第9話 ランクアップ

 マジックバッグを手にしたライラさんは明らかに戸惑っていた。

「マジックバッグは、品物を入れた人しか取り出すことができません。」

「はい。」

「別行動している時に何かあったら、絶対に後悔するので今のうちに持っておいてほしいんです。」

「それって……。」

「ライラさんに、ずっと一緒にいてほしいと思っているんですが、だめですか?」

「ススムはそれで満足かもしれませんが……、ススムが死んだ後も私はそれを引きずって200年以上生きていくんですよ……。」

 ライラの目に涙がたまっている。

「ソードドラゴンにもいわれたんです。この世界で、安定した町を作れって。」

「安定した町?」

「住民が安心して暮らせる平等な町。そして、それを何百年も維持し続ける覚悟を持てと。」

「無理よ。だって人間の寿命は……。」

「もう忘れたんですか?」

「えっ?」

「俺は、この大地から何でも生み出せるんです。例えそれが寿命を伸ばしたり、不老不死になる薬であってもね。」

「あっ……。」

「ライラさんを一人にはしません。一緒に町を作ってそこで生きて、そして一緒に死んでください。」

 目にたまっていた涙が零れ落ちた。

「……はい。」

 その夜、俺たちは長い長いキスをして、そして一つになった。

 日本でいえば高校生だけど、今の俺なら責任をとれる。


「この大陸の東の端に、少し大きな島があるそうです。いずれ、そこに向かうつもりです。」

「うん。一緒にいく。」

「エルフの皆さんや、立場の弱いドワーフたちにも声をかけるつもりです。」

「じゃあ、父や母も……。」

「持っていきたいものは、今のうちにマジックバッグに入れておいてください。」

 ライラには、自動小銃や人体修復シートも分けて保管してもらっている。


 朝、掘り出したのは、ケプラー繊維で編んだ上下一体型のボディースーツだ。

 破壊不能の属性と、物理・魔法障壁と衝撃吸収の機能を備え、伸縮性・通気性に富んでいる。

 黒、モスグリーン、ネイビー、ライトブルー、ライトグリーンなどの10色を用意し、それが各300着入った木箱に収容されている。

 長袖・長ズボンで、インナーとして着用することを前提としている。

 同じ素材の手袋とセットになっており、近接戦闘用に作ったものだった。


 昼過ぎに二人で冒険者ギルドに行くと、ランクアップと査定の結果が出ていた。

 俺はDランクに昇級し、ライラもAランクになった。

「シンの方が強いのに、変な感じ。」

「俺なんて、冒険者登録してまだ一週間だけどね。」

 査定額はアークデーモン6体で金貨3300枚になった。そして3体分の肉も受け取った。

 俺はアークデーモンの肉を少し切り分けて、受け付けしてくれたお姉さんにプレゼントした。

「食べたことないんでしょ。どうぞ。」

 お姉さんは悲鳴のような歓声をあげて喜んでくれた。

「やっぱり、魔物の出現レベルがあがっているんですね。上級悪魔のアギラスまで出てきたとなると、Aクラスにアップしておかないと……。」

「そうですね。一般の冒険者がBクラスだと思って挑戦すると苦労すると思いますよ。」


 ソードドラゴンについては触れないでおいた。あいつは、ほかの冒険者の前に現れるような存在じゃない。

 昨夜のうちにライラと相談済みである。


 王都への帰還は車を選択したので2時間ほどで到着できた。

 そのまま冒険者ギルドへ直行して、ホーンラビットやオーク、アークドラゴンの解体と買取をお願いした。

 肉の半分は引き取りである。

 そして、商業ギルドへも魔物を持ち込んで解体を依頼した。マジックバッグの中には、まだまだ大量のストックがある。


「ねえススム、人体修復シートを使いたいんだけどいいかな?」

「ん?何かあったの?」

「私じゃなくて、昔パーティーを組んでいたエルフの仲間なの。」

「そういうのは、ライラの判断で使っていいよ。足りなくなったら、また掘り出せばいいんだからさ。」

「うん、ありがとう。ススムにも会ってほしいんだ。」


 ライラに案内されたのは、繁華街の外れにある小さな薬屋だった。

