012:ゲート


「それにしても短期間で色々ねえ」


 夜、ベランダから外の湖を見ながら呟く。

 所々発光しているものは今回妖精族となった存在である。ここから見る限り、みんな楽しそうである。


「……」


 領地経営なんてものを覚醒してから少し経過した今、時々妖精族のみんなが森で採れた木の実や果物を持ってきてくれるのもあって自分で回収する必要がないという。

 時々とは言っても1回の量がそれなりで、何なら毎日持ってこようとしていたのでそこは止めた。そんな供給されても食べきれないというか消費しきれないのだ。


「妖精族ね……気のせいじゃなかったらみんな女の子寄りの容姿になってない?」


 最初は中性的な容姿をしていたのに。服装もなんか変わってきている。


<肯定します。シルフィーの魔力や聖力等の影響かと。そもそも性別のない存在だったようです>

「無性ってやつ?」

<はい>


 なるほどありがちだな。

 それにしてこの子たちって……どういう存在だったのだろうか? わたしの影響で妖精族になったようだけど、その前は種族がなかったらしいし。それとなく彼? 彼女? たちに聞いても何も知らない様子だったし。


<偶然や奇跡といった類の複合的要因かと判断します。とはいってもわたしでも分からないのですが>

「スールでもかー」

<数百年間の歴史を遡っても該当するデータがありません>

「それってもしかして数千年だったら何かある?」

<否定はできませんね。遡って調べることもできますがどうしますか?>

「いやまぁそこはスールのペースでいいと思うわ」


 別に今すぐ何が何でも知りたいって訳ではないから。気になりはするけどね。

 因みに妖精族の容姿って言うのがまあ、女の子寄りになっていて髪が長い子も増えている。服もスカートとかワンピースとかの女性寄りになっているし、声もまだ中性的とは言えるけどそれでも少女のものに近くなっている。

 それで妖精族のみんなは木の上とか、ちょっとしたところに家を作って過ごし始めている。こんな感じに外を飛び回っている子も居るけど、流石に深夜過ぎると静かになって行く。


 ただ妖精族は知っての通り非常に小さな身体をしているのでどう暮らそうとも全くスペースを使わない。家もサイズに合わせて作っているから場所も取らない。


「結構な面積の土地があるし、何なら街とか作れそうな場所よねえ」

<肯定します。王都に近しい街を作ることも可能です>

「まあ街を作ったところで人が居ないけどね」

<肯定します。現在の人口は妖精族のみで100人程になっています>


 それは逆に言えば妖精族が100人も居るという訳だ。多いか少ないか……村ならあり得る規模だけど街だと少ないかな。

 そもそも……妖精族の大きさを考えると人間サイズの平屋1つあれば10人以上は普通に快適に過ごせるレベルだ。


「まあ既に基盤が出来ているよねぇ」


 基盤どころかもう普通に暮らせそうだ。

 食料問題もなくなるし、水の問題もない。湖の水は聖力とかの影響で綺麗に保たれている。何か汚れが出てもすぐに浄化されるので飲料も普通にできる。


「ま、水だけでは流石に飽きるけどね」


 それはそうだ。

 そういう時は果物の汁とかを混ぜて果実水にすることもできる。とはいえ、お酒とかそういうものは流石にここだけでは作れないから、お酒については街に出る必要がある。飲んでみたい気はあるな。


 生成を使えば作れなくはないけどね。


「そう言えば最奥部を抜けると何処に出るのかしら。海?」

<このマジカルフォレストは最北端に広がる大森林です。抜ければ普通に海に出ますが、気候の影響で一部凍っている場所もあります>

「あー」


 そう言えばここセントラル大陸の最北端だっけ。

 北の方が寒いって言うのはこの世界でも共通みたいだ。今更ながら寒い気候であることを忘れていた。


「まあセントラル大陸の最北端ってだけだものね」


 このセントラル大陸以外にも違う大陸がいくつか存在しているようで、この海を挟んでさらに北に行けば北極大陸と呼ばれる大陸があるらしい。そっちは本当に寒いとのこと。

 セントラル大陸との交流は少なく、距離もそれなりにあるし移動手段が船しかないので当たり前だけど、そっちの大陸の情報は少なめだそうで。そんな海路も結構危険が伴うみたいで、本当にたまに交易船が来る程度のようだ。


 それにしても北極大陸ってなんだか変な感じだなあ。地球は北極はあるものの大陸ではないからね。

 因みにこのセントラル大陸は確認されている全ての大陸の中では一番広い面積を保有している。


<今更ですがこの場所にゲートを設置することを提言します>

「ゲート? あー」


 はっとなる。確かに設置した方がいいか。

 ゲートというのは”転移魔法”の1つで、設置した場所と場所を繋げる魔法だ。形は術者が自由に弄れるけど基本的に門の形をしていることが多い。分かりやすいもんね。


 ずっとここに居るのであれば問題ないけど街に行く時とかはあった方が便利か。普通に”テレポート”で飛んでくることもできるのだけど、テレポートは自由に使える反面、移動する距離によって消費する魔力が大きく変動する。

 こことレストリア程度であれば問題ないけど、さらに遠くに行った場合とか戻ってきた時にかなりの脱力感に襲われるのは避けたい。あれ意外ときついんだよ。


 その点、ゲートであればテレポートよりは自由度は下がるけど場所は固定しているのでその分消費する量が少ない。テレポートと違って距離による消費量増加のデメリットがない。詳しいことは知らないけどね。


 まあテレポートもこの場所からどこか遠い場所に飛ぶ分には問題ない。ここには空気中の魔力が豊富だから自分の魔力を使う必要がないからね。戻ってくる時はどうしようもない。

 使い方は非常に簡単。設置したい場所にゲートを設置するだけ。後は移動先でゲートを唱えればこっちに飛んでくる。


「じゃあまあ……庭に置こうかしらね。――ゲート」


 ログハウスから一度外に出たすぐの場所に設置しておく。

 言い忘れていたけど、テレポートはゲートの一応上位互換になる。さっき説明しただろうけど、好きな場所から好きな場所に転移できる、それがテレポートだ。

 ゲートとの違いは行き先が固定されないという点。例えばレストリアからここに戻ってくるというのはゲートでも可能だけど、レストリアから違う街に飛ぶということはゲートではできない。


 テレポートは記憶さえあれば好きな場所に飛べる代物。レストリアから王都に行くことも可能だ。まあ、今は王都の記憶がないので行けないけど。

 ゲートはあくまで何処かからでも設置した場所に戻ってこれる、ってだけである。


「あれ、今更だけどゲートとテレポートの組み合わせって最強?」


 こっちから遠くに行く分にはここにある自然の魔力を使えるから実質負担がない。帰りは負担するけどここにゲートを置いたし、戻る時はゲートを使えば……。


<今更ですね>

「……はい」


 まあ、あくまで戻るならだけど!

 転移先からまた違う場所に転移する場合は結局負担になるし。スキルも魔法も使いどころさんってやつですな。


「とりあえず、ちょっと冒険者の仕事でもしようかしらね」


 手始めに、というのは何か違うかもしれないけど。

 素材を売った時に依頼の方がたまたまあって、それで達成した以外依頼をやっていないし。どんなものなのか……やってみようじゃないか。


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