第二章

第16話 ヤマト発進!

 ヤマトに着いてから一か月が経過した。

 翌日から活動を始めたゴーレムも、ダイクさん10名、メイドさん10名、ノウカさん10名、リョウシさん10名、ケイビさん50名と合計で90名を数えている。

 ゴーレムたちには感情も表情もなく、無機質なのだが、彼らが休みなく働いてくれるおかげで町は順調に育ってきた。

 サカワ川西岸には、結構広い田んぼと畑が広がり、新芽が元気に育っている。

 内陸部に移植した果樹園も順調で、数年で収穫が期待できそうだ。

 ダイクさんの作っている木造平屋建て家屋も10軒になり、そろそろ入居者を募集しようかと考えているところだ。


「やったわよ。移送の魔法が成功したわ。」

「じゃあ、ニワトリも連れて来られるのか?」

「ええ。鶏舎ごとこっちに送れるわよ。」

「すげえ。イライザって天才だよな。尊敬するって。」

「やめてよ。魔法書の通りにやっただけなんだから。」

「そんなことないわよ。私なんてあの本読んでも意味がわからないんだから。」

「ライラは勉強不足なだけよ。」

「来週の水曜日がブランドン王国に行く予定日だから、その時にこっちへ送ってやろう。」

 実は一週間前にブランドン王国に行き、それぞれの知り合いにヤマトへの移住を持ちかけていた。

 他にも希望者がいれば受け入れ可能とも伝えてある。

 俺はダイクさんに指示を出して、鶏舎の予定地を整地してもらった。


 本州と四国の外周は、3隻の警備艇が巡回しており、不審者というか侵入者に対して警戒を行っている。

 ゴーレム間の通信で、異常があればすぐにメイドさんが教えてくれるのだ。

 人用の通信機を導入することも考えたのだが、ゴーレムたちがいるので見送っている。

 リョウシさんは、陸上と海上に分散しており、海産物と肉は貯まっていくいく一方だった。というのも、ゴーレムには標準装備で共有のマジックバッグを持っており、例えばリョウシさんが格納した獲物を瞬時にメイドさんが取り出して肉に加工したりしているのだ。共有のマジックバッグは、富士山が収まる程度の容量にしてあるので、当分は大丈夫だろう。


