第4話 エルフに誘われたんだが

 パンの方は、一晩寝かせたことで、いくつかは発酵しているものがあった。

 うまくいったのも含めて、全部を焼き上げてバイキング形式で選んでもらうようにしたみたいだ。

「次のステップなんですが、焼く前にオーブンの温度を40度から50度に保って、1時間くらいしてから焼くことはできませんか?」

「うまくコントロールできるかはわからないが、魔法局に頼んでみよう。」

「温度とか時間はあまり自信がないので、いろいろと試したほうがいいですね。」

「わかった。それにしても、一晩でパン生地が2倍に膨らむとは思いませんでしたよ。」

「あははっ、俺も漠然とした知識として知っていただけですから、あとはお任せしましたよ。」

「そうそう、パン生地にバターを練りこんだり、乾燥したフルーツを混ぜるのも美味しくなりますよ。」

「ほう。それも試してみましょう。」

 料理長も俺なんかに対して丁寧に話してくれる。ありがたいことである。


「さて、迷い人ススム・ホリスギよ。」

「はい。」

「味噌の提供、パン改良の指導、ニワトリの寄贈と、お主がこの国にもたらしてくれた功績・効果に対し、国民に代わって感謝する。」

「もったいないお言葉、感謝いたします。」

「今回の働きに対して、一時金として金貨100枚。さらには国務大臣付きの補佐官として正式に採用したいと考えておるのじゃがどうじゃろうか。報酬は年間で金貨100枚じゃ。」

