013:サリエル
「いざ冒険者ギルドへ、と言いたいところだけど」
今更ながらこの大鎌の名前を決めようと思う。
あれから全然触れてなかったというのもあるけど、ほら名前があるとやっぱり愛着がわくだろうし、恐らくずっと使うことになる武器だ。あと大鎌だと地味に言いにくい。
「触れていなかったってだけで考えてはいたけれどね」
うむ。実はもう考えていたりする。
「この大鎌の名前は……サリエル」
サリエル。死を司る大天使の名前から取ったものだ。わたしは一応、生と死を司っているのでこの名前を付けても誰も怒らないだろう。それに見た目、死神の持つ大鎌っぽいし。選んだというか考えたのはわたし自身だけど。
<シルフィーの名付けにより大鎌に”サリエル”が命名されました。命名の効果により”サリエル”は”ユニークウェポン”に変化しました。以降、”サリエル”の所有権は”シルフィー”となり、何者も使用することが不可能になりました>
「お、おう」
また名付けの効果が出たらしい。
なんかサリエル、光っているし……それにしてもユニーク? それって。
<”ユニークウェポン”とはこの世に同じ武器が存在しない、唯一無二の固有武器のことです。因みにただ命名するだけでは普通は変化しません>
「わたしだけの武器ってことね」
<ざっくり言うとそうですね。今までの状態だと所有権が確定されてなかったため、他の人でも使えましたが、ユニークウェポンとなった今、使えるのはシルフィーのみとなります。それと途中で何処かに投げてしまったり、紛失してしまっても戻ってきますし壊れても再生します>
「わぁーべんりだなー」
またなんかやらかした気がしないでもないけど……。
「これからよろしくね、サリエル」
サリエルを握って言えば、少しだけ発光した……気がする。それはこちらこそ、よろしく、と言っているようでもあった。
□□□
程なくして。
大鎌の名前もサリエルに決まり、なんかまたやっちゃった感はあるけど気にするだけ無駄なので街へ向かおうとしていた。
のだが……ここで驚きの事実が発覚。
サリエルが変形するようになった。え? それだけって? いやいやこれはかなりすごいことでしょ!? サイズモード、アックスモード、ハンマーモードなどなど……。
「重量系武器ばっかりね」
変形できるようになったとはいえ、ありとあらゆる武器になれる訳ではない。片手剣や両手剣、大剣とか弓矢とかロッドとか……そういった一般的な武器には変形できない。
変形できるのはこういった大きい武器。それなら大剣も大きい武器に入るのでは? と思うんだけど、駄目だった。
「まあ……大鎌で十分だけど」
だって大鎌好きだし。ロマンあるでしょ。振り回してもよし、殴ってもよし、切り刻んでもよしの万能武器である。
<提言。普通はそういう使い方はしません>
「うるさいやい」
そう言えば今更だけど、ちゃんとした戦闘らしい戦闘ってしていないかもしれない。いや、襲ってきた魔物に対しては対処していたけど……。
<転移魔法で移動しているというのもあると思います>
「あーね」
最初こそは徒歩やら空路やらで行っていたけど、そのうち転移魔法の便利さに気付きそっちで移動しているから森の中を歩くということがない。そりゃ魔物にも遭遇しないと戦闘もしない訳だ。
「今更なんだけど、この妖精の泉の結界の外周辺ってどんな魔物が居るの?」
<基本的にA、Sランククラスの魔物が多数生息しています。こちらから刺激しない限り攻撃してこない魔物もそこそこですね>
AとかSとかはいまいち分からなかったけど、スール曰く魔物には目安として危険度が設定されているとのこと。これを設定することでおおよその魔物の強さや脅威度が分かるようにし、無謀かつ無茶な行動を起こさないように抑制しているのだとか。
魔物の危険度は一番下をFとしてE、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっている模様。ただし、あくまで目安であり正確さは保証されない。それに既存の魔物にしか意味がなく、何らかの影響で生まれた新種の魔物とかには全く意味を成さない。
そういうのもあって、魔物の情報というのはできる限り冒険者ギルドに報告するものとしている。見慣れない魔物が居た場合も報告するべきである。
<この辺りで多いのはAランクのフォレストベア、時期にもよりますがアサシンビー辺りでしょうか>
「名前だけでどんな魔物なのか想像つくわね……」
<あとはキラースパイダーも居ると思いますね>
……まあ森だしね。
とりあえず、この辺はもう最奥部と言ってもおかしくない場所なので魔物もやばそうなものが多いということだ。そして人類未踏の地でもある訳で。
「街に行こうかと思ったけど、一度戦闘の経験積んだ方がいいわね」
<肯定します>
いくらチートなほど強くとも油断してやられては元も子もない。とはいえ、致命傷を負ったとしてもわたしの場合は”不老不死”があるので死ぬことはないけど、それでも痛みとか苦しみとかそう言ったものは普通にあるためなるべく被弾は避けたいところ。
確かに一定期間以内に依頼を受けないといけないという最低限の決まりはあるけど、別にすぐという訳ではないのでまだ大丈夫だ。確か半年だっけ? 普通に余裕あるよね。
「いきなりこの辺りの魔物と戦うのはあれだからまずは中層辺りからかしらね」
<上層ではないのですか?>
「うん。ほら、上層ってそこまで強い魔物が居ないし、人の出入りが激しいでしょ? そこで戦っていたら嫌でも見られるだろうし変に目立つから」
<それなら中層もそこそこ出入りがありますし、下層の方がいいのでは?>
「あー……うーん」
中層も若干手強い魔物が出てくるものの、それでも普通に経験者であれば対処は簡単だ。上層よりは少ないだろうけど、レストリアは冒険者の数が多い街。
初心者も居るだろうが、中級者やら上級者やらの冒険者も当然居るので中層をメインにしている人もそこそこ居るだろう。
「下層、かあ。わたしでも対処可能?」
<肯定します。戦闘経験は少なくとも、シルフィーのスペックはこの世界では常軌を逸しています。そもそもシルフィーに敵う相手なんて存在しません>
「まじか」
<はい。というかシルフィーは自分がこの世界の神の一柱であることを自覚すべきです>
「そう言われもねえ……異常だということは分かるけれど」
元人間に神と言われてもいまいちピンとこない。でもまあ……それなら大丈夫かな。
「まあいいや……それなら下層にするかあ」
そんなこんなでわたしの戦闘の経験積みが始まるのだった。
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