第26話 モグラさん

 俺は鬼人族の里から歩いて60分のところにある裏山に、人工ダンジョンを作ることにした。

 もちろん、長老にも許可を得ているし、キックボードを使って飛んでいけば10分程度に短縮できる。

 そこに最新鋭の土木作業員さん(通称モグラさん)を投入して掘っていくのだが、世界中から取り寄せたスコップやツルハシでは、強度が足りなかった。

 そこで、俺の必殺技を使ったのだ。つまり、必要なものを掘り出す!

 普通なら、強度をもった土木工具をそのまま掘り出すだろうが、俺は考えた。

 せっかく取り寄せた道具を無駄にすることはできない。

 それならば。強化できる道具を掘り出せばいい。


「くくくっ、ついにできたぜ”錬金ハンマー”。これで鍛えた道具は、最高水準の強度と粘度を備え、叩き出した切っ先は全ての物質を貫くのだ。」


 柄の長さは30cmほどで、叩く部分は普通のトンカチよりも一回り大きいものの、そこまで変わり映えはしない黒光りした普通のハンマーだ。

 その錬金ハンマー50丁入りの木箱を掘り出した俺は、それをモグラさんに配布して、工具を鍛えたうえで作業にあたるように指示を出した。

 次に掘り出したのは、”表面強化ライト”。この光を浴びた素材は、強度がコンクリートの一万倍になり、耐腐食性・防水性に富んだ仕上がりになる。

 このライトは300個入りのため、ダイクさんにも配布して、建築物にも応用してもらった。

 うん。街づくりは順調に進んでいるな。


 邪気噴出装置も準備できていたため、完成したフロアに設置して試験運用したところ、丸二日でオークが発生した。

 発生したオークは、モグラさんが簡単に退治してくれる。

 シュン!音もなく切り飛ばされたオークの頭を見ながら、俺はシャベルの切れ味に驚いていた。

 これって、もしかして……鍛冶に使える?

