第13話 メロンとエルフ

 切り分けたメロンを皿に盛ってそれぞれの前に置く。

「どうぞ、お試しください。」

 みんな木のフォークを手にしたまま固まっている。

「どうしたんですか?」

「いや、もったいなくて手をつけられないのだよ。」

「私はぁ、香りを楽しんでいますの。」

「そうだね。こうしていれば、体に香りが浸み込んでいきそう。」

「いや、私は観察しているのだ。」

「まあ、納得がいくまでお楽しみください。」

「よし、食べるぞ!」

 そう宣言して、ナックさんがパクっと口に入れた。

 目を閉じてモグモグと咀嚼している。

「どう?」

 ナックさんは目を閉じたまま租借をやめてじっとしている。

「父さん?」

「……。」

「ナックゥ?」

「……。んんっ、んんん。」

「どうかしましたか?」

「父さん!」

「ナック!」

「うるさい!口を開けたら香りが逃げるだろう!」

「なにそれ。」

「あはははぁ。」

「口全体に広がる味もそうなんだが、口の中に満ちた香りが鼻に抜けていくんだよ。それが心地いいし、下手に口を開けて香りを逃がしたくない。だから、話しかけるんじゃない。」

「大げさじゃない。」

「たかがフルーツだよ。」

 だが、みんなが食べだして無言になる。

「カニを食べるとみんな無口になるっていうけど、メロンもそうなのか……。」

「うるさい。お前がこんなものを持ってくるからだろ。」

「ススム、やっぱりお前の奴隷になってやるから、毎日メロンを食べさせておくれ。」

「ナック、私、お嫁にいくことにしますぅ。」

「俺としては、この里でメロンを育ててほしいんです。メロンは栽培が難しいらしいんですよ。実をつけるだけなら簡単みたいなんですけど。」

「ああ、なんとなく理解できるな。余計な芽を摘んで甘く・大きく育てるのが大変なんだろう。」

 その時だった。入口の戸が開かれて、大勢のエルフがなだれ込んできた。

「その話、乗った!」 「「「オーッ!」」」

「お前ら、何を急に……、長老まで……。」

「香りに敏感な女や子どもが騒ぎ出したんじゃよ。」

「ああ、うちもだ。いい香りが漂っているとな。」

「里の希望者を募って、取り組んでやろうじゃないか。種はあるんじゃろ。」

「ええ。全部で27玉持ってきましたから、十分だと思います。今から全部切りますから、少しですが味わってみてください。」

「やったー!」 「うおー!」などの歓声があがった。

 俺たちは手分けして、バッグから取り出したメロンを切り分けて振舞っていった。


 その夜、俺は長老と小集団の長である班長を招いてワインを振舞った。

 つまみに、チーズやソーセージ。各種料理も仕込んである。

 そして、手土産として”何でも切れる折り畳みナイフ”を手渡した。

「何で、こんなナイフで石が切れるんだよ……。」

「おかしいだろ、力をいれてないんだぞ。」

「やめろー!うちの柱を切ろうとするんじゃない!」

 そんな喧噪のなかで、俺は話を始めた。

「今、王都や町では貴族の横暴が目立ってきており、国民の不満・鬱憤が溜まってきています。」

「まあ、人というのは昔からそういう種族じゃったよ。」

「否定はしません。いずれ内乱が起きるだろうと私も思っています。」

「争いをおさめようとはしないのかね?」

「内乱を抑えることは可能だと思いますが、貴族階級をなくさない限り根本的な解決にはなりません。」

「それは無理じゃロウな。」

「先日、私は古くから生きるドラゴンより託宣を受けました。」

「ほう、古きドラゴンからかよ。」

「ソードドラゴン、もしくはシルバードラゴンと呼ばれる存在です。」

 シルバードラゴンと聞いて、少しざわついた。

「彼がいうには、この大陸の東の端に少し大きな島があり、まだ誰の統治も受けていないのでそこに町を作れと。」

「東の端か……」 「陽が昇ってくる方角だな」

「そこで安定した暮らしをおくれと言われました。そこに基盤を作ったら、皆さんをお迎えしたいと考えているのですが、如何でしょうか?」

