017:神智書庫


「豊穣の神の加護、ね」


 夜。わたしは空を見上げながらぽつりとつぶやく。

 ここは森の中ということもあって星空が非常に綺麗である。満天の星空、1つ1つの星々がはっきりと見える。地球でも星を見上げることはあったけど……うーん、違いが分からないや。

 あ、でも何となく違和感も感じる。こうなんていうのか……まあ、何かが違うって感じると言えばいいだろうか。


 それはさておき。

 夜が更け、ルビィはベッドの上ですやすやと寝息を立てている。現状、ベッドはこの屋根裏部屋に1個しかないからそこに寝かせてあげている。

 ”生成”で作ることもできるのですぐにでも作ろうと思ったけど、ルビィが一緒に寝たいと言ったきたので結局作れずにいた。


 いやだってあんな目で見られたら断れないでしょ。それに少し前のことだってあるし。


「ふう」


 眠るまではわたしにぴったりくっついていた。

 でも不思議なことに何も感じることはなかった。一応、元が男であるという意識は残っている。が、こっちの身体に引っ張られているのか、抱き着かれてもちょっと恥ずかしいと言った感じで済んでいる。


「……かといって男を好きになるとは思えないけど」


 精神はやっぱり男。仮に恋愛するのであればやっぱり女の子だろう。この身体の方にほぼ傾いているけど精神とかまでは流石にない。よく精神まで変わるという話を見るけど、どうなんだろうね?

 まあ、性別が変わるなんて経験がそもそもないに等しいだろう。


「んー。まあいいや。それで、スール。豊穣の神の加護ってどんな感じ? 何となく名前で予想できるのだけど……」

<植物の成長促進等の効果を持つスキルですね。神と付いているので効果も絶大です。季節外れの植物が育ったり、枯れそうな植物を回復させたりなどできます>

「デスヨネ」


 何となく予想はしていた。

 豊穣と付いている時点でそれ関係のものだということは容易に想像できる。それにしても確かにそんな効果を持つスキルであれば、国が囲いそうだな。国が豊かになる訳だし。

 問題はそう言った囲われた場合の待遇だろう。どういう待遇を受けているのか、普通の人には分からないし国も手厚く保護すると言っているらしいが、実際はどうなのか怪しい。


 ……こう考えてしまうのは地球のノベルとかの読み過ぎなのかもしれない。


「……まあ、当分はわたしが保護しよう」


 名前まで付けたのだから。


<その件で報告が>

「ん?」

<彼女……ルビィですが、シルフィーが名付けした影響で進化が発生しています>

「え」

<まだ完全に進化している訳ではないので言いませんでしたが>

「人まで進化するのかい……」

<それほど強大ということです。まだ進化途中ではありますが……完全に進化をした場合、もしかすると”不老不死”が付く可能性があります>

「不老不死……わたしはいいけど、ルビィは人間よね。しかもまだ子供……この状態で不老不死は酷よね」

<まだ定かではありませんので断言はできませんが>

「ふぅむ。余計なことしちゃったかしらね」


 ……不老不死が付いてしまった時はその時はその時、としか言えないな。


<進化先は恐らく……神族。シルフィーが親ということになるため、生と死を司る神の眷属と言ったところでしょうか>

「……まじか」


<ただ、魔力量等が絶対的に不足しているのもあって進化保留の状態ですが>

「そりゃそうか。あの子は普通の女の子な訳だし」


 その辺の他者よりは高いというのはスール談。


「ということはすぐに進化する訳ではないのね?」

<はい。かなりの時間を要するかと思います>

「それならこの子にはまだ言わないでおいた方がいいわね」


 今はとりあえず、ここで楽しく暮らしてもらいたい。余計なことを言う必要はないわ。


「言うてここ、わたしと妖精族しか居ないのだけど」


 わたしは基本的にここに居るけれど、それでも街に行く時ある。その時は妖精族の誰かにルビィのことを頼もうかしらね。


「……」


 寝ているルビィの頭を優しく撫でる。


<なんか精神まで変わってきていませんか>

「それはない……とは言い切れないわね。まあどうせ戻れないし……別にこっちの身体に引っ張られてもいいかなとも思っているのだけど、でも男を好きなることは絶対ない、これは何故か言い切れるわ」

<そうですか>

「にしても、スールもなんかさらに自然になってきていないかしら。一応聞くけど、神眼なのよね?」

<一応そうです、正確には異なりますね>

「え」

神智書庫ワールドライブラリー。この世界全ての記録や人やエルフ等を含む、ありとあらゆるものの情報への接続が可能になりました>

「へ」

<神眼スキルは確かにすべてを見通せますが、世界全てをその場から見ることは不可能です>

「え、でも色々教えてくれたよね」

<はい。その時点で既に神眼ではなかったということです>

「えぇ……」

<シルフィーがわたしに名前を付けた時点から覚醒、いえ進化の兆しはありました>

「あー……」


 なるほど……?

 いやいや……名前つけただけでそうなるものなの? この湖もほんの軽い気持ちで名付けたらとんでもないことになったし……なるのね。


<”神智書庫”は神眼よりも遥かに情報を持ちます。そして対象の心理階層まで覗けるため、相手の噓や考えていることなどを明らかにできます。また、神眼と異なりその場から動くことなく全てを知ることが可能となります>

「……」


 なんかやば過ぎて何も言えないや。世界の記録? アカシックレコード的な?


「……もう何も突っ込まないわ」

<それがいいでしょう>

「とりあえず、今まで通りで問題ないってことでいいのよね」

<はい。色々と教えることが可能です>

「了解っと」


 ……突っ込まないでおくことにしよう。

 別にあって困るものでもないし……要するにこの世界についてより深く知れるということだし……でも何というか一介の人間に与えていいのかっていうスキルたちだよな。


「……」


 とはいえ、くれたのだから別にいいか。

 もし間違って与えたとかであれば、神とやらが居るなら教えてくれるはずだし……今のところ、そういうのはないので大丈夫だろ、たぶん。


<シルフィーも神ですよ>

「……せやな」


 そう言えばわたしも神だったね……いやそういうのではなくて!

 わたしが言いたいのはこの世界にわたしを転生させた犯人のことである。犯人と言うのはちょっと違うかもしれないけど。


 まあ。

 結局今考えても何も分からないし考えるのは一度やめようか。因みにスールに聞いても分からないとだけ返って来たよ。




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