 そういえば、剣と魔法ベースの異世界に来ていながら、武器屋とかに入ったこともないのだ。


「ねえ、ブランドンの王都へ連れて行ってくれるかな。」

「承知いたしました。」


 メイドさんと転移した先には、ブランドン王都に配属されたアンズちゃんの部屋だった。

 質素な紺ベースのワンピースを着ている。ポニテの白いリボンが似合っていた。


「可愛いね。」

「まあ……。」


 ぽっと頬を赤らめる……。そんな機能、いつのまについたんだ……。


「武器屋と防具屋に案内してほしいんだけど。」

「かしこまりました。」


 鑑定メガネを使って店内の武器を確認していく。

 ほとんどの武器がDクラスで、時々Cクラスの剣などもあった。


「あんまり良い武器はないんだな。」

「そ、そんな事はございません。こちらの片手剣はかの刀工ベルサージによるもので……。」

「贋作だね。装飾の手はこっているけど、作者はクリリンって人じゃないか。」

「そんな馬鹿な!」

「切れ味はD、強度もD、まあ銅貨8枚ってところだね。」

「いえいえ、こちらは金貨3枚の逸品でございますよ。冗談を……。」


「おっ、これはいいかな。ミランって有名な人?」

「そりゃあ、刀工ミランといえば、かの神剣ビューデの作者で……。えっ、このレイピアがミランの……。」

「うん。本物だよ。切れ味はAで強度もB。軽量で申し分ないね。手入れが悪いから総合評価はBクラスだけど、腕のいい砥ぎ師に任せればAまでいけるかな。」

「し、失礼ですがあなた様は……。」

「通りすがりの冷やかしだよ。じゃあ、そのレイピアとこっちの片手剣をもらおうか。」

「も、申し訳ございません。このレイピアはきちんと仕上げてからの販売となります!」

「ええっ!銀貨8枚ならお買い得だと思ったんだけど。」

「ミランの作品となれば、金貨10枚からとなりますから。」

「ちぇ、言わなければよかったよ。」

「ご指導ありがとうございます。こちらの片手剣は銅貨2枚で結構ですから。」


 他にも2件の武器屋と防具屋を回ったが、それほど目ぼしいものはなかった。


「そういえばあいつ、ジェームズ王子はどうしてるかな?」

「ジェームズ王子は、西の国のテムズという町で冒険者をしているそうです。」

「へえ、じゃあ、そこの町へ行ってみたいな。」

「承知いたしました。」


 テムズの町の武器屋で、掘り出し物を見つけた。これもレイピアで切れ味Cの強度Bのものが銅貨2枚だった。それに加えて、Bクラスの片手剣があった。

 同じ刀工によるCクラスの片手剣が金貨20枚で売られている。


「これを作ったライカって刀工は有名な人なの?」

「当然だろ、ライカはこの国では伝説の刀工なんだ。」

「へえ、こっちの片手剣も似た感じだけど、模造品?」

「そうだな。本物のライカなら、柄のところにそれとわかるマークを入れているからね。」

「へえ、俺には違いが分からないから、こっちでいいや。」


 この国の通貨は、当然アンズが確保している。

 俺は自宅に帰って、買ってきたレイピアと片手剣を鍛えた。

 叩くと共に、ダマスカス鋼のような波紋が浮かんでくる。

 仕上げに柄の部分にSを刻んだ。ススムのSだ。

 鑑定してみると、どちらもSSクラスで、切れ味などの項目もSSになっている。

 鞘を含めてメイドさんにきれいにしてもらい、表面強化ライトで仕上げると、見るからに聖剣のような輝きを放っている。


「ジェームズ王子は?」

「ダンジョンから戻ってお食事の最中です。」


 俺が姿を見せると、ジェームズ王子は飛び上がって驚いた。


「俺は、何もしてねえぞ……。」

「ああ、分かっている。俺としても王子に恨みとかはないからな。」

「じゃあ、なにしに来た。」

「これをやろうと思ってな。」


 俺はマジックバッグから2本の剣を取り出した。


「俺が鍛えなおしたレイピアと片手剣だ。好きなほうをやる。」

「な、何で?」

「言っただろ。お前に特別な感情はないんだ。だが、結果的に巻き込んじまったからな。」

「本当にいいのか?」


 そういって王子は二本の剣を振って感触を確かめた。


「すげえ剣だな。城の宝物庫にもこれほどの剣はなかった。」

「まあ、聖剣クラスだからな。」

「柄のマークは?」

「俺のイニシャルだよ。」


 王子は片手剣を選択した。

 俺は、ケブラー繊維で編んだスーツも取り出して渡した。


「耐靭性に優れていて、物理と魔法のシールドを転貸してくれる。それに身体強化もついているから、狩りに使えるはずだ。これに、ベルトをして剣をさげ、革の胸当てでもつければ十分だろう。」

「ああ、ありがたい。これならじきにシェリーを迎えにいけそうだ。」

「シェリーも来ているのか?」

「ああ。親父や母親とは折り合いが悪くてな。俺を頼ってきたから、今は知り合いの貴族に預かってもらっている。」

「シェリーの面倒を見るのなら、もっと稼がないとな。」

「ああ。まだDランクだけどな。」

「じゃあ、シェリーの分も奮発するか。ほら、これもやる。」

「なんだ?」

「ウエストポーチ型のマジックバッグといってな、信じられないだろうがこの中にオークなら10体収納できるんだ。」


 俺はマジックバッグの使い方を説明してやった。

 予備の武器として、レイピアもおまけだ。


「これだけあれば、金貨5万枚くらいの価値はあるだろう。」

「いや、3万ってところだな。」

「やっぱり、お前は世の中の価値観が分かってねえよ。ああ、これを忘れてた。」

「なんだ、それ……これは!」


 そう、以前王子が欲しがったキックボードだ。


「こいつはアリスからだよ。アリスの作ったものだから保証はできないが。」

「アリスがなんで?」

「アリスは、今、俺のところにいる。」

「結婚したのか!」

「俺の嫁は見たことあるだろ!」

「国の代表なら、嫁の二人や三人は……、なんなら、シェリーも。」

「要らねえよ!で、だ。ジェームズが心を入れ替えて頑張っているなら、差し入れてほしいって渡された。」

「心を入れ替えるってなんだよ!」

「まあ、がんばれ。」



【あとがき】

 心を入れ替えた?ジェームズ王子。王女の安否もわかって一安心ですね。

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