008:冒険者


 突然だが、神眼スキルの効果は分かったと思うけど、では魔眼は何かと言われれば。


「効果は様々で、呪いやら状態異常やらオーラやらを出すスキルでこっちもそれなりにやばいのよね」


 具体的に言えば相手に様々な状態異常を付与できる。どの状態異常を付与するかは発動者が決められるという。

 麻痺や毒といった定番の状態異常は当然のこと、呪いすらも付与できる。呪いについては色々あるので説明は割愛するけど、やばいスキルであるのは変わりない。


 で、実験がてらに魔眼を使った状態でギルドに入った訳だ。え? なんで? ってなるかもしれないけど、一応自己防衛のつもりでもある。

 よくある話だと舐められて絡まれるというやつ。この世界にそのテンプレが適用されるかは知らないけど、そういうのは正直面倒だし怠い。一般的な主人公なら決闘とかして分からせるのだろうけど、それすらも面倒。


 ではどうするのか?

 大体このテンプレを受けるのは実力を隠しているからだ。だからこそ、それに気付けない馬鹿な連中がここぞとばかりに絡みに来るのだ。

 それならもう入った瞬間、誰でも分かるような強者の風格というのを見せつければいい。いやまあ、そういうのが存在してなかったらどうしようもないけどさ。そういう時は何か強そうな魔物を引き摺って見せつけるように持ってくればいいと思う。

 でも大体そういうオーラ的何かあるんじゃないかと思う。例えば殺気とかね。それを思いっきりぶつけてやれば相手も恐れ戦くと思う。よほどの馬鹿じゃなければ。


 で、そんな絡まれ対策として魔眼を使うことにする。付与する状態異常は恐怖。後殺気も出しておいた方がいいだろう。


 そういう対策をしていざギルドに堂々と入った訳だけど、急に静かになった。効果は抜群のようでギルド内に居る皆さんは怖がっている様子。受付嬢もびっくりしている。ちょっと悪いことしたかな?


 とまあ、それで空いているカウンターに言って話をしたのだが、そこですっかり解除することを忘れていて受付の女性に指摘されてからはっとなって解除した。





 結論から言うと冒険者登録はすんなりとできた。ただ実年齢を知ると受付の人が驚いた顔をしていたのはきっと気のせいではないだろう。


 見た目ロリと言っても過言ではないしな……それで20歳と日本では成人であるし、この世界でも結構高めの年齢である。因みにこの世界での成人は15歳らしい。


「ふぅ。悪いことしたかしらね」


 仕方がない。絡まれて面倒になるよりはましだ。

 効果は抜群らしく、登録する際にいったん受付嬢ことフィリアさんというらしいけど、フィリアさんが離れた時もちらちらこちらを見ている人は居たけど絡みに来る人は居なかった。


「大鎌だけでも結構な威嚇だったかしらね」


 事実、片手で持っている大鎌を見ていた人は物凄い顔で見ていたもの。身体より大きなこの大鎌を片手で持っている、なんてその力を示しているようなものだもんね。


「これで身分問題は大丈夫そうね」


 森で倒したフォレストウルフの皮とか肉の素材を一部売ろうとしたところ、丁度それらを指定している依頼があったのでそっちで対応してもらった。


「んー……フォレストウルフの皮と肉その他諸々で3万シルねー」


 森を抜けている間に結構魔物と遭遇したのでそれらも含めている。まあ、一部素材は自分で持つことにしたけど。

 ……というのも、わたしのスキルの”生成”は実は素材とかを代わりに使うことができる。特に制限はなく何でも大丈夫で、そう言った物を用意することで消費する魔力量を減らすことができる。


「魔力量自体は無限だからいいのだけど」


 消費する時のあの感覚ばかりはどうしようもない。少しでもあれを抑えるためにも森に居ればいつでも手に入るような素材とかは一部手元に置いておきたい。

 因みに一番コスパ? がいいのは魔石を使うこと。魔石は普通の素材と比べて豊富な魔力を含有しているのでそれ1つで普通の素材何個以上もの役割を果たしてくれる。


 とはいえ、魔石はそこそこ貴重なもので魔物から稀に手に入るか、本当に稀に鉱山から発掘される代物である。ただ、ダンジョンからはそれなりに見つかるため発展しているところでは安売りされているとか。

