第31話 パーティーにメイドさんは有能だった

 ブランドン国王の戴冠式は13時から行われ、18時からは披露パーティーだ。

 このパーティーには、メイドさん30人も応援で対応している。

 マジックバッグを使えば、料理出しも皿の回収も移動しないで一瞬だ。


「ススム、メイドさんをこういうパーティーで使うのは反則だろう。」

「ああ、こんなスムーズに進行するパーティーは初めてだよ。」

「それよりもハル、トイレを見たか?」

「いいや、まだだけど。」

「感動するぞ、ピューっと暖かい水が出てくるんだ。」

「いや、それは出てくるんじゃなくて自分で出しているんだろ。」

「違うって、お尻の穴を洗ってくれるんだ。」

「何だそれ、気持ち悪そうだな。」

「まあ、ハルも使えば分かるさ。ススム、あれもヤマト産だよな。」

「ふふふ、ご婦人には大好評だよ。」

「そうだろうな。クリーンだけだと本当にきれいになってるか不安だもんな。」


「なあ、この太いカニの足みたいなのは何だ?」

「ああ、うちのアリエルさんが獲ってきたヨコヅナクラブっていうカニの足だよ。」

「これだけで長さ1mあるよな……。」

「鍋に入らないから、半分に切ってある。」

「そうすると、足を横に広げると10mくらいにならないか?」

「うん、こいつは12mあったな。俺も驚いたよ。」

「お前、反応薄くないか?」

「もっとでかいのがマジックバッグに入ってるからな。」

「……で、こっちのエビの尻尾に見える赤いのは?

