016:名前


「豊穣の神の加護?」

「うん。嫌な予感しかしなかったから隠してた」


 ……原因それじゃない?

 いや、それでも捨てることは許されない行為だ。仮に能力とかのない能無しだからと言って捨てる、と言うことも同じことだ。この子がどういうパターンで捨てられたかは分からないけど……。


<隠していたというのは結果的にはなりますが、正解と思われます>

「そうなの?」

<はい。この世界において神の加護と言うのは希少なものとされています。そして神と付くスキルや加護と言ったものは非常に強力なものばかりです。神の加護が付いていることがバレれば、即神殿行きか王族との婚姻を結ぶこととなります。神殿の方は一応個人の意思を尊重されますが王族についてはほぼ断れないですね。ほぼ自由はなくなります>

「あーね」


 よくあるやつだ。

 強い力を自分の血に取り込みたいという欲望。神殿の方はまだ余地がありそうだけど、王族については断れないというところが本当にあほくさい。

 ……力があれば断って国外にでも逃げ出せるだろうけどね。わたし? いや普通にばれないようにするし。仮にバレて見つかったとしても断固拒否だね。もし敵対するのであれば……この国、滅ぼしちゃおうか。


 とまあそれは冗談だけど。因みにスール曰く、わたしが全力出すとこの世界にある国、全てを数分で滅ぼせるらしい。ゑ?


<暗黒魔法の中にある”ワールド・オブ・アビス”を全力全開で使用した場合、数分でこの世界は闇に飲まれます>

<また神聖魔法にある先述の魔法と対になるもの”ワールド・オブ・ホーリー”を使うと、闇に飲まれた世界は再び息を吹き返します。ただし、アビスで消滅した人類は戻りません。輪廻転生の輪に還ります>


 とのこと。

 え、何それ怖い。死を司っているから人類を滅ぼすのも簡単ってこと? ……何かとんでもない存在になってしまっている気がする。いや、今更か……。


「……使わないようにしよう」


 別にこの世界を滅ぼしたいと思っている訳ではないし、思うこともない。わたしは基本的に平和主義者なのだ。


「因みにさ……ワールド・オブ・ホーリーだっけ? こっちを使ったらどうなるの?」


 さっきの説明はアビスを使ってからホーリーを使った場合の話だったし。


<”ワールド・オブ・アビス”の対になる魔法です。”ワールド・オブ・ホーリー”を先に使った場合、まだこの世に魂と肉体が残っていれば蘇生されます。また植物や動物たちも含まれ、云わば全人類蘇生みたいになりますね>


 おい、そっちもやべえじゃねえか。……おっとつい前世の喋り方が。


「なんでわたしこんなやばい存在になっているのかしら」

「シルフィーはやばくないよ? 優しいよ?」


 うっ……この子の純粋な優しさが身に染みる。

 そういう意味でのやばいではないんだけどね……まあ、スールの声はわたしにしか聞こえないし致し方ないか。周りに人が居る時に喋ってたら独り言にしか見えないな……気を付けよう。


「あ、そうだ。君の名前、もし良かったらわたしがつけてもいいかしら?」


 名前がないというのは不便だろうし……名前がないなら別に付けてもいいよね。いやまあ、もちろん本人に聞いてからだけども。


「名前つけてくれるの?」

「君が良ければ、ね」

「うん! 大丈夫。私名前欲しい」

「そっかそっか」


<よろしいのですか?>

「ん? 何が?」

<いえ、問題ないと思いますが>

「それならいいじゃないの」


 そうだなぁ。可愛い名前の方がいいよね? 実際この子は地球人視点で見るとかなり可愛い部類に入ると思う。成長したら可愛い系美少女になると思う。

 金色の髪に若干おっとり気味の赤い瞳が可愛いらしい。んー……リリィとか? 安易かな……でもそんな凝らなくてもいいか。


「ルビィとかいいかもしれないな」


 安直かもしれないけどルビーのように赤い瞳にちなんで。ただルビーだとあれなので、ちょっと変えてルビィ。結局読み方はそっくりなのであれだけど。


「うん。君の名前はルビィ! これからルビィって呼ぶね」

「ルビィ……」


 何か放心したようにこちらを見る。あれ、もしかして嫌だったかな? ってちょっと、泣いている!? え? そんなに嫌だった?!