 開きっぱなしの入り口を通って声をかけると、奥から義足の女性が現れた。

「イライザ、久しぶり!」

「ライラじゃないか。こんなところに来るなんて珍しいね。もう、30年くらい会ってなかったけど、元気にしてたかい。」

 エルフの年齢は分からないが、イライザというこの女性はライラよりも年上な感じがする。

 短く切りそろえた緑の髪はショートボブというのだろうか、質素な身なりだが品のある女性だった。

 ライラよりもスタイルがよさそうだ、特に胸のあたりが。

「おや、随分と若そうな連れだね。ダメだろ、こんな若い子を毒牙にかけちゃ。」

「うーん、確かに若いんだけどね。でも、もう決めちゃったから。」

「決めたって……何を?」

「一生、傍にいるって……。」

「何言ってるんだい。人間相手に本気になったって悲劇しか生まないって、私を見て分かってるだろ。」

「えへへ、でも大丈夫だよ。ススムは私を幸せにしてくれるって誓ってくれたから。」

「なんでこの子は姉のいうことを聞けないんだろ。」

「えっ、お姉さん?」

「あっ、ごめんね。紹介する。私の姉さんでイライザ。こっちは国務大臣の補佐官で私の伴侶、ススム・ホリスギだよ。」

「薬師のイライザですわ。」

「ススムです。そうですか、”30年”音沙汰のなかった妹ですか。22才だって言い張ってたのに、不思議ですね。」

「ぷっ、誰が22才だって?えっと、私が230才くらいだから……あんたはひゃく……。」

「黙って!」

「やっぱり、エルフの方って、正確には年齢を数えないんですか?」

「そうだねぇ、いちいち覚えていられないってところかな。」

「そ、そうよ!私の時は22才で停まってるの!」

「まあいいよ。それで、今日は惚気に来たのかい?」

「そんなわけないでしょ。えへへ、驚かないでよ、今日はこれを持ってきたのよ!」

 ライラはマジックバッグから人体修復シートを取り出してイライザに手渡した。

「なんなの?人体……修復って、あんた、また詐欺に引っかかったの……。」

「”また”って何よ!詐欺に引っかかったことなんて……。」

「透明になれるマント、空を飛べる靴、何でも切れるナイフ。ぱっと思いついただけでも出てくるわよ。」

「あっ、あれは……その……。」

「へえ、マントは使い道が思いつかないけど、靴とナイフは実在したら面白いですね。」

「そ、そうでしょ。私は、可能性に賭けたのよ!」

「いいこと、空を飛べる靴や何でも切れるナイフがあったら、金貨10枚程度で買えるわけないでしょ。」

「ふむ、正論ですね。じゃあ、この人体修復シートが本物だったら、いくらで売れますかね。」

「なくしたこの足が戻ってくるなら、金貨500枚でも買うわよ。借金してでもね。」

「金貨500ですか、じゃあ、もし足がもとに戻ったら、お姉さんは一生俺の言いなりってことでどうですか?」

「面白いことをいう坊やね。いいわよ、足が戻ってくるなら性奴隷でもなんでもなってあげるわ。その代わり……。」

「その代わり?」

「偽物なら、坊やが私の奴隷よ。一生このお姉さんに奉仕させてあげるわ。」

「なんか、俺にはメリットしかない気がするけど。」

「ちょっと、なに二人で盛り上がってるのよ!」


 お姉さんに横になってもらい、義足を固定する革のベルトを外して患部を出した。

「ねえ、本気なの?」

「真偽をはっきりさせないと、お姉さんの奴隷になれませんからね。ああ、痛かったでしょう。」

「人の傷跡にスリスリしないで!」

 患部をシートでくるんで密着させれば終わりだ。

「欠損した部位の修復は24時間必要ですから、明日の夕方までですね。それまでは、身の回りの世話をさせてもらいますから、今日は泊まり込みましょう。」

「もしかして、このシートを持ち込んだ詐欺師って……坊やなの?」

「詐欺だったら、シートを売りつけて逃げますよね。」

「寝ているすきに、二人に奴隷紋を刻んで売り飛ばすとか……エルフの奴隷は高値だって聞くし。」

「イライザ!」



【あとがき】

 お姉さんエルフ登場!まさか、ハーレム展開……なのか?

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