「タイガーシュリンプっていうエビの尻尾だよ。」

「なあ、ヤマトではエビの尻尾を輪切りにしてステーキにするのが流行ってるのか?」

「俺も初めて喰ったが美味いな。」

「うん、味に関しては文句ないぞ。」

「尻尾だけで1.5mか……。」

「一番でかいやつの全身を見たら驚くぞ。」

「タイガーって名前は、見た目からなのか?」

「ああ。爪の形が虎に見えるんだ。」

「大きさは?」

「虎に見えるくらいだよ。」

「アリエルさんってメイドさんに近いのか?」

「ああ、基本は同じだ。」

「なるほどな。」


 ちなみに、水の中では魔法の効果が薄いため、空間制御と重力魔法を組み合わせた圧縮の魔法を開発した。

 まあ、考えたのはマツリなのだが。

 この圧縮をレベル5で鉄鎧に発動すると、直径10cmほどの鉄球になった。

 水圧と違うのは、圧力の方向を調整できることで、内部に空間のない鉄鎧を深海に沈めてもほとんど変化はおきない。


「そういえば、最近わが国で人魚の目撃情報がいくつか出ているんだが、アリエルさんじゃないよな。」

「黒のブラに栗色の髪だったら、アリエルさんかもしれん。すまん。」

「目撃情報と一致するな。」

「あまり遠方にいかないよう注意しておく。」

「いや、命を助けられたって報告もあるから、適度でいいぞ。」

「助かる。」


 確かに、アリエルさんから色々と報告を受けている。

 難破した船を引っ張って港へ戻してあげたとか、遭難した人を助けたとかだ。

 ただ、それらとは別に、教えない方がよさそうな情報もある。

 30m超えのシードラゴンとか、50m級のシーサーペントなどだ。

 噂のうちはいいが、実在するとわかったら怖くて海に出られなくなってしまう。


 アリエルさんは、日々研鑽を積んでいる。

 体を回転させながら泳ぐと10%程度速度があがるとか、手から水を噴射して進むと、時速80km程度で移動可能とかである。

 まあ、それなら水中では最速だろうと思っていたのだが、マグロのような体をした魚に負けたと悔しそうな連絡がきた。

 引き続き最速を目指して頑張ると言ってきたが、君の頑張るところはそこじゃない。



「ああ、こっちだ。」

「遅くなってすみません。」

「えっと紹介するね。この間友人になったアルト王国の二人で、こっちが国王のアルフレッド。」

「アルフレッドです。よろしく。」

「こっちが近衛兵団副団長のラインハルト。」

「ハルと呼んでください。」


「それでこっちが……。」

「ああ、聞いていたとおりだ。イライザ嬢だね。」

「イライザです。お願いいたしますわ。それで、どんな風に聞いてらしたのかしら。ススムのことだから、220才のババアエルフとか言ってるんでしょ。」

「いや、思ってても言わないよ。」

「ええ、聡明なお方で、ヤマトにとってかけがえのない方だと聞いています。」

「まあ、ラインハルト様ったら、お上手ですわ。」

「まあいいや、でこっちが本日の主役。ブランドン王国第4王女のアリスだ。」

「アリス・ブランドンでございます。本日は遠くからご列席いただき、ありがとうございます。…………アルフレッド殿下、いかがなされました?」

「いや、ススムから聞いていたイメージと違い、あまりのお美しさに驚いております。」

「まあ。どうせススムさんは、目つきの悪い悪役令嬢とか言ってらしたのでしょう。」

「まあ、確かにススムはそのように言っておりましたが。」

「アル!」


「わたくし、ヤマトにまいりましてから毎日笑っておりましたら、いつの間にか目尻が下がってしまい……、これでは、悪役令嬢を名乗れなくなってしまいましたわ。」

「いや、すすんで悪役令嬢になる必要はないでしょう。今のアリス殿は……その、とても素敵だ。」

「あらっ、うふふ、何がお望みなのかしら?」

「そうですね、率直に申し上げて、留学が終わったらアルトに来ませんか。」

「「おい!」」


「いや、初めてお会いした女性と、こんな気さくに話せるとは、自分でも驚いています。」

「アル、お前……。」

「私の知る貴族の令嬢は、どれも気位が高く話す気になれませんでした。でもあなたは違う。それに、政治的な考え方も優れていると聞いています。先のことは分かりませんが、もっとお話しする機会をいただけないでしょうか。」

「え、ええ。私のようなもので良いのでしたら喜んで。」

「あっ、ありがとうございます。」



「それで、なんでこうなった?」

「いえ、最初は冗談だったんですよ。」

「冗談?」

「アルトとヤマトとブランドン。三国間の友好関係を深めるにはどうしたら良いかって。」

「うむ。必要なことだな。この三国間の絆が深まれば世界にもよい影響をあたえるだろうな。」

「アルフレッドもラインハルトも独身だったので、それなら年齢的にちょうどいい王女が、ブランドンからうちに留学中だといったら、それはいいと盛り上がったんですよね。」

「まあ、確かに丁度よい年齢ではあるな、お互いに。」

「それで、引き合わせたら、二人で意気投合しちゃいまして……。」

「それで、いきなり婚約の申し入れかよ。」

「いや、俺も驚いているんですよ。アリスがまさか申し入れを受けるとは思いませんでしたから。」

「いや、一番驚いているのは私の方だよ。確かにこれ以上ない嫁ぎ先なのだが、あれだけ結婚を嫌がっていたアリスがなぁ。」


 そうなのだ。パーティーの後半で、二人で話し込んでいると思ったら、アルがいきなりブランドン国王に”お嬢さんをください”とやったわけだ。

 当然、横にはアリスがいた。

 二人は、アルト側の準備が出来次第結婚し、アリスはそれまでに転移魔法を覚えて毎日通うと言っている。

 まあ、メイドさんを一人、アルトに常駐させれば済むのだが。

 そして、それだけではなかった。ハルとイライザもいい雰囲気になっているのだ。ハル、相手は220才なんだぞ!


 パーティー会場で、俺はナイルの国王に挨拶された。

 そういえば、ナイルはあれっきりだった。

 奥さんと子供二人のケガの治療について礼をいわれ、俺から近いうちに遊びにいく旨を伝えた。

 ネタリとダリは元気だろうか。



【あとがき】

 一気にアルトとの関係ができてしまいました。イギリスとスペインはどうしようかな。

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