第15話 こんなこと、できたらいいな……

 その夜。俺は具体的な仕様を考えていた。

 思い付きを具体的な形にするのは、楽しいことなのだが結構大変なのである。

「えっと、虹彩認証で、音声による制御を使って……。」

 虹彩とは、目の色を決める部分で、そのパターンは指紋以上の個人特定に使われている。


 翌朝、それを掘り出した俺は、二人にそれを差し出した。

「メガネ?」

「私、目は悪くないわよ。」

「まあまあ、とりあえず掛けてから”登録”って声に出してよ。」

「と、登録って……、えっ、チカチカ光って、登録完了って文字が出た。」

「これで、自分以外は使えなくなったんだ。」

「どういう仕組みなのか知らないけど、多分常識の範疇ね。」

「メインの機能は、情報の表示で、目の焦点をあわせて”鑑定”っていえばその情報が表示されるんだ。」

「えっと、焦点をあわせて”鑑定”……、わっ、出た!ススム・ホリスギ、年齢16才で迷い人、本籍地は……。これって……。」

「どれどれ、”鑑定”。えっと、木製フォークで、材質はオーク。作成者はノートン・ゴウリキ。制昨年は……。まあ、情報源は分からないけど、理解できるツールだわ。年齢の詐称や鉱物の真贋にも効果的ね。」

「ちょっと待ってよ。年齢が出ちゃうって……女性の敵よね!」

「誰かさんの詐欺被害対策にもなるわね。」

「それから、本からの情報を検索することもできるんだ。例えば”検索”ファイヤーボール射出の魔法式。っていえばその情報が表示されるよ。」

「大丈夫。まだ常識の範囲内よ。周りにある情報だもの。」

「それから、探査にも使えるんだ”サーチ”って言って、そのあとに材料なんかの名前をいえば、矢印が表示されてどの方向にそれがあるか示してくれる。」

「すごーい。便利な機能ね!」

「”サーチ:トリコリの実”……確かに矢印が出たけど、この情報はどこから来てるのよ!」

「それからね、”オート”って指示すると、焦点を合わせた名称が表示されて、そのまま集中すると詳細情報が出るんだ。煩わしかったら”オフ”っていえば消えるから。」

「便利よ。確かに便利だけど……。」

「そうそう、オートにしておくと、知らない言語でも翻訳して表示してくれるんだ。」

「こっちの言葉は伝わるの?」

「その機能はないんだ。」

「なーんだ。」

「なーんだ……じゃないわよ。これだって、悪用されたら大変なことになるわよ。」

「うん。だから個人の識別は厳重にしたんだ。」

「これが、いくつあるのよ。」

「今回は少なくしておいた。残り97個だよ。」

「ま、まあ許容範囲だわね。これで、エリクサーも作れそうな気が……。ダメよ!そんなものが出来たら、病気だって根絶されちゃうし……。」

「悪いことじゃないよね。」

「くっ、確かにそうだけど……。」

「これで、カレーのスパイスを集めることも可能だぜ。」

「何よそれ。」

「俺の世界の料理だよ。何十種類ものスパイスを混ぜて作るんだ。」

「まさか、その料理のために……。」


 森を抜けて東に進むと大きな都市があった。

「町に寄らないの。ローラン王国って表示されているけど。」

「まあ、いつでも来られるからね。今日のところは先に目的地まで直行するよ。」

「了解。」

 やがて広い平原を抜けて、海に出た。

「あっ、島よ。でも、少し小さいか。」

 大き目の半島を超えて進んだ先に、本州らしい場所が見えてきた。

「この島だと思う。」

「島っていうより、国として通用しそうな大きさね。」

 悩んだ末に、神奈川のあたりを拠点にすることにした。何より土地勘があったからだ。

 富士山も存在しており、精神的に落ち着いた。

「あれ、綺麗な山だね。」

「ああ、富士山っていうんだ。」

「ススムはここを知っているのか?」

「知ってる……というか、俺の生まれ育った国と瓜二つだな。」

「厳密には、ススムの生まれ育った国じゃないってことね。」

「ああ。ここを新しい国にするんだから頑張らないとな。」

 とりあえず、小田原付近に着陸してシェルターを展開した。

 イライザの家と畑もバッグから出して馴染ませる。

「こんなことになるなら、家を買って持ってくればよかったね。」

「まあ、そんなものいくらでも作れるよ。」

「だって、大工さんとかいないよ。」

「いないなら作ればいいのさ。」

「ちょっと待った!いくらなんでも、大工さんは作れないわよ……ねぇ。」

「ああ、試したことはないけど、多分無理だと思うな。」

「じゃあ、どうするつもりなんだい?」

「まあ、明日のお楽しみってところだね。」

「それで、国の名前は決まっているの?」

「ああ、この国の名前は”ヤマト”にする。」


 ちなみに、ヤマトは日本と違って大きな島は本州と四国だけなのだ。

 九州と北海道に相当する島はなく、代わりに小さな島が無数にあった。

「ここって、先住民とかいないのかな?」

「それも含めて調査していかないとな。ダンジョンとか魔物の分布とかな。」

「植物や動物の分布も調べたいから、確かにこのメガネは重宝しそうね。」

「基礎整備が終わったら住民を増やしていきたいし、エルフのみんなも呼ばなくっちゃな。」


 食事をすませてイライザの家で眠り、翌朝考えていたものを掘り起こした。

 結構大き目の木箱だ。

 中から出てきたのは、プロレスラーのような頑強な肉体の男たちだ。

「何、それ?」

「ダイクさんだよ。厳密にいえば、人型汎用魔導具ゴーレムだな。」

「なんでそんなものを?」

「基礎的な整備をやってもらうんだ。チタン合金のボディーにシリコンの皮膚。破壊不能属性もあるし、魔法も使える。何よりゴーレム同士のネットワークで情報を共有できるし、新しい知識を増やしていく。それに自己判断も可能だから自律行動ができるんだ。」

「まさかとは思うが、それも魔法石で稼働する魔道具だと言い張るつもりか?」

「さっき確認したんだけど、魔道具の本にゴーレムの項が追加されてたな。材料さえあれば魔道具として誰でも作れる!」

「無理に決まっているだろう!」

「しかもだ。音声認識で発声機能もあるから、起動すれば誰でも指示できるぞ。今日はダイクさんが10人で、明日はノウカさん10人。仕事の種類毎に作っていくつもりなんだ。」

「もう、ここはススムの国なんだから、好きにすればいいさ。私は魔法の解析やら、魔道具の開発に専任するからな。ああ、わたし一人じゃどう考えても足りないぞ。」

「近いうちに人材を募集に行こうか。そうだ、人を運ぶための大きな乗り物も必要だな。」

 一瞬、大型の宇宙船や銀河鉄道みたいなものが浮かんだが、まだそこまでは必要ないだろう。せいぜい、ゴーレム運転手付きの箱舟ってところか。

 なんにしろ、先が楽しみである。


【あとがき】

 第一章はここまでですね。明日からは第二章「ヤマト」編になります。

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