 それでもそれなりの値段がするらしいけど。


「そう言えばトイレに使っているのも魔石だったわね。あれは水の魔石だけど。……もしかして魔石作れてしまうのでは?」


 生成する際にどれくらい魔力を消費するかは分からないけど。


「え? 別に魔石を”生成”で作らなくてもその辺の石にわたしの魔力を少し流し込むだけで魔石になるって?」


 そこで神眼スキルさんがそう教えてくれる。うん、やっぱりこのスキル何か意思がるわね。そう考えると神眼スキルさんって呼ぶのはあれかな? ……後で名前考えてみよう。


「ふむふむ……」


 その辺に転がっていた石を幾つか集めて目の前に置いてそれを見ながら唸り声を出す。

 いや別に神眼さんを疑っている訳ではない。まずは試そうと思って集めたのだけど、魔力を流し込むって言ってたっけ。


「魔力……魔力」


 なんとなく分かる気がする。石を1つ掴み、そっと目を閉じる。多分これが魔力の流れだろうと思うものを見つけ、それを石の方に移動させるというか流し込むというか……水をかけるイメージ? いや違うか。


「ふう」


 一瞬だけ石が輝き、何かがちょっと抜けた感覚。これは上手くいったっぽいかな。


「おー……紛れもない魔石だね」


 その石を神眼で確認すればちゃんと魔石となっていた。


「というか……聖邪魔石?」


 ん? なんだこれ。いや、魔石なのは間違いないけど……火の魔石とか水の魔石とか、属性が書いてない。聖邪とは。 え? 本当に滅多に見つからない非常に貴重な魔石、だって?


「……なるほど」


 よく確認してみると光と闇の魔力を含有する魔石みたいだ。本来なら混じることない相反する属性の魔力同士。それが一緒に1つの魔石の中に含有されている。


「これ1個で数百万シルは下らないとな……あれ、なんかやばいもの作ってるのでは」


 今更だけど”シル”というのはこの大陸で使われている共通通貨である。

 1シルが鉄貨1枚で換算されていて、10シルが銅貨1枚、100シルが銀貨1枚、1000シルが大銀貨1枚、1万シルが金貨1枚、10万シルが大金貨1枚、100万シルが白金貨1枚となっている。

 一応、白金貨の上に聖貨と呼ばれる最上位通貨があるが、それを目にすることは滅多にないとのこと。因みに聖貨は1枚で1000万シルである。


 そもそもこの世界の物価は地球と比べると非常に安い。平民が普通に働いて1ヶ月で稼げるお金は金貨3枚、3万シルである。

 3万シルがどの程度かと言えば、4人家族がたまに贅沢をしても1ヶ月は生活できる金額である。流石に2ヶ月は無理だが、それでも1ヶ月超えて生活することも出費次第では行けるし、貯金もできる。


「まあ、野菜とかお肉とかも高いやつじゃなければ一桁シルだからね」


 因みにおおよその高級度合いとしては、鉄貨数枚は一般、銅貨数枚はそこそこいいやつ、銀貨数枚は高級、金貨数枚は超高級と言った感じ。

 こう考えると冒険者の素材や依頼での稼ぎが破格と言えるだろう。何せ、わたしも3万シル稼いだ訳だし。


「……」


 まあ戦う力があれば、なんだろうけどね。

 わたしもこの力がなかったらこんな稼げないだろうし、そもそもそんな状態で魔物と遭遇したら死んでいたかもしれない。

 基本的に冒険者は危険と隣り合わせだし、それらを覚悟した上で冒険者たちは戦ったりとかしているのだ。命の危険を考えると安いのかもしれない。


「やっぱり安定収入は正義なのよね」


 かといってこの世界で働くことはたぶんないけど。基本的に魔物とか、素材とかを集めて売って換金して稼ぐ方針にしようと思う。依頼も受けられれば受ける感じでね。


「よし……」


 ひとまず、収入関係はそうすることにし、せっかく街に来たのだから何か買ったり食べていこう。そう決めて、わたしはギルドから街へ出るのだった。






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