、味噌(1樽)、受精卵(300個)、ヒヨコの餌(10袋)となった。
基本的には、前日の夜に願ったものが翌朝出現するというサイクルで、掘るのは向こうから持ってきたスコップに限られている。
5日目に願ったのは、四斗樽入りの醤油だ。これで、食堂の方は当分大丈夫だと思う。
エルフのライラさんにいわれて、今日は王立軍の訓練を見学することになった。
軍の主な任務は、魔物の討伐であり、国家間での戦争はほとんど無いと聞いた。
「どんな魔物が討伐対象になるんですか?」
「一番多いのは、ゴブリンの巣なんだそうです。」
「えっ、ゴブリンって大した事ないって言ってなかった?」
「単体であれば、そうですねDランク冒険者がソロで討伐できる魔物です。ですが、群れをなして巣を作ると話は別です。」
「別?」
「ゴブリンは住みついた洞窟を迷宮に作り変え、そこに人間タイプの女性を攫ってきて卵を生みつけます。」
「卵?」
「はい。女性の胎内で孵化した卵は、人体を食い破って出てきます。」
「げえっ……。」
「そうやって数百に増えたゴブリンの巣ですが、通路の狭い洞窟ですから二列縦隊とかで進むしかありません。」
「数の優位性を使えないんだ。」
「ええ。討伐では、毎回少なくない犠牲が出ています。」
「うん、かかわらないようにしよう。」
「それ以外にも魔物は出現しますが、多くは冒険者ギルドで対応できるレベルですね。軍が出動するレベルだと、はぐれドラゴン……。」
「おっ、ススムじゃないか。今日は軍の視察か。」
「ジェームズ王子じゃないですか。王子も軍に所属しているんですか?」
「ああ、第一小隊の隊長を任されているんだ。」
「へえ、小隊長さんなんですね。何かお困りのこととか、不安なことってないんですか?」
「困っているのは、そうだな……、ドラゴン討伐なんかで使える威力の高い武器が欲しいかな。」
「高威力の武器ですか……。鉄の槍を打ち出す大きな弓とかはないんですか?」
「そういう武器を考えたモノもいるんだが、素材や強度だけじゃなくて、それだけ強い弓を引く力がな……。」
「板バネとワイヤーを使って、テコを使って弦を引けばできるかもしれないな……。」
「か、考えがあるのか?」
「うまく出来るか分かりませんが、少し時間をください。」
その夜、俺は考えた。
存在するかどうかわからないものを願ったらどうなるか。
俺が欲しいのは、異世界アニメで時々見かけるチートアイテム、”マジックバッグ”だ。
一見、普通の肩掛けバッグだが、内側には巨大な収納空間……、今回は都内の野球ドーム10杯分にしておこう。
収容物の重量はゼロにない、時間経過も停止する。
生物の収容は不可で、色はモスグリーン・黒・赤・青・オレンジの5色。
収容方法と取り出し方法も具体的に考えて、そういうマジックバッグが10袋入った木箱を願ってみた。
一つあれば十分なのだが、万一の予備品だ。
こんなものが存在してしまったら笑えるよな。
翌朝、城の果樹園横を掘ると木箱が現れた。
中から出てきたのは、モスグリーンのショルダーバッグ。思い描いたとおりのバッグだ。
「見た目は願い通りだな。あとは機能だけど……。」
バッグを開いてみると、底が暗黒空間のようになっていて見えない。
空になった木箱とか、使っていたタオルとかを出し入れして機能を確認するが、正常に動作しているように感じられる。
食堂に行って、暖かいスープや焼き肉を収納していく。氷の入った果汁も入れておいた。
そうしてライラさんと合流し、町の視察に出かける。途中で買った串焼きも入れておいたが、汁物やタレがこぼれてくることはなかった。
昼時になったので、広場のベンチに腰をおろして聞いてみる。
「ねえライラさん、この世界にマジックバッグってあるの?」
「何ですかそれ?」
俺はマジックバッグの機能を説明した。
「そんなのがあったら、荷馬車とか不要になっちゃいますよ。」
「そ、そうだね。」
