第18話 亀甲縛りってナニ?

「ふはははは!貴様が戻ってくると情報が入ったので、こうして備えておったのだ。この包囲からは逃れられんぞ。」


 メイドさんが横にやってきた。


「ススム様、ご命令があれば殲滅いたしますが。」

「いや、手を出さなくていいよ。少しおかしいみたいだから、様子をみようか。」

「はい。」


その時、第二小隊長が声をあげた。


「第一小隊長、私のところにはこのような指示は来ておりませんが・」

「緊急事態だというから応じたが、第三小隊にも指示はなかった。」

「ふん。総隊長が不在なのだから、私が代行するのは当然だろう。」

「いや、総隊長は自宅から指示を出されているので不在ではありません。」

「正規の命令でないのなら、第二小隊は訓練に戻らせてもらいます。全員訓練に戻れ!」

「「「了解しました。」」」

「第三小隊も同様だ。全員戻れ!」

「ふん、腰抜けどもの手など借りんわ。この日のために、筋力増強剤と身体強化で鍛えてきたんだ。貴様なんぞ俺一人で十分だ。」

「相手をしてやってもいいんだが、この国を出て俺は国を興した。」

「それがどうした。」

「外交問題だと言っているんだ。俺はヤマト国の代表。お前は単なる軍部の小隊長。もう、立場が違うんだ。身の程をわきまえろ。」

「ふざけるな、この反逆者が。貴様の国なんぞ、我が第一小隊が蹴散らしてくれるわ!」

「お前、衆目のある場所で、今宣戦布告したんだぞ。それが、どういうことか分かっているんだろうな。」

「うっ……。」

「王子、惑わされないでください。こいつさえ抑えてしまえばヤマト国なんぞ我々で滅ぼしてやりましょう!」


 血の気の多そうな金髪脳筋が声をあげる。第一小隊にいる以上、どこかの貴族のドラ息子なのだろう。

 その声を受けて、王子の目に力が戻った。


「全員で奴を囲み、捕縛しろ!」

「メイドさん、重力2くらいでお願い。」

「承知いたしました。」


 その言葉と同時に、国務局のフロアに展開してこちらに向かっていた兵士たちの動きが鈍くなる。


「な、なんだこれは……。」


 中途半端な姿勢であったモノは倒れこみ、そうでないモノは足を踏ん張って耐えている。


「重力3……いや、4にしよう。」

「かしこまりました。」


 ガチャガチャと音を立てて、立っていたモノが倒れていく。ジェームズは四つん這いでプルプルと震えている。


「どうしたのかなポンコツ王子様。」

「き、貴様!何をした……。」

「体重を少し増やしただけだよ。」

「貴様はなぜ動ける……。」

「お前と違って鍛えてるからね。メイドさん、こいつ縛り上げてよ。」

「はい。」


 マジックバッグから麻ひもを取り出したメイドさんはジェームズ王子を縛っていく。


「ぎゃあ!いてえ!」


 うん、亀甲縛りとかいうやつだね。どこからその技を……。


「こいつらはどうするかな。そういえば、うちの国を滅ぼすとか言ってた奴がいたよな。」

「ススム様、この男です。」

「こいつも縛ってください。自分の発言に責任をとってもらいましょう。何しろ、勝手に宣戦布告したバカ王子と、それを煽った貴族のバカ息子。うちからの要求は死罪ですね。」