「……。」

「どうした、不満か?」

「他国……、特に海辺の町で探してみたい食材などもありますので、どうしたものかと。」

「構わぬよ。正式に国史として出かければ、相手も便宜を諮ってくれよう。」


 こうして俺は、正式に職を得ることができた。


「それではススム殿、本日は城下町の視察ということで、各ギルドへのご挨拶にまいりましょう。」

 俺の部下として配置されたのは、自称22才と言い張るエルフのお姉さんだった。

 エルフというのは、王国の西方出身の部族で、平均的な寿命は400年くらい。人間との混血も可能だが受胎率は低いらしい。

 本来は森の中で生活しているのだが、彼女は好奇心が強く人間の社会に興味を持ったので城勤めをしているらしい。

 彼女はエルフの特徴である緑色の髪と同色の瞳を持ち、これもエルフの特徴であるスレンダー体系で抑揚のないボディいラインをしている。

「ねえライラさん。あなたの方が年上なんですから、僕に敬語を使うのはやめてくださいよ。」

「そうはまいりません。あなたは私の上司なんですから、ちゃんと自覚を持ってください。お願いしますよ。」

「だって僕は16才ですよ。あなたとはひゃくさ……。」

「いやですわ。私は22才だと申し上げたはずですわ。オホホッ。やっと子供を作ってもよい年齢になったばかりなんですからね。」

「はあ……。」

「いいですか、エルフというのは受胎率が低いんです。」

「はあ。」

「ということは、妊娠のチャンスを、より多く求めます。出産率の低下は、種族の滅亡をいみしますからね。ここまでは分かりますよね。」

「はあ、なんとなく……。」

「ですから、エルフ全体が性に対してオープンになっているんです。結婚という制度自体がないんですよ。」

「……。」

「でも、誰でもいいということはなくて、やっぱり気に入った相手でないと行為はおこないませんの。」

「……。」

「ススム殿も、健全な殿方であれば、性に興味はおありですよね。」

「まあ、人並みには……。」

「ですから、私といたしましょう。」

「なんでそうなるんですか!」


「こちらが冒険者ギルドになります。朝早くはもっと活気があるのですが、このくらいの時間になると人は少ないですね。」

「たっぱり、メインは剣と魔法なんですか?」

「祝福や薬草も必須ですね。エルフは植物の知識に長けていますから、薬師(くすし)としても人気があるんですよ。」

「ライラさんも冒険者だったりするんですか?」

「ええ。何年か冒険者のパーティーでお世話になったことがありますね。これが冒険者の登録証です。」

 ライラさんはポーチから銀色のカードを取り出して見せてくれた。

「Bランクってことは、それなりに活動されていたんですね。」

「そ、そんな事はないですよ。高位の冒険者がいるパーティーなら、意外と簡単にランクアップできるんですよ。」

「ダンジョンとかに行くことはないと思うんですが、冒険者に登録すると、何かメリットはあるんですか?」

「そうですね、素材を買い取ってもらうのは冒険者でなくともできますし、ススム殿は城の身分証があるので、そんなにメリットはないと思いますよ。ああ、国境越えの時は少し楽かもしれませんね。」

「ライラさんのカードには、ジョブ薬師って書いてありますけど、俺の場合何になるんですかね?」

「魔法はまったくダメだっていってましたよね。戦士とかでいいんじゃないですか。」

「足手まといになりそうなので、登録はやめておきましょう。」

「いやいやいや、せっかく別の世界にきたのに、冒険者登録しないなんて、もったいないですよ。」

「うーん、薬草の採取とか興味ありますけど、薬草は城でも買い取ってくれるっていってましたから、やっぱりいいです。次に行きましょう。」


「ここが商業ギルドになります。魔物由来以外のものを買い取ってもらえます。商店を開くときには登録が必要になります。」

「店を開く予定はありませんけど、不要になった品物を処分する時に使えそうですね。」

「そうですね。ススム殿の国の品なら、高値がつくかもしれませんね。」

「じゃあ、登録しておきます。」

 登録料は銀貨2枚だった。家を買う時にも割引があるらしい。

「そういえば、家っていくらくらいで買えるものなんですか?」

「そうですね、庶民の家なら金貨200枚あたりから買えると思いますよ。でも、ススム殿ならそのうちに叙爵されるんじゃないですか?」

「叙爵?」

「ええ。貴族の血筋でなくても、名誉男爵なら平民でもなれることがありますからね。貴族になればお屋敷は国から貸与されますから。」

「俺が貴族……ナイナイですよ。」

「そんなことないですよ。玉子の流通が成功したら可能性はぐっと広がると思います。それに、国としてもススム殿は抑えておきたいでしょうから、貴族のお嬢さんと結婚なんていうケースはあるでしょうね。あっ、その時は愛人でお願いします。」


「ここは職人ギルドになります。以前は商業ギルドの一部門だったんですが、需要が大きくなったんで独立したギルドになりました。」

「何かを作ってもらう時には、ここへ頼めばいいんですね。」

「はい。建築部門もありますので、今回のニワトリの施設もここに依頼がきているはずですね。あっ、担当の子が来ていますね。」

「鶏舎の打合せですか。俺も顔を出した方がいいのかな。」

「実績のない施設ですからね。少しアドバイスしてあげると喜ぶと思います。」

 ギルド長に挨拶させてもらい、打ち合わせに同席させてもらった。

 別に難しいことはない。日中は広場で放し飼いして、小屋の方は風通しをよくして抱卵と寝るだけなので衛生面と藁を敷ければいい。それと照明である。日照時間が短くなると玉子を産まなくなってしまうので、人工照明でニワトリに勘違いさせるのだ。

「本当に毎日玉子を産むんですか?一年中……。」

「大丈夫だと思いますよ。厳密にいえば、毎日じゃなくて週に6個とか聞きましたけどね。」

「この王都が人口5万人くらいなので、5千羽とかになれば、10日に一度は玉子が食べられるようになるんですね。」

「玉子があれば、野菜用のソースとか、スイーツとか楽しみが増えますよ。」

「玉子って、焼いたり茹でたりするだけじゃないんですか!」

「へえ。それじゃあ、鶏舎も気合い入れて作らないといけませんね。」


【あとがき】

 冒険者登録しない異世界物語……。でいけるのかな?

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