「旅の商人だって体一つで商売ができるし、いくら高額でも手に入れようとするでしょうね。」
「まあね……。」
「そんな夢みたいなアイテム、想像すらできませんよ……、というか、バッグ変えたんですね。いい色合いですよ。」
「ありがとう。はい、これ。」
「あっ、ありがとうございます……っていうか、こんな果汁の入ったコップを新品のバッグに入れるなんて、こぼれたらどうするんですか!」
「2時間前に入れたんだけど、氷がちゃんと残っているな。」
「えっ……、……。」
「焼き肉サンドもあるから食べてよ。」
「ちょっ、なんで暖かいんですか!」
「さっき買った串焼きもあるし、食堂のスープもどうぞ。」
「待ってください!どうなっているんですか!」
「だから、マジックバッグ。」
「そんな秘密のアイテムを人に見せたらダメでしょ。」
「ライラさんには知っておいてもらったほうがいいと思ったんだ。」
「それって……まさか、プロポーズ……。」
「いや、そういうんじゃないから。パートナーとしてね。」
「人生の?」
「いや、仕事のね。」
「……それって、どれくらい入るんですか?」
「城全体は入ると思うけど。」
「……、じゃあ、これから仕入れに行きましょう。……もしかして、鮮度が落ちないってことは、海鮮とかも……。」
「生き物はダメだけど、死んでいれば大丈夫だよ。」
「ねえ、ライラさん。」
「はい、何でしょう?」
「昨日ジェームズ王子が言っていたドラゴン対策の武器なんだけど。」
「はい。」
「例えば、太さ10cmくらいの氷の槍を射出する魔道具ってできないかな。」
「技術的には可能だと思いますけど、そこまでの魔力を使える人がほとんどいませんね。」
「魔法石を組み込めばできるんじゃない?」
「そこまで高純度の魔法石なんて多分ドラゴンよりも高位の魔物を倒さないと手に入りませんよ。ドラゴンクラスの魔法石でも金貨1000枚とかって聞きますから、それこそ武器なんかよりも城全体の機能を任せますよね。」
「あれっ?城で魔法石って使っているの?」
「空調や照明。水にトイレに食堂の調理器具。数は多いですね。」
「それは気が付かなかった……。魔法石の需要って多いんだ。」
「それから、一つご注意いただきたいことがあります。」
「なんですか?」
「申し上げにくいのですが……、第一小体はほとんど前線に出ません。」
「えっ?」
「ですから、第一小体に強力な武器を提供しても、効果は期待できないんです。」
「それは……、どういうこと?」
「……第一小体は、貴族の子息により構成されています。希望する予算も通りやすいので、装備は充実しているでしょう。」
「……。」
「それに対して、第二、第三小隊は平民により組織されています。」
「予算がつかない……と。」
「はい。第一小体のお下がりみたいな装備で、出動するときは常に最前線です。」
「じゃあ、ドラゴン用の武器を提供しても……。」
「おそらくは、第一小体で独占されると思います。」
「貴族は、国民を守るために、率先して戦うんだとか言ってたけど……。」
「この国は、いつだって貴族が最優先です。貴族の子息を死なせるなんてとんでもないです。」
ライラの説明を聞いて、俺はドラゴン用ではなく、通常兵器から開発することにした。
自動小銃型の魔道具で、氷と炎の弾丸を切り替えて連続射出できるもの。もちろん、高品質の魔法石を使ってある。
射出は毎秒5発で、連射可能。これならば、ゴブリンの巣や魔物暴走でも活躍してくれるだろう。
これを200丁格納した木箱。
自分でも使うのが楽しみになってきた。
【あとがき】
雲行きが怪しくなってきました。最初はスリングショットあたりから出現させようと思っていたのですが、マジックバッグなんていうチートアイテムが出てきたんじゃ仕方ないですよね。
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