「ふざけるな!俺は次期国王だぞ。そんな要求が通ると思っているのか!」


 一方のバカ息子は顔面蒼白になっている。


「現時点での継承権一位はガラエ宰相だよね。バカ王子がいなくなっても大丈夫だよ。」

「親父がそんなことを許すはずはない。」

「まあ、国としても問題があるから、国王の退任も要求するかな。」

「バカな……。」

「お前のとった行動は、それだけ影響の大きなことだったって自覚するんだな。もう手遅れだと思うけど。」

「うぐぐぐ……。」

「あっ、メイドさん、この二人を持ってついてきてよ。」

「ここの兵士たちはどういたしますか?」

「そうだな。分隊長、訓練地に戻って指示を待て。わかったか?」

 了解したと3人くらいの声が聞こえた。

「じゃあ、重力は解除していいよ。」


「国務大臣、会議室に国王と宰相以下全大臣を集めてください。」

「そんな、……急に無理だ……。」

「これはお願いとかじゃないんですよ。ヤマト国代表としての要求なんですよ。無視するつもりなら、このまま二人をヤマト国に連行して処罰します。」


 30分待たされて、文官が迎えに来た。

 二人はメイドさんが持ってついてくる。ちょっと同情したくなるような荷物扱いだった。

 案内された会議室に入っていくと、国王と宰相。そして4人の大臣が着座していた。


「ヤマト国代表のススム・ホリスギと申します。急なお呼びたてをしてしまい申し訳ございません。」

「ススムよ。話は聞いたが、許してくれぬか。王子はまだ若く、正常な判断ができておらぬのじゃ。」

「……はあ?」

「どうじゃ。王子を煽ったというその男は好きにしてもらって構わん。」


「非公式の訪問とはいえ、一国の代表だと名乗っているのに私を呼び捨てにする姿勢はいかがなものかと思いますが。」

「ぐっ、しかし……。お前は……。」

「一国の小隊を預かる隊長職から宣戦布告を受け、あまつさえ、我が国を滅ぼすと宣言した兵士がおります。これをどのように判断されるつもりかと聞いています。」

「それは、隊長職とはいえ失礼なことを申し上げた。王として詫びよう。すまぬ。」

「別に宣戦布告は失礼なことではありませんよ。正式にお受けしようではありませんか。」

「いや、それは撤回させてもらいたい。」

「そう簡単に撤回などお受けできませんよ。」

「どうしろというのだ。」

「こちらの要望としては、責任の明確化ですね。王子の非を認めるなら、最高責任者である国王の退位と当事者の処刑を希望いたします。」


「そんなふざけた要求が通ると思っているのか!」

 ふいに同席していた大臣が声を張り上げた。


「おやおや、国の代表同士が話しているというのに、発言の許可も求めず割り込んでくるとは、あまりに非常識な行動ですね。」

「ふん、他国に乗り込んできて、そのような横暴が通るとでも思っているのか!衛兵、そいつをとらえろ!」

「ああ、仕方ない。力の差というのをご理解いただきましょう。

 この大地には、物を引っ張る力があります。だから、物には重さがあり、常に大地の方向へ引っ張られているわけです。」

「なんのことだ?」

「例えば、その引っ張る力を2倍にする。」


 俺の言葉に合わせてメイドさんが重力魔法を発動する。


「な、なんだ……体が……。」

「全身鎧を着た兵士は、それまで25キロだった鎧が、急に50キロになって動きが鈍くなります。」

「どうなっているんだ!」

「それが3倍になったらどうなるでしょうか?」


「うわっ……う、動けない……。」

「鍛えている兵士でも立っていられなくなり、4倍になれば動くこともできなくなります。」

「く、苦しい……やめろ……。」

「やめろ?ですか、状況判断ができていないようですね。では、これを10倍にしてみましょうか……。」

「や、やめて……ください……。」

「ほとんどの人は潰れて死ぬと思うんですよね。やったことがないですけど。試してみましょうか?」

「ひっ、ひぃ……。」


 パチンと指を鳴らして合図し、重力を元に戻す。


「今、土木・建築大臣のとった行動は看過できませんね。ヤマト国代表として、爵位の剥奪と資産没収のうえ、国外追放を希望します。」

「そ、そんな馬鹿な……。」

「今の、重さ……重力というんですが、これを操作できれば、空を飛ぶこともできます。」

「おお。」

「ヤマト国ではこれを自在に制御し、活用が始まっています。ブランドン王国とわが国では、それだけ技術力と知識の開きがあるんですよ。」

「ぐっ……。」

「もし、戦争になれば、我が国は空から飛来し、兵士全員を押しつぶして、城を圧壊させることが可能です。」

「……。」

「ここに転がっている二人は、我が国に戦争を仕掛けると宣言し、私がそれを受ければ今申し上げたことが現実となります。」


「は、発言をお許しいただけないでしょうか。」

「ガ、ガラエ……。」

「宰相殿の発言ですか、私はかまいません。どうぞ。」

「ありがとうございます。宰相のガラエ・ブランドンにございます。今回の、そこの二人と土木・建築大臣の軽率な行動についてお詫び申し上げます。ホリスギ代表のお怒りはごもっともだと思います。」

「先をどうぞ。」


「ご指摘の、責任の所在と対象者の処罰につきましては、国政に大きな影響をもたらすものですので、この場での即決はなにとぞご容赦いただきたくお願いいたします。」

「尤なご意見ですね。」

「できましたら、しかるべく猶予をいただき、国としての結論を出させていただきたくお願いいたします。」

「いいですよ承知いたしました。一週間後の水曜日にまたお邪魔しましょう。」

「ありがとうございます。それから、先ほど打診させていただいた留学生の件ですが……。」

「今回の問題とは別ですので、そちらは計画通り進めましょう。ニワトリについても、全数引き上げではなく、半分は残すこともお約束しましょう。」


 事前に調整していたわけではないが、この場に留学の話を出したことで両国間の合意と主張することができる。

 10名の留学など、宰相の権限で実行しても問題ないレベルなので、事前調整がなくとも問題にはならないだろうが。


【あとがき】

 ジェームズ王子、大ピンチ!

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