「ふむ。それは、ここと同じように、自然と共存できる環境なのかね。」

「そこは、細長い島国で、どこからでも山と海が近いのでこことは少し違いますが、自然に囲まれた場所になります。」

「貴族はいないのかね。」

「はい。貴族制などありませんし、国政は小集団の代表者による合議制にするつもりです。皆さんの家や畑も、そのまま運ぶつもりです。」

「まあ、準備ができた時に、もう一度声をかければいいじゃろう。ワシはいくつもりだが、希望者は移ればいいじゃろう。」

「おーい、長老が行っちまったら、ここはどうなるんだよ。」

「ふん、残ったモノが考えれば良いだけじゃな。」


 今夜は、ライラの実家に泊まることになった。

 俺の左側にはライラが終えており、……右側にイライザが寝ている。

 おい、エルフの貞操観念はどうなっているんだ。この部屋を用意したのは母親のメグなんだぞ。

 

 翌朝、俺は朝の散歩のついでにあるモノを掘り出した。


「じゃあ、メロンのことお願いします。」

「おうよ、任せておけ。」

 メグにもマジックバッグを渡して、使い方を説明してあるし、いくつかのアイテムも説明して入れてある。

 キックボードも渡したため、ナックさんは絶賛練習中である。まあ、シールドのアイテムも装備しているため、落ちても大丈夫だろう。

 俺たちは、昼過ぎに王都に到着した。

「それで、なんで私のお店が二人の拠点みたいになってるの?」

「うん。みんな一緒にいたほうが安心だからね。」

「せっかく普通に歩けるようになったんだから、私だってもっと自由に薬草取りとかしたいんだけど!」

「どうぞ。」

「いってらっしゃい。」

「だから、ここは私の家なんだってば!」


「あっ、そうだコレ。」

 俺はマジックバッグから大量の本を取り出した。

「何よこれは?」

「何でしょう?」

「魔法……大全?」

「これは、魔道具作成、初級から奥義まで大全集って……。」

「何よ!こんな本、存在する筈……ないでしょ!」

「いやあ、ここにあるってことは、誰かが書いてくれたんだよ、きっと。」

「無理に決まってるでしょ!なんで、重力魔法の制御とか解明されてるわけ!」

「こっちには、飛行車両の魔法式と、各パラメータの調整方法とか書いてあるわよ……。あっ、ドラゴンも瞬殺可能なランチャーの作り方と魔法式だってさ。」

「この”薬草と回復薬新書”には、究極ポーションとエリクサーの調合とか出てるし……人体修復シートの作り方って……。」

「この本一式があれば、無敵の国家が作れそうだね。」

「だ・か・ら、そんな本が存在する筈なーい!」

「お姉ちゃん。実際にあるんだから受け入れようよ。」

「3セットあるから、それぞれマジックバッグに入れておいてくれ。」

「こ、こんなものが流出したら、世界が滅ぶわよ……。」

「大丈夫だよ。高純度の魔法石がなければ強力な魔道具も作れないし……多分。」

「あっ、高純度魔法石の錬成方法だってさ。あっ、この本は”錬金極意書”だって。」

「こっちには、魔法石の魔力を増幅させる方法と組み合わせが書いてある。」

「じゃあ、この本を読み解いて活用できる人材を探さないとね。」

「なあススム、そんな奴が現れたら、魔王とか自称するんじゃないかな?」

「そ、そんなことはない……と思うけど?」

「あっ、お姉ちゃん、その魔王になっちゃったらいいかも。」


 とりあえず、魔王のことは忘れて、俺とライラは城に向かった。

「ここからだとちょっと時間がかかるから、キックボードを使っていこうか。」

「うん。お姉ちゃんはどうする?」

「はあ、私は究極ポーションとエリクサーの調合ができないか調べてみるわ。」

 イライザは研究者に向いているようだ。



【あとがき】

 さて、下準備ができたので、そろそろ王国脱出編でしょうか。

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