「ススム様、リョウシさんが亜人と遭遇したようです。」

「へえ、やっぱり先住民がいたんだ。」

「種族はオニで、外見的な違いは額にある2本のツノだそうです。遭遇地はトウホク地方で、これから接触してみると連絡が入っています。」

「文化レベルとか楽しみだね。続報を待ってると伝えておいてね。」

「言葉は通じるのかしら?」

「ゴーレムには翻訳機能があるからね。大丈夫だと思うよ。」

「だ・か・ら、翻訳の元になる知識はどこから来ているのよ!ライラは変だと思わないの?」

「もう慣れたから大丈夫。」

「大丈夫じゃないでしょ。」

「そういえば、二人は10倍の身体強化には慣れた?」

「ええ。もう普通に動けるわよ。」

「ああ、この程度は問題ない。」

「じゃあ、そろそろ20倍に行ってみる?」

「今のままで十分だ。これ以上は必要ない。」

「私は、子育てを考えて20倍に挑戦しておこうかな。」

「おい、子育てになんで20倍の身体能力が必要なのか言ってみろ。」

「それは、子供を抱きながら料理したり、狩りをしたりするからじゃない。」

「料理はわかる。だが、なんで子供を抱いて狩りをする必要があるんだ?」

「そうだ。育児中はダンジョンを禁止するからな。」

「そうだね。ダンジョンは少し空気が淀んでいるから、子供によくないかもね。」

「そういうススムは何倍なの?」

「トレーニングは50倍だけど、普段の生活は40倍にしてる。」

「それって、どれくらいなの?」

「そうだね、40倍だと単純な力比べでドラゴンに押されるね。」

「ちょっと待って!」

「えっ?」

「ナニ、単純な力比べでドラゴンって!」

「一昨日出たんだよ、南の島に。警備隊から連絡があったからソロで戦ってみた。」

「マジでやったっていうの!」

「うん、最後は左フックで仕留めた。」

「……それで?」

「解体した肉は、一晩寝かせてあるから今日食べられるよ。」

「まー、それは楽しみ……なんていうわけないでしょ。いいこと、普通の人間はドラゴンに一騎打ちなんて挑んだりしないの!」

「だけど、いずれソードドラゴンと再戦するんだから、もっと戦闘力をあげておかないとダメでしょ。」

「うんうん。あんなにボロボロになったススムは、もう見たくないからね。」

「……ソードドラゴンとの再戦は決定事項じゃないだろ。それに、神みたいな存在だって言っただろう。」

「あー、うん。」

「そんなのに勝とうとするんじゃない!」

「多分、もう少しだと思うんだ。……70倍くらいに耐えられれば……。」

「もう少しじゃないだろ。全然足りてねえよ!」


 翌週の月曜から、エルフの移住が始まった。

 結局、残留希望はゼロだったため、すべての家屋と畑をゴーレムのバッグに収容して、200人単位で移動してもらう。

 こっちで収容した家屋などは、すぐに現地で取り出して据え付けしてくれる。

 エルフの居住地は日本の伊豆半島にしてある。温暖な気候と豊かな自然がエルフにぴったりだと思う。

 200人収容可能な箱舟は、3台用意してある。ヤマトまで5千キロくらいなので一日で2往復可能となる。

「明日の午前中には移住完了だな。」

「明後日は城と王都の移住希望者ね。少しはいるかな……。」

「まあ、いなくても問題ないさ。」

「いいの?」

「この国が変わってくれるならそれでもいいんだ。人が安心して暮らせる国になってくれるならね。」

「それって……。」

「貴族制度を廃止しなくても、平等な治世はできるはずだからね。」

「あまり想像できないがな。」

「城の職員でも、国というか国民のために働いている貴族もいただろ。」

「宰相のガラエ様とかね。」

「ああ、宰相に関しては悪い話は聞いたことがなかったわね。」

「方法の一つなんだけど、国王が直接的な国政から手をひいて、政治は国民の代表に任せればいい。」

「そんな方法があるのか。」

「ああ。俺の国がそうだったんだ。国民は国王の宝。その宝を国王から預かって幸せにするのが政治家の役目なんだよ。」

「今の国王もその息子たちも、そんな考えはなさそうだがな。」

「今の国王が倒れたら、次の国王は誰になるんだい?」

「第一王子は他界されてしまったので、継承権2位のガラエ宰相になるわね。王位につけるのは25才からって決まっているから、ジェームズ王子がその年齢に達するまでだけどね。」

「じゃあ、国王が暗殺でもされればいいんじゃないの?」

「物騒なこというなよ。」

「城にドラゴンとかを呼び寄せる魔法とかあったらなぁ……。」

「たしかあったよ。”検索”魔物寄せの魔法……、ほら魔物の指定も可能になってる。」

「やったあ!」

「おいおい、お前たち姉妹は何を考えているんだ。一般人まで巻き込むつもりか。」

「一般人には先に逃げてもらうとか……。」

「そういう貴族たちは、真っ先に逃げるだろ。」

「そうか、逃げ出した先に重力魔法でブラックホールを仕掛ければ大丈夫だね。」

「そんな余計な手間をかけるなら、最初から楽に死なせてやれよ。」

「手は汚したくないし……、そうだ、ランダムな転移で、どこかに飛ばしてしまえばいい。運がよければ生き残れるだろう。」

「やるなよ……。」

「それって、フリだよね。やるな、やるな、って。」

「ちがーう!」



【あとがき】

 日本の天皇が選択したシラス統治。大陸の独裁政治を悪しき手本として考えられた方法です。

 自分は権力を持たずに、治世を国民の代表に委ねるというのはとても優れた方法だと思います。現在の政党政治がいいとは思いませんけどね。

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