「違う……ルビィ、いい名前。名前もらえて嬉しくて……」

「……こっちにおいて」

「ん……」


 そう言うと幼女……ルビィが静かにわたしに近寄ってくる。一応、身長はかなり低いけどルビィと比べるとまだわたしの方が高い。

 そんなルビィを目を覚ました時と同じように優しく抱き寄せる。すると、大泣きとまでは言わないけど、静かに泣き始めるのであった。




□□□




「……そうか」

「はい」


 冒険者ギルドレストリア支部のギルドマスターの部屋で報告をする。


「どれほどやばい感じだった?」

「分かりません」

「そうなのか?」

「はい。鑑定しようとしたら弾かれましたし」


 本来は”鑑定”を人に使うことは推奨されていない行為だが、安全性や治安等を考えて冒険者ギルドの一部の者は使うことを許可されている。まあ、やり過ぎや行き過ぎた行為はNGであるが。


「フィリアの鑑定を弾く、か」


 あの時、この支部にやってきた小柄な少女。

 辛うじて1桁年齢ではないと言えそうな……ぎりぎりな少女。しかし話を聞けばあの子の年齢は20歳であり、まさかとは思ってつい鑑定をしてしまった。


「年齢とか基本的なところは見れましたが……かなり魔力を持っていかれましたね」


 そう、年齢とかの基本情報は見れた。嘘でもなく紛れもない20歳だということが分かり、心底驚いた……え? って思ったし。

 でも、今更ながら人間基準で考えるのはよくない。エルフや獣人と言った亜種族の人だって居る訳で。私たち人間と比べると長寿であるし成長速度も異なっている。だから別にあり得ない話でもなかった。


 で、そんな少女の基本的な情報は見れたものの、普通に鑑定した時よりもかなり……いや桁違いの魔力を持っていかれ、一瞬ではあるけどその場でふらついてしまったし。

 数秒見るだけでもきついってどれだけなの、あの子……まともに見られず、わずか数秒で私は鑑定をやめたのだけども。恐らく鑑定したことをあの子は気付いていたと思うけども。確か名前は……。


「シルフィーだったか」

「そうですね。登録した日以来、来ていませんが……」

「そうかぁ……冒険者になるのだから何かあるのだろうが……まあ、冒険者になるやつって言うのは大体、そういった何かを持っている者が多いしな」

「お前から見てどう思う?」

「そうですね……1回しか会っていませんからあれですけど、悪い子ではないと思います。入ってきた時のあれは何か使ったのだとは思いますが、舐められないように、ということで使った可能性の方が高そうです」

「あれはやばかった。この部屋に居た俺すらも冷や汗が止まらなかったぜ……」

「ギルマスもですか」

「ああ。間違いなくあの少女は強者だよ」


 私もあの時は何とか顔に出さないようにすることが精いっぱいだった。後で気付いたけどかなり冷や汗が出ていたみたいで制服がちょっと濡れてしまっていた。


「どのくらい強いと思いますかね」

「そうだなあ……元Sランクとして言うのであれば、間違いなくS以上だな。と言うか判定できん。それくらいやばいってことだ」

「……なるほど」

「確かその子は大鎌を持っていたんだったか」

「そうですね。普通に……片手で軽々しく持っていました。自分の体格よりも明らかに大きい大鎌を」

「……様子見だな」

「ですねえ」


 どうしようもないので様子見。それにあの子が何かをした訳ではないし、考えたところで意味はない。


「来るかどうかわからないですけどね」

「そうだな。既に他の街に行っている可能性もあるな」


 あの少女が何者なのかは分からないけども、何も起きないことを祈りつつ私は報告を続